VOSTOK8 blog - Astronaut' Monologue TOP  >  長編:ボクラが残したコトバ

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ボクラが残したコトバ 最終話『残』

日記が残っていた。



あの日老女に渡された日記。

愛した女が付けていた日記。

そう

最後の日まで。



日記が残っていた。



数冊。



そっと

ページを捲る。

中途半端なページ。

実に何気無い

或る日の日記。






ページを捲っていく。






其処には女の日常が在った。

確実に息をして生きていた。

懐かしい女の文字と

懐かしい女の息吹が

広がった。












日記が、残っていた。






















icon-last.jpg
最終話 『残』






















10月18日 雨

今日も雨。最近雨ばっかり。

今日は彼の部屋に寄って一緒にテレビを見た。

夕食は彼の部屋でパスタ。

でもちょっと茹ですぎたなぁ、あのパスタ。





10月19日 雨

仕事が休みなので昼から彼の部屋へ。

行く前にビデオ屋で「グランブルー」を借りる。

部屋に着くと彼は予想通りまだ寝てた。

彼を起こして一緒に「グランブルー」を観る。

彼に感想を訊くと「スゴかったね」としか言わなかった。

アレは絶対途中から寝てたと思う。もう。

そういえば今年は海に行かなかったなぁ。





10月20日 晴れ

今日は少し暖かかったので仕事は楽だった。

でももうすぐ冬だなぁ。

今年はコートを買おう。

白いダッフルコートが欲しいなぁ。





10月21日 曇り

彼と一緒にビデオ屋に行って「グランブルー」を返却。

でもコレ、彼ちゃんと観たのかなぁ。

今度は彼の希望で「酔拳」を借りた。うーん。

明日一緒に観るけど面白いのかしら。大丈夫かなぁ。

彼は本当にめったに外に出ないから

こうしてたまに一緒に歩くのは、とても楽しい。





10月22日 雨

今日は「酔拳」が思いのほか面白かった。

彼は子供の頃にテレビで観た事があったらしい。

子供の頃かぁ・・・と、フと思った。

私には「子供の頃」というのが在ったのだろうか。





10日23日 晴れのち曇り

今日は外で撮影のお仕事だった。

最初は晴れてたけど途中から寒くなった。

仕事帰りに彼の家に行くと寝てたので

布団に入って一緒に少しだけ寝た。

暖かいのは、好き。





10月24日 曇り

驚いた!

彼が今度の休みに出かけようと言った!

嬉しい!何処に行こうか?どうしよう?

せっかくの外出だから色んな事したいなぁ・・・

でも彼が突然こんな事言い出すなんて

当日は雪でも降るんじゃないかなぁ?





