VOSTOK8 blog - Astronaut' Monologue TOP  >  長編:レンカ

レンカ last song

何時だったかワタシは


左腕に5つの言葉を刻んだ。


其れは


刻んでから捨てるべき5つの言葉だった。


ゆっくりと深くナイフで5つの言葉を刻んだ。


流れる血は機械の油のように無機質に感じた。


5つの言葉を深く深くワタシの左腕に刻んで。


最後にワタシは、ワタシの左腕を切り落とした。





嗚呼、コレでもう何も感じなくていい、と。


















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last song


















もう何も感じなくていいと思った。

だけどワタシは

今もきっと沢山の事を感じてる。




誰かの歌が聴こえた。

誰かの肌に触れた。

花が咲いた。

花が枯れた。




ずっと孤独感や虚無感と仲良くしてきた。

あの戦争で沢山のモノを見たワタシには

何時でも跡形も無く消える覚悟もあった。




誰かの歌が聴こえた。

誰かの肌に触れた。

花が咲いた。

花が枯れた。




見てみたい風景がある。

ソレを思い浮べてみる。

見てみたい風景がある。

延々と遠くまで広がる

甘く紅い果実のような

ドキドキするような風景がある。






何時だったか、左腕を切り落とした。

捨てるべき5つの言葉を刻んでから。




個々は各々に蠢き

身勝手に感情を吐露し

理不尽に、傷付け、傷付き

生死する。

もう何も見たくなかった。








だから、5つの言葉を、刻んだ。








「Ravage」

破壊と略奪。







「Envy」

嫉妬と羨望。








「Neglect」

怠慢と放置。








「Kill」

殺す、枯らす。








「Alive」

生きる。










ソレラの言葉の頭文字を


ワタシは左腕に刻んでいった。


ゆっくりと。


ゆっくりと。


































血が流れた。



醜さや悲しさが



左腕から紅く流れた。



左腕が泣いた。



ワタシも泣いた。







嗚呼、コレでもう何も感じなくていい。





個々が、各々が、人々が。


あの戦争でワタシに見せつけた


刻んで捨てるべき、5つの言葉。


R E N K A。










ワタシは、左腕を、切り落とした。
















ソレでもワタシは


日々を生きている。


色々な事を感じながら。


優しい風景を


風を


空を


海を


眺めたりしている。








そうして生きている。








花に水を与える。


綺麗な花が見てみたい。


何時か見た水の中の花。


例えばだけれど


あの花が欲しいと思う。




RENKAを刻んで捨てたワタシは


ソレでも左腕を無くしてなんかはいない。


笑って生きてる。


そして泣いてる。




窓を開け花に水を与える。


もう歌は聴こえなかった。




窓を開け花に水を与える。


もう歌が聴こえなくなって


どれ位の季節が過ぎたかしら。




あの雪しか降らない町を離れ


どれ位の季節が過ぎたかしら。








窓の外を眺める。














遠くに誰かが立っていた。















男の人だった。



右腕の無い男の人だった。



アレは誰かしら。



ワタシは何も言わず



右腕の無い男の人を眺めた。



アレは誰かしら。



























































笑った。



























































自由に舞い、お生きなさい。


























































そして触れ合えたなら素敵な事だ。


























































絶え間なく続くレンカ。



























































嗚呼、絶え間なく、続く、レンカ。









END

[ 2008/12/12 13:28 ] 長編:レンカ | TB(-) | CM(-)