10月25日 曇り時々晴れ

当日の予定を考えよう。

秋だし、美術館なんか行きたいな。

今は確かルネサンスをテーマに展覧してたはず。

ルネサンスは好きだな。

教会とか行ってみたい。

ミケランジェロの綺麗で壮大な宗教画。

ああいう絵ってどうやって天井に描いたのかな。

それから雑誌に載ってた喫茶店に行こう。

紅茶がすごく美味しいの。

それからそれから・・・

普段は人に撮られてばかりだから

たまには写真を沢山撮りたいなぁ。





10月26日 晴れ

今日はパスタが美味しくできた。

彼も美味しいって何度も言った。

それだけで十分な日。





10月27日 曇り

仕事は外での撮影だった。

今日はかなり寒かったなぁ。

いよいよ明日は彼と外出だ。

お願いだから雨なんか降らないでね。





10月28日 初雪

今日の事は一生忘れないと思う。

一緒に美術館に行った。

美味しい紅茶も飲んだ。

沢山一緒に写真も撮った。

それから

雪が降ってきた。



綺麗だったなぁ。



手を繋いで歩いたのは久し振り。

あまり外に出ないもんね。



彼と2人で過ごす最初の冬。

これからもしっかり暖め合おうね。

これからもしっかり暖めるからね。



初雪を一緒に見られたことが嬉しい。



毎年、初雪は彼と見たい。



例えばどうしようもない理由で



彼と離れ離れになったとしても。




















不意に

ペ-ジを捲る手を止める。

立ち上がると台所へ向かう。

湯を沸かしティーカップを用意する。



熱い紅茶。



再び日記の元へ戻る。

そっと

ページを捲る。




















12月24日 大雪

クリスマスイブ。

彼と2人で「シチリア」に行った。

あの店はチーズのリゾットが美味しい。

あの店は彼が最初に見つけたんだよなぁ。



食事の後は彼の部屋へ。

途中で雪が降ってきた。

今年の一番の大雪かも。

窓際で雪を見てたら彼が突然後から抱き締めてきた。

とてもドキドキした。



このドキドキは、生きてる証なんだろうなぁ。

彼と、私が作っていく、ドキドキなんだ。

ずっと一緒にドキドキしていけたら良いなぁ。



ずっと、ずっと、ずっと。



ね。



メリークリスマス。





12月25日 雪

事務所で今後の打ち合わせ。

明後日の撮影が今年最後の仕事になるはず。

来年は大々的なショーの予定があるらしい。



帰りにビデオ屋で「ローマの休日」を借りる。

これ観るのってもう何回目だっけなぁ。

この映画のヘップバーンは何度観ても大好き。



だけど彼はあまり興味なさそう。

やっぱり彼にはジャッキーチェンなのかなぁ。





12月26日 晴れ

彼の家に行くと熱心に

ロックバンドのライブ番組を観てた。

私はよく知らないバンドだったけど。

何だかとても熱心に観てた。

彼は、今も、音楽が大好きなんだ。





12月27日 晴れ少し雪

仕事納めは携帯電話の広告撮影。

公園での撮影の途端に雪が降ってきた。

すぐに止んだけど寒かったなぁ。

今年も1年お疲れ様でした。





12月28日 晴れ

彼とビデオ屋で「ローマの休日」を返却。

今度は彼の番なので何を選ぶのかなぁと

黙って見てたら「酔拳2」を持ってきた。



この間見たばかりじゃないと彼に言ったら

全然違うと言うのでよく見ると「酔拳2」だった。

明日一緒に見るけど、面白いのかなぁ。

ちょっと不安。





12月29日 雪

「酔拳2」面白かった。

なんだかスゴイ負けた気分。





12月30日 大雪

あと一回寝ると終わり。

今年は色んな事があったよ。



自分が今こうしているなんて

1年前の今頃は思ってなかった。

そして同じように

1年後の今頃は何を思ってるんだろう。



大好きなモノを同じように大好きでいたい。

大切な事を同じように大切にできたら良い。



大切な暖かい腕の中で。

大好きな彼と共に眠る。

私は夢を見る。

夢が覚めたら。



そうしたら



本当の私は何をするんだろう。




















ページを捲る。

白い紙が続く。

其処で終わっていた。



視線を傍に送る。

数冊の日記。

未読の日記。



橙色の日記に手を伸ばす。



白い紙を、ハラリと、捲った。



















1月29日 曇り

今日は駅前で撮影のお仕事。

やっぱりすごい寒かったなぁ。

彼の部屋も寒い。だけど暖かい。





1月30日 曇りのち雪

仕事帰りに彼の家に行った。

今日はオムライスを作った。

ソースにかなり凝ってみた。

なのに彼は普通に食べてたなぁ。





1月31日 曇り

今年になってもう1ヶ月。

何だか年を取る毎に早いなぁ。

1日1日をもっと大切にしなくちゃ。





2月1日 雪

雪の降る寒い部屋で

体を重ね合う私達は

こうして互いの日常を

積み重ね合うのだろう。




















突然

湯の沸いた事を知らせる

甲高い音が部屋に響いた。



日記を置くと立ち上がり

ティーカップに湯を注ぐ。



棚から紅茶の葉を取り出す。



窓の外を見る。



雪が降っていた。



実に淡い雪。



熱い紅茶を煎れる。



再び日記の元へ戻る。



そっと



ページを捲る。




















3月9日 雪

今日は音楽を聴いていた。

何故かそんな気分だった。

借りてきたCDはとても良い。

彼にも聴かせてあげたいなぁ。





3月10日 曇り

昨日の曲をMDに入れて彼に聴かせた。

彼が好きそうだった曲だと思ったから。

聴き終わると彼は黙ってキスしてきた。

ねぇ、今でも音楽、好き?





3月11日 晴れのち雪

少しずつ雪が溶けてきたね。

でも時々こうして雪が降る。

すぐに溶ける雪で道路は汚れる。

それでもやっぱり、雪は綺麗だなぁ。





3月12日 晴れ

事務所で打ち合わせ。

毎日同じような生活。

最近は刺激が少ないな。

安定と変化を繰り返す。

だとしたらきっと今の私は

安定しているんだろうなぁ。





3月13日 曇り

明日はホワイトディ。

明日は早めに仕事を終えて彼と会う。

何かしたい事ある?と訊かれたので

海外へ旅行がしたいと冗談で言った。

彼は少し困ったような顔をしながら

外食しに行こうかと言い本を広げた。



様々な海外の料理を出すお店。

とても素敵な写真が載っていた。

明日は2人でそこに行く事に決定。

今からとても楽しみだね。





3月14日 小雪

仕事帰りに待ち合わせて

小雪が降る中を彼と歩いた。

ホワイトディ。

薄い雪の向こうに見えた店の灯りは

異国のような雰囲気で不思議だったなぁ。



海外の様々な料理を出すお店。

ちょっとした旅行気分になれるね。

お店の外観は何となく東南アジア風で

だけど西洋風のような整然さもあって。

流れてた音楽はよくわからないけれど

きっと何処の国の音楽でも無い気がした。

不思議な感覚だったなぁ。



それから不思議な感覚といえばもうひとつ。



テーブルに料理を運んでる女の子が

1人だけ何故かとても気になったなぁ。

別にその子と目が合った訳でも無いし

彼も気にも留めていないと思うけれど。

何だか私が居るような気がしたのかな。

何処となく似てるような気がしたんだ。

よくわからないけれど、不思議な感覚。



安定と変化について考えた。

料理はとても美味しかった。





3月15日 晴れ

前に話が出ていたショーの詳しい内容を聞いた。

ミラノの新鋭デザイナーのファッションショー。

日取りは4月30日、あと一ヶ月と少し。



ショーの仕事は久し振り。

ウォーキングは苦手だなぁ。

でもミラノのショーなら絶対に出たい。



頑張ろう。





3月16日 曇り

久々の大きなファッションショーなので

皆も気合が入ってるのかな。

昨日の今日なのに活気が違うのがわかる。

ウォーキングのレッスンにも力が入った。

でもやっぱり苦手だなぁ。





3月17日 晴れ

夕方から事務所で話し合い。

それまで時間があったので買い物をした。

春物の新作や新譜が出てた。

白いダッフルコートを見つけた。

今年の冬は買おうと思ってたのに

気が付くと買わずに終わってたなぁ。

白いダッフルコートは安くなってた。



買っちゃおうかなぁ・・・

なんて考えながらブラブラして

気が付いたら彼の下着を買っていた。



最近ゆっくり会えないね。





3月18日 晴れのち曇り



噂のミラノの新鋭デザイナーに会った。

今回は実際の会場の下見と

より綿密な打ち合わせの為に来たらしい。

ずっと男性だと思ってたけど女性だった。

背筋がピンと伸びてるような感じの女性。

なんだか見ててカッコイイ。



明日はやっと休みだよ。





3月19日 雪

今日は久々の休みなので午前中から彼の部屋。

ソフィア・ローレンの「ひまわり」を一緒に観る。

あの画面一杯のひまわりが咲き乱れる場面が

全ての始まりと終わりを象徴的に表していたと思う。

ねぇ、愛って何だろうねぇ。

最近は仕事をかなり頑張っていたので

彼とゆっくり過ごすのは久し振りだった。



こういう日、決まって彼は激しく私を求める。

それが単に久々に抱き合うからなのか

それとももっと違う理由なのかはわからないけど。

満ちてくれれば良い。

それで彼が。




















日記を置き紅茶に手を伸ばす。



外を見ると雪は止み



晴れ間が覗いている。



紅茶を緩く一口流し込むと



再び日記に目を落とした。




















3月26日 曇り

少しノドが痛い。

風邪でもひいたかな。

仕事を早めに切り上げて彼の家へ。



カレーを作った。

でもジャガイモ買うのをすっかり忘れてた。

彼は何も言わず美味しそうに食べてたけど

お代わりの声は最後まで出なかった。



ジャガイモ無しカレーは人気も無し。





3月27日 晴れ

彼の家に行くと昨日のカレーが残っていた。

パスタと絡ませて食べてみた。

これが意外にも美味しかった。

ジャガイモを入れなかった甲斐があったね。





3月28日 曇り時々晴れ

彼の部屋でギターを見てた。

彼はずっとテレビを見てた。



少し触ってみると音がした。