レンカ song : 9

花は散るらん

僕と君。

互いに笑い

互いに失い

互いに会い

ひたすらに交わらうとすれど

ただ恐るるは

互いを見れなくなる事と知り

無言の内に遠く離れ

無口にひたすら考え

其の思考の中で

君は君の腕を切り

僕は僕の腕を切り

やがて此の地で共になり

ただひたすらに

互いの顔を残す事を望んだのです。



向かい合う顔の話。



嘆くべきは

其れを最後の日まで伝えず居た僕と

嘆くべきは

其れを独り苦悩の果て決断した君の



花は散るらん

僕と君。

互いに笑い

互いに失い

互いに会い

自立すべき僕は僕で在り

成熟された君は君で在り

個は何処までも個なのだと

ひたすらにそう知ったのです。








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song : 9








花が枯れた。



暗い

寒い

部屋の中で

僕は

泣いた。

延々と泣いた。

徹底的に泣いた。



もう花は何処にも無かった。

もう少女も何処にも居なかった。



咲いた花を

枯らせてしまったのは

誰でも無く不甲斐無い僕だった。



僕は此処から出なかった。

延々と綺麗な歌を歌うだけで

此処から何処にも行かなかった。



少女に会いたかった。

此処から出て会いに行こうと思った。

だけどそんな行為は

今じゃもう自己愛撫に過ぎなかった。



泣き止んで

煙草に火を点け

窓の外を見ると

何時か少女が立って居た

寒そうな場所が目に入り

また泣きじゃくった。





花を枯らせてしまった。






僕は笑わなくなった。

誰の歌も歌わなくなった。

暗く寒い部屋を見渡した。



僕はもう此処を出なくてはいけなかった。

花を育てられる人間になりたいと思った。





人は独りだ。

どんなに想っても

どんなに慈しんでも

どんなに触れ合っても

同じ人間にはなれない。



人は独りだ。

例えば僕や君の体が溶けて

一個の体になったとしても

其れは寂しさを増すだけで

また延々と誰かを求めるだろう。



一個になってしまったら

もう二度と

互いの肌に触れられないし

互いの顔も見られないんだから。



独りで生きる必要が在った。

雪の降り積もらない

暖められた部屋の中で

誰かの為に綺麗な歌を

延々歌い続ける行為を

もう止める必要が在った。



花を育てられる人間になりたいと思った。

きっと生まれて自分で初めてそう思った。



僕は恵まれた環境の中で

戦争にも行かずに済んで

痛みを、苦しみを、悲しみを

きっとずっと避けて生きてきた。

誰かと一緒になりたいと思っていた。

溶けて共になり、何も感じない程に。







個は、何処までも個だ。








煙草を吸った。


手紙を読み返した。


少女が部屋に居た


刹那を


刹那を


延々と思い返した。





少女には左腕が無かった。


もしも僕が少女の左腕に


失くして尚、伸ばす左腕に


もしも何かを想うのだとしたら?














僕は家を、離れた。














幾つかの荷物を背負い

僕は独りで部屋を出た。

あの部屋から歌を歌う事は

もう二度と無いだろうと誓った。










雪が降ってきた。


冷たい雪だった。


誰も居なかった。


雪が


歩く僕の体に積もり


雪の降る道を歩きながら


嗚呼、是が雪だったなと


僕は思った。






空を見上げた。





嗚呼、降り落ちる。



雪。



雪。



雪。



一粒。

一粒。



空から落ちる。

白く冷たい粒。



雪。



雪。



雪。



一粒。

一粒。



手の平で溶ける。

白く柔らかい粒。



嗚呼

コレは雪だ。



雪が

落ちてくる。



止め処なく

増えていく

落ちてくる。





雪。





雪。





雪。





雪。   雪。





雪。   雪。   雪。





雪。  雪。  雪。  雪。





雪。 雪。 雪。 雪。 雪。 雪。





雪雪雪。雪雪雪。雪雪雪。雪雪雪。雪雪雪。




雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪。雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪。




雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪
雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪。




雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪
雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪
雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪
雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪
雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪。




雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪
雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪
雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪
雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪
雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪
雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪
雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪
雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪
雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪
雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪
雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪
雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪
雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪
雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪
雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪
雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪
雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪
雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪
雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪
雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪
雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪花雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪
雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪
雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪
雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪
雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪
雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪
雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪
雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪
雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪
雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪
雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪
雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪
雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪
雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪
雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪
雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪
雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪
雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪
雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪
雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪
雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪
雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪
雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪
雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪
雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪
雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪
雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪。

























命。















命は


暗い空を白く。


命が


更に命を重ねていく。




嗚呼


コレは命だ。




命が、降ってる。







































































僕は、右腕を、切り落とした。







































































互いの顔を優しく眺めながら


互いに失くした腕を愛しく眺めながら


決して一個の存在になりたい訳じゃなく


決して全てを共有して欲しい訳じゃなく


個は、個として


強く、優しく、生きる。






絶え間なく続くレンカ。






何処からか誰かの声が聴こえた。








「アナタは、笑っても良いのよ。」







聴こえる筈の無い声に


僕は雪の道を振り返り


崩れるように、泣いた。


其れから


少しだけ、笑った。






君も何処かで笑っているといい。






一個になるんじゃない。



力強い、個と個になれ。



其れから寄り添う腕を。












咲いて





散った





睡蓮の名の元で





何時か、また





力強く歌う恋の歌を。




力強く咲く恋の花を。






絶え間なく続くレンカ。






ありがとう。






僕達は、最初から最後まで、自由だ。

[ 2008/12/11 11:01 ] 長編:レンカ | TB(-) | CM(-)