彼自身はもうどのくらい触ってないのだろう。



彼はずっとテレビを見てた。

彼の大好きだったロックバンドの姿を。





3月29日 雨

雨が降ってきた。

残ってた雪が一気に溶けるかも。



まだノドが痛い。

咳が止まらない。

早く治さないと。




















突然



大きな音が響いた。



屋根から



溶けた雪が落ちた。




















4月9日 雨

今日は散々だった。

ウォーキングのレッスン中に

突然目眩がして倒れてしまった。

皆に介抱されて心配されてしまった。

早めに切り上げてきた。



貧血かな。

まだ咳も止まらない。

頑張りすぎて体調が崩れたままみたい。





4月10日 曇り

事務所に行くと皆に心配された。

顔色が悪いって言われたけどそうかなぁ。





4月11日 曇り時々雨

久々のショーだからと思って

最初に少し頑張りすぎたんだと思う。

少し休んだ方が良いのかなとも思ったけど

でも今回だけはそうはいかないよね。



あのカッコイイ女の人。

ミラノのデザイナーのショーだもん。



頑張ろう。





4月12日 雨

最悪。

また倒れた。





4月13日 曇り時々晴れ

病院に行くよう言われた。

確かに2度も倒れるくらいだから

普通の風邪では無いかも。



でも嫌だな。

大事なこの時期に病院なんて。



彼と一緒にグラタンを食べた。



明日は昼から病院に行く。





4月14日 晴れ

病院に行った。



2度も倒れた話をしたら

予想外に血を沢山採られた。

貧血じゃないと思うけど。

余計な事話しちゃったな。



検査結果は何時出るか訊いたら

2週間後にまた来いと言われた。

ちょっとそれ、ショーの直前だよ。

嫌だなぁ。





4月15日 曇り時々雨

衣装のデザイン画を見せてもらった。

スゴイ斬新、早く実物も見てみたい。





4月16日 雨

なかなか体調が回復しない。

最近は仕事にも集中できない。

それでも彼の部屋に行けば彼と抱き合う。



落ち着く。





4月17日 曇り

今日は寒かった。

薄着で出歩いて失敗した。

彼の部屋に行くと暖めてくれた。



彼の手は、大きい。





4月18日 雪

雪が降った。

今も降っている。

この時期に珍しい。

彼と2人で見てた。

もう春だしコレが最後の雪かな。

雪の降る夜は空が明るくて好き。

今夜は空が、オレンジ色だ。




















静かな部屋。




紅茶の湯気。




煙草に火を点ける。




チリリと、燃えた。




















4月25日 晴れ

衣装が届いた。

予想以上に素晴らしい。

デザイン画とは比べ物にならない。



早くコレを着て歩きたいなぁ。

最高にカッコイイだろうなぁ。





4月26日 晴れ

デザイナーが到着した。

今日から最終的なチェックに入る。



休む間もあまり無い。

ハードだ。





4月27日 雨

昼から打ち合わせ。

細かな点を再確認。

途中何度か目眩がして

倒れそうになった。



明日は検査結果。

朝から病院に行く。





4月28日 曇り

先日の検査結果が出た。

病名は告げられなかった。

只の風邪や貧血じゃない。

それだけ解ってしまった。



大学病院を紹介された。

でもこれから大型連休に入る。

ショーが終わるまでは行けないし。

ショーは明後日。

体の調子は最悪。

でも、やるしかないんだ。





4月29日 曇り時々晴れ

午前中からリハーサル。

入念に何度もチェック。



会場は舞台の準備が整って

別世界の空気を醸し出していた。

大きな規模のショーになる。

最後に女性デザイナーが言った。

皆で一緒に良いモノを残そうって。

私も残したいと思う。

今はそれしか考えない。





4月30日 快晴

良かった。

生きてて良かったなぁ、などと

少し大袈裟な事を思ってしまう。



あんな空気の中にいられる事って

生きててそうそう無い事だと思う。



そういう中に、今日、私はいた。

確実に、存在していた、と思う。



大勢の観衆。

音楽と照明。

衣装と肉体。

自尊と主張。

呼吸と存在。

そういうモノ全てがあそこに在ったと思う。

あの瞬間、確実に私は存在していたと思う。





5月1日 晴れ

仕事が休みなので午前中から彼の部屋へ。

久し振りに2人で1日ゆっくり過ごした。



穏やかな時間。

相変わらず私達は何をするでもなく。

抱き合い疲れて眠り。

起きるとキスをした。



明日、大学病院に行く。




















煙草を大きく吸い込む。




灰が音も立てず落ちた。




















5月18日 曇り時々雨

入院が決まった。





5月19日 朝は雨

今日から入院生活。

身の回りの整理とか

あまりせずに来ちゃったな。

これからどうなるんだろう。





5月20日

朝、血を採られる。

淡々と時間だけ過ぎてる。

ココにいると天気もよくわからない。

4人部屋だけど奇妙に静かだ。





5月21日

4人部屋には私の他に

40歳くらいの女性と

70歳くらいの女性と

あとは小さな女の子がいる。



小さな女の子の元には

朝からお母さんが付き添ってる。

まだ小学校低学年なんじゃないかなぁ。

お母さんに髪を結って貰ってる。



40歳くらいの女性は元気だ。

食事の時間は皆に声をかける。

この人が病気なんて信じられないなぁ。



70歳くらいの女性は静かだ。

でも旦那さんらしき人が

夕方お見舞いに来た時は

なんだか嬉しそうに笑っていたなぁ。



同部屋の人々の観察で終わった日。





5月22日

40歳の女性の大声で目を覚ました。

多分これから毎朝続くんだろうなぁ。

女の子は今日もお母さんに

楽しそうに髪を結って貰っていた。

70歳の女性は静かに本を読んでいた。

夕方からは旦那さんがお見舞いに来た。



彼は元気にしてるかな。

彼は一人では外に出たがらないし

入院の話はゆっくりできなかった。

ちゃんとご飯食べてるかな。





5月23日

お昼に40歳の女性が

大きな声で昼食に誘ってくれたので

一緒に食堂まで食べに行く。

女性ながら豪快な人だなぁ。

自分の家の容器に

漬物を入れて持ってきて

それを私に何枚もくれた。



そして大きな声で笑った。





5月24日

新しいお薬を処方された。

白いカプセルが2個と青いカプセルが1個。

私はあとどれくらい生きられるのだろう。



もうあまり時間は残って無いらしい。

それは既に先生から聞かされている。

入院前に気持ちの整理もつけたはず。



私は恐らく此処で最後まで生きる。





今日も女の子は髪を結って貰ってる。

目が合うとにっこりと笑ってくれた。





5月25日

彼は元気だろうか。

今日はそればかり考えていた。



女の子がお母さんに髪を結ってもらう。

あの姿を見ると更にそう思う。



彼は元気だろうか。

風邪なんかひいてないと良いけど。





5月26日

40歳の女性はエミさんという。

エミさんと一緒に昼食を食べている時に

遅ればせながらようやく知った。



ちゃんと考えたらベッドの枕元に

患者の名前が記されているのだけど

そういう事にあまり関心の無い私は

皆の名札をよく見ていなかった。

そう言うとエミさんは大きな声で笑った。



エミさんは今月末に手術をするらしい。

あと4日後。

頑張ってね、エミさん。





5月27日

今日は気分が優れない。

何時ものエミさんの大声で目覚めて

朝食を食べに行こうとしたところで

急に目眩がして倒れてしまった。

今日は何も食べたくない。





5月28日

70歳の女性の退院が決まった。

明日の午前に病院を出るらしい。

夕方に旦那さんが来ると

部屋の皆にお礼を言って頭を下げた。

私は何もしていないのに。

旦那さんは嬉しそうに、頭を下げた。





5月29日

会話などほとんどしなかったけど

70歳の女性が出ていった部屋は

なんだか急に物足りなくなった。

夕方になっても、誰も見舞いに来ない。

私も最近は何も食べずに寝てばかりだ。

会いたいよ。





5月30日

エミさんの手術の日。

今朝はエミさんの大きな声も無く。

慌ただしく看護婦さんが出入りしていた。

ベットに乗せられ運ばれる直前

エミさんが私を見て少し笑った。



昼間は静かに時間が過ぎた。

女の子が何時も通りに

お母さんに髪を結って貰っていた。

私はただ静かにそれを眺めていた。

お母さんが女の子を愛しそうに撫でていた。

誰も何も話さないので、病室は静かだった。



夕方過ぎエミさんが戻ってきた。

運ばれたエミさんは眠っていた。

エミさんの足は、1本なくなっていた。





5月31日

エミさんは無口だった。

当然といえば当然なんだけど。

何も喋らずに眠るエミさん。

時々痛そうに小声を漏らす。

今日は女の子のお母さんも来なかった。

なんだか不自然に静かな日。





6月1日

彼が来た!

ずっとずっとずっと

会いたかった彼が突然来た!