レンカ song : 8

雪が止んだ。


町に雪が降らなくなった。


雪が止んだ。


僕は歌を歌わなくなった。





此の町に雪は、降らない。








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song : 8








少女が部屋を訪れた吹雪の夜。

あの次の日からもうずっと

雪は降っていなかった。



少女からの手紙も来なくなった。

窓を開けても誰も来なくなった。



僕は窓際に座り

誰も居ない其処を見た。

気が付くと

窓際に灰皿を置き

煙草に火を点けた。



窓際で煙草を吸う癖は

もう抜けたと思っていた。



少女からの手紙も来なくなった。

窓を開けても誰も来なくなった。



何時しか僕も歌を歌わなくなった。



理由はよくわからなかった。

どうして手紙が来ないのか。

どうして此処に来ないのか。

どうして歌を歌わないのか。

ただ、もう、雪が降らなかった。



辺りは静かになった。



どうして歌わないんだろう。

少女が来ないからか。

どうして歌わないんだろう。

音が無くなっていく。



ただ、もう、雪は降らなくなり

太陽の照らす暖かい日々が続いた。






手紙が届いた。








「花が、咲きました。」








花。

そうだ。

僕と少女は互いに種を蒔き

花を咲かせようとしていた。



花。

そうだ。

少女は花に水を与え続けて

そうして花を咲かせていた。



だけど花は咲いたけれど

僕はどうすれば良いのか

何もわからなかった。



少女が来なくなって

歌を歌わなくなった。

ただ静かになっていく部屋の中で

僕は少女の肌に触れたいと思った。

無言のまま。



花は咲いたけれど

僕は何もしなかった。

花の歌も歌わなかったし

見に行く事もしなかった。

僕は此処から出られないから。



ただ静かになっていく部屋の中で

僕は少女の肌に触れたいと思った。

無言のまま。




雪は降らなかった。



静かな日々だった。



雪は降らなかった。



だけど本当は何一つ



静かな訳じゃなかった。



かすかな音に耳を澄ませられたなら。



手紙が届いた。










「花は、枯れました。」












僕の歌は

僕の為に

歌うべきだ。



僕の歌は

誰かの為に歌えるような

そんな立派なモンじゃない。



僕の歌は

僕の為に

歌うべきだ。



僕の歌も

まだロクに歌えないのに

誰かの為に歌おうなんて。









再び、雪が降ってきた。









此の町に花は咲かない。

毎日雪ばかり降ってる。

地面は雪の下に隠れる。



此の町に花は咲かない。

なのに種を蒔く人が居た。

花を咲かせようとしてた。



此の町に花は咲かない。

だけど僕達は子供みたいに

何時か花は咲くんだと思ってた。



僕は無知に。


君は純粋に。






そして

花は咲いた。






そして

花は枯れた。






大切なのは

花を育てる力が

僕に有るかどうかだったんだ。








ただ、馬鹿みたく、僕は泣いた。

[ 2008/12/10 14:15 ] 長編:レンカ | TB(-) | CM(-)