外に出るのをあんなに嫌ってた彼が

こうして私のお見舞いに来てくれた。

入院や病気の事は詳しく話してないのに。

こうしてわざわざ私に会いに来てくれた。



嬉しい。

会いたかったんだよ。

ホントに。ホントに。





6月2日

今日も彼が来てくれた。

何を話すでもないけど。

相変わらずのあのままの彼だ。



私は。



私はどうだろう。

彼と会わなかった数週間。

変わらずにいただろうか。



自分の手を見てみた。

酷く痩せていた。

肌も乾いていた。





6月3日

彼は毎日昼過ぎに来てくれる。

今となっては贅沢な時間だよ。

心の整理はもうできてる。

毎日のように血を採られる。

もうそんなに長くないはず。

今日も白と青のカプセルを飲む。

私はあとどれくらい生きられるだろう。





6月4日

久々にエミさんと話した。

痛みが落ち着いてきたみたい。



エミさんは笑いながら言った。

このまま病気が進行すれば

もうじき視力も無くなるのよって。



エミさんは笑った。

苦しそうに笑った。

痛みのせいよ、とエミさんは言った。

そしてまた笑った。



エミさんの病気は

じわりじわりとエミさんの体を苦しめる。

でもエミさんは元気良く私に話しかける。

エミさんの足は、1本足りなくなったのに。



昼過ぎには彼が来てくれた。





6月5日

覚悟というか整理というか

そういうのは付いてるつもりだった。



この病院のこの部屋が

最後の場所になっても

それでも良いと理解したつもりだった。



最近は揺らいでる。



まだ生きたい。





6月6日

エミさんに大きな声で起される。

女の子が髪を結って貰っている。

旦那さんが会いに来る。

彼が、私に会いに来る。

此処に来てから私が体験した事。





6月7日

エミさんが歩行の訓練を始めた。

彼が大量のスポーツ新聞を買って来た。

私のベットの横で黙ってずっと読んでいた。





6月8日

彼は毎日、私の元へ通う。

その度に活き活きしていくような気がする。

頻繁に外出するようになったからだろうか。

もう彼と共に外を歩く事は無いのだろうか。

痩せ細ってしまった自分の手を見る。

悲しくなる。

切なくなる。

どうしよう。

生きたいよ。



ティーカップを手にとると




紅茶は既に冷え切っていた。




静かに飲み干す。




窓の外には、再び淡い雪。










最後に日記に目を落とす。




















6月20日

子供の頃の事を色々考えた。

私には両親と呼べる存在が無い。

どちらかは事故か病気で死んで

どちらかは他の異性と結婚した。

確かそんな理由だったはずだ。

それで私は祖母に育てられた。



良く言えば引き取られた。

悪く言えば、捨てられた。



可も無く不可も無く成長した。

虐待された事も冷遇された事も無い。

逆に大切に育てられたくらいだと思う。


18歳ですぐに家を出た。

祖母の目の届かない場所。

高校まで出してもらった恩はあるし

祖母は上品な人で好きだったけれど

あの家に居てはいけない気がしてた。

此処は私の場所では無いという感覚。



だからといって他に

私の場所が在った訳でも無いのに。

私は家を出た。

もう今では連絡さえ取れない。

祖母は元気にしてるだろうか。



家。



私の家は何処だったのかと考える。

記憶にない最初の家。

祖母に育てられた家。

一人暮らしをした家。



彼。



やっぱり彼の部屋が。

あの部屋が私の家だったんだろう。

今更ながらそう思う。



どんなに仕事が忙しい日も

どんなに暇で退屈な日でも

あの部屋に行きさえすれば

当たり前のように彼は居た。

あの部屋で彼と抱き合えば

全てに安心できた。



ねぇ。

またあの部屋に行きたいよ。

まだあの部屋で生きたいよ。




















6月21日

昨晩寝ていると女の子が泣いていた。

今までずっとそんな事無かったのに。

その声で目が覚めたけど

私はどうしてあげる事もできなかった。





6月22日

何処までが私なんだろう。

例えば私が死ぬ瞬間は

何処までが私なんだろう。



世の中から誰も居なくなって

人も土も草も空も無くなって

風も火も水も何も無くなって

ホントに全部無くなっちゃって

真っ白な空間に私がポツンと立ってたら

それでも私は生きてる事になるのかなぁ。



私以外の何も無いなら

私の髪も指も目も声も

肉体なんてまるで意味が無くなる。



だから真っ白な空間に

私の意識と呼ばれるモノだけ

たったそれだけ在ったとして

それでも私が生きてる事になるのかなぁ。



私の目の前に、今、コップが在る。



例えば私が死ぬ最後の瞬間。

視覚も触覚も嗅覚も味覚も

全ての感覚が閉じられていく中で

何も見えない何も感じない空間で

真っ白な空間で

私はまだ生きてると思ったとして

一体、何処までが本当の私なんだろう。