レンカ song : 7

此の町に花は咲かない。

毎日雪ばかり降ってる。

地面は雪の下に隠れる。



此の町に花は咲かない。

なのに種を蒔く人が居た。

花を咲かせようとしてた。



此の町に花は咲かない。

だけど僕達は子供みたいに

何時か花は咲くんだと思ってた。



僕は無知に。


君は純粋に。








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song : 7








数ヶ月が経っても

相変わらず僕と少女の関係は

2階の窓を隔てた関係だった。

相変わらず僕は此処を出られずに居たし

相変わらず少女は手紙を書くだけだった。

もっと傍に行きたかった。



僕達が交わした

沢山の歌と手紙は

僕と少女を深くしたけれど

此処から出られなかった。

もっと傍に行きたかった。





そして、あの日が来た。





あの日は吹雪だった。

此の町に冬しか来なくなって一番の吹雪。

部屋の窓を開ける事さえも出来ない吹雪。

窓の外は真っ白な雪で何も見えなかった。

今すぐ僕は外に出るべきだった。

きっと少女が待っている。



恵まれた環境に居た僕は

此処から出ずに居たから

戦争にも行かずに済んだ。

外で起こる汚さも醜さも

僕はまるで知らなかった。

ただ指先に付いた小さな傷を

何時までも騒いでいただけだ。






本当の痛み。






少女は吹雪の中で待っている。

此の窓からは見えないけれど。

必ず居る。



僕は部屋を出て階段を下りた。

だけど外に出るのは怖かった。

僕は玄関の前で立ち止まった。

すると家の人間が呼び止めた。



「外で、人が待ってるんだ。」



小さな声で僕は言った。

家の人間は意味がわからないという顔をした。

こんな吹雪の中で人が待っているなんて。

それも部屋から出られない僕を待つ人が。

すぐに部屋に戻るように薦められた。

当然だ。



「だけど本当に外に人が居るんだ。」




家の人間は不思議そうな顔で玄関の扉を開けた。

途端に冷たい風と雪が勢いよく玄関を荒らした。



「じゃあ、一緒に来てよ。」



僕は家の人間に言った。

外に出られない僕の精一杯だった。

戦争以来、家を出られなかった僕は

そうしてとても久し振りに外へ出た。



吹雪はとても強く激しく。

少し先に何が在るのかさえわからなかった。

周りに何が在るのかまるでわからなかった。




冷たい。



冷たい。



冷たい。




吹雪の中を僕は歩いた。




冷たい。



冷たい。



冷たい。






視界が全て白く染まる吹雪の中。






何時もの、部屋の、窓の、前。












其処に少女が、居た。












今までにも何度も

此処に少女が居て

僕は驚いた。

だけど。



少女は吹雪の中で

何時もの黒いシーツも

雪で真っ白に埋まる程の

こんなにも痛い雪の中で

あの日も此処に居たんだ。




僕は少女に近付いた。

すぐ傍に少女が居た。

不思議な感覚だった。

僕と目が合うと

少女は何時ものように

笑った。








「僕の部屋に行こう。」








部屋を暖めて


少女を部屋に入れた。


少女の髪に積もった雪を


僕は撫でるように払った。






「来てくれて、ありがとう。」






静かな時間だった。


会話は無かった。


少女は話せないし


僕も話さなかった。


ストーブの音だけが


不恰好に響いていた。




少女が静かに


手紙を差し出した。


雪で濡れた手紙を。










「外は吹雪。

 アナタに会いに行きます。

 だけど今日は

 ワタシがずっと大切にしてきたモノを

 アナタに会う前にひとつ捨てていきます。

 それはあの戦争を生き抜いたワタシの

 きっとずっと生きる支えだったんだと思う。



 外は吹雪。

 ずっとこういう日を願ってたのかも。

 狂うような吹雪。

 何も見えない程。

 全て白く染まり。

 何も見えない程。



 狂うような吹雪。

 何も感じない程。

 体は白く埋まり。

 何も感じない程。



 汚さも醜さも

 全て白くして

 やがて溶けて水になる。



 そんな日を願ってたのかも。



 外は吹雪。

 今日もアナタに会いに行きます。

 だけど今日は

 ワタシがずっと大切にしてきたモノを

 アナタに会う前にひとつ捨てていきます。



 そうして無事に、アナタと、もう一度会いたい。」










僕は泣いた。


此処に来る前に


少女が捨てたモノ。


其れが何だったのか


どれほど大切だったのか


僕にはわからなかったけど。




触れたいと思った。


例えば抱きしめたいと思った。


そして今はもう、其れが可能だった。








互いの唇を付けた。








其れから抱きしめた。








何度も。








何度も。








黒いシーツに手を伸ばす。


少女の表情が少し変わった。


構わず僕はシーツを取った。


少女は右手で、体を隠した。






不恰好にストーブが音が立てた。






白い肌だった。


左腕が無かった。


胸や、腰や、脚が


肉体の数箇所が


少女の白い肌を


拒否するように


機械だった。










綺麗だった。










少女は身を小さくして


右手で体を隠していた。


僕の反応を恐れていた。










綺麗だった。









だってこんなにも生きている。









「綺麗だよ。とても。」








僕は泣いた。


泣きながら


何度も愛撫した。



そう。



何度も。



何度も。








少女の胸に耳を当てた。




音。



音。



音。





機械で覆われた体が


心臓の鼓動を響かせた。





音。



音。



音。





僕は思い出した。


何時か受話器から聴こえた


声のような


曲のような


低くて高い


弱くて強い


不思議な音を。









「嗚呼、君の、生きてる音だったんだ。」







すると



少女も僕の胸に耳を当てた。



目を閉じて。



嬉しそうに少しだけ笑った。



だから



僕達は唇付けた。



唇、付けた。








外は吹雪だった。








とても静かだった。












翌朝、少女は部屋を出た。

僕は窓から後姿を眺めた。

たった14時間の出来事だった。












此の町に花は咲かない。

毎日雪ばかり降ってる。

地面は雪の下に隠れる。



此の町に花は咲かない。

なのに種を蒔く人が居た。

花を咲かせようとしてた。



此の町に花は咲かない。

だけど僕達は子供みたいに

何時か花は咲くんだと思ってた。



僕は無知に。


君は純粋に。










そして、雪が止んだ。

[ 2008/12/09 11:09 ] 長編:レンカ | TB(-) | CM(-)
目次
★説明




★短編






★長編小説














★短編






★お笑い








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