そうなったら私は、何を残せるのだろう。





6月23日

女の子が死んだ。

あまりにも突然に。



お母さんに

女の子が髪を結って貰ってる。

静かな光景。

もう見飽きたと思ってたのに。



女の子が、死んだ。





病室が慌ただしい。





6月24日

死にたくないよ。

どうしよう。

死にたくないよ。

どうしよう。

嫌だよ嫌だよ嫌だよ。

怖い。

怖いよ。






嫌だ。






怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い






どうしよう。



どうしよう。



怖い。怖い。



圭くん怖いよ。






ああ、死にたくない。






死ぬのは、怖い。





6月25日

目眩がひどい。

新しいお薬が増えた。

明日から点滴も入る。

あまり長い日記は書けなくなる。

エミさんの歩行訓練は順調らしい。

2人だけでこの部屋は、少し広い。





6月26日

朝から点滴。

新しいお薬の説明を受ける。

新しいお薬を飲むとすぐに眠くなる。

あまり考え事をしなくて良いから楽かも。





6月27日

食事が病室に運ばれるようになった。

彼が食べさせてくれる。

点滴はかなり不便だな。

エミさんが大きなミカンをくれた。





6月28日

今日は気分がわるい。





6月29日

わたしはどんどん細くなる。

このまま細くなって消えてしまうのかなぁ。





6月30日

点滴がつらい。





7月1日

血液検査。

薬が増える。





7月2日





7月3日





7月4日

初雪はいっしょにみよう。





7月5日

エミさんがいなくなった。





7月6日

熱がさがらない。

お家にかえりたいよ。





7月7日

今日はすこしぐあいがいい。

こんな夢をみた。

かれの性器をわたしがあいぶしてる夢。

ていねいにていねいに

かれの性器をあいぶしていた。



わたしはげひんなんだろうか。



でもこれが生きてるって事だ。

かれの性器をていねいにあいぶする。

わたしがかれを求めている現実だ。

もうそれがかなわぬ夢だとしても。





7月8日

お薬がふえた。





7月9日

ここを出たら2人でイタリアにいきたいね。

いっしょにおいしいパスタとピザたべる?





7月10日

かれがずっと手をにぎっていてくれた。

目がさめたらなんだかとても安心した。

つながってる。

わたしはまだ生きてる。

だからまだつながってる。





7月11日

音楽、またやればいいとおもうよ。




7月12日

だれかを想うのは大切なことだ。

ひとりでは生きていけないし

ひとりでは生きてるいみがない。

すくなくとも今のわたしはそれで生きてる。





7月13日

ふしぎなほどに

今日は具合がいい。



昼から彼がきてくれた。



こんなわたしのそばに

いつもいてくれて

どうもありがとう。



生きていてくれてありがとう。



わたしが死ぬさいごのしゅんかん

なにを考えてるのかわからないけど

それがあなたの事だったらうれしい。



きょうはかれとながいキスをした。

ながいながいながい、キスをした。

なんだか涙が出てしまった。



どうもありがとう。



わたしはあなたに何を残せたんだろう。

かなしいおもい?

つらいおもい?



わたしはあなたに何を残せたんだろう。

たのしいおもい?

うれしいおもい?






どんなおもい?






だいすきだよ。


だいすきです。




わたしは残したい。


ことばを残したい。




もしもわたしが死んでも


何年たっても色あせない


そんなみずみずしい何かを残したい。


あなたと生きていた、証を残したい。




ありがとう。




ありがとう。




手をつないでくれてありがとう。


生きつづけてくれてありがとう。




そうしてまた



わたしとあなたが残したなにかが



だれかにもつながっていくように。










ふしぎなほどに今日は具合がいい。


だれもいなくなった病室。


でも


わたしはひとりじゃない。




目をつむればあなたが見えるし


手をにぎってはなしかけている。


そうおもえる。


だからきょうは安心してねむれる。






こうしてワタシの残したコトバも




いつかだれかにつながるだろうか。






つながっていくといい。




ずっとずっとずっとずっと。




今は知らないだれかの元まで。






おやすみなさい。







おやすみなさい。







おやすみなさい。










また、あした。
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[ 2013/11/21 20:08 ] 長編:ボクラが残したコトバ | TB(-) | CM(0)

ボクラが残したコトバ 第十話『現』

吐いて捨てるほど在った

大切なモノを

今じゃ日々探してる始末で。



別に無くたって良かった

余分なモノが

今じゃ日々積み重なっていく。



ヒビ割れた部分から

サラサラとコボレタ

ボクラの大切なモノ。



例えば

ボクラが残したコトバ。



他愛も無い

あの日のコトバとか。

意味も無い

あの日のコトバとか。



其れ等が

何時だって

後になって

オモイ意味を持って

ボクラの前に現れるのは

何故なんだろう。










175148039_91.jpg
第十話 『現』










冷えたシャッターが下ろされた。

退出を促す音楽が流される。

次々と店が閉じられていく。



同時に繁華街を歩く顔触れは変わる。

昼間の健康的な雑音とは別種の雑音が始まる。

夜の街は少しずつ其の様相を変える。



男は白い息を吐く。

ギターケースを背負い直す。

昼に一度訪れた百貨店に向かっていた。



百貨店の

閉じられた大きなシャッターの

其の前。

以前に歌う女が歌って居た場所。



もしも会えたら

自分はどうするのだろう。

自分はどうしたいのだろう。



歌を聴いたり

話し掛けたり

そういう事がしたいのだろうか。

偶然に一度見ただけの女に対して

自分は一体何を求めてるのだろう。



実の所

男にもよく解っていなかった。

只、もう一度だけ会って見たかった。



愛する女を無くした後に

漠然と歌い始めた自分に

行く先を示してくれた女。

今はどう生きてるのだろうか。

少し気になっただけだと思う。



今も彼処で歌っているだろうか。



少し足早になった。



仕事を終えたのであろう

見知らぬ沢山の男や女が

一日分の疲労と雑音を連れて

或る者は笑いながら

或る者は考えながら

或る者は疲れながら

繁華街を歩く。

酒でも飲みに行くのだろうか。



男と擦れ違って行く。



何の意外性も

何の物語性も

生み出さないまま

擦れ違って行く。



顔も見ぬまま

名も知らぬまま

淡々と

擦れ違って行く。






実に現実だ。






痩せた男と肩がぶつかる。

ギターケースが落ちかける。

頭を下げたのか下げないのかも

よく判らないままに通り過ぎて行く。






皆、淡々と、歩いて、行く。






男は冷えた両手を

深くポケットの中に突っ込んだ。



遠くに百貨店が見えた。

次の信号を渡って右に曲がれば

閉じたシャッターが見える筈だ。



熱い白い息を吐く。

ギターケースを背負い直す。

男は更に足早に歩き始めた。



歌う女。

女は歌って居るだろうか。

元気に歌っていると良い。

あの日のように

大きな口で。

大きな声で。






信号は青だった。



思わず走り出す。



角を右に曲がると



閉じたシャッターが見える。



そして其の前に




















歌う女は居なかった。




















仕事帰りの男と女が通り過ぎる。

此の街の普段と何ら変わらぬ風景。



女が居るべき場所には

知らない男が

同じように地べたに座り

民族楽器を演奏していた。



女は居ない。

力が抜けた。

民族楽器の太鼓の音だけが響く。






単調で複雑なリズム。






立ち止まり

男は煙草を取り出して火を点ける。

其れからゆっくりと

民族楽器を演奏する男の元へ近寄る。



民族楽器を演奏する男の前に座る。

演奏する男は顔を上げ少し微笑む。

煙草を吸いながら演奏を聴く。



楽器の横には小皿が置いて在り

其の上に線香が炊かれて在った。




独特の匂い。




演奏する男は素早く手に白い粉を付けると

再び民族音楽を奏でる太鼓を叩き始めた。



単純なリズムに合わせて

複雑なリズムを重ねていく。



遅れていたリズムが

気付くと追い付いたり

先走っていたリズムが

巡り巡って元に戻ったり

ズレているように聴こえて

実は其れが最適のリズムに他ならない。



演奏を一通り終えると

演奏の男は頭を下げた。

だから男は拍手をした。

其れから重要な事を訊く。




「以前に此処で歌って居た女性を知りませんか?」




先刻、自分の手に付けていた白い粉を

今度は民族太鼓の上に塗しながら

演奏の男はゆっくりと首を捻った。

自分は最近此処での演奏を始めたので

よく解らないというような事を言った。



男は大きく煙草の煙を吐き出す。

地面で煙草を消すと立ち上がった。

礼を言い小銭を小皿の中に入れる。

再び歩き出した。



独特の線香の匂い。

単調で複雑なリズム。

其れ等は未だ残っていた。










吐いて捨てるほど在った

大切なモノを

今じゃ日々探してる始末で。



別に無くたって良かった

余分なモノが

今じゃ日々積み重なっていく。










行く宛は無かった。

此れ以上歩き続ける理由も無かった。

後はもう眠るだけだ。



朝からギターを抱えて

電車に乗ったりバスに乗ったり

女の墓参りに行ったり

街中を歩き続けたりで

男は疲れ果てていたし

後はもう眠るだけだった。



ギターケースを背負って

冬に熱い白い息を吐いて

墓に行っても

百貨店に行っても

どんなに頑張っても

例えば祈っても願っても

此処に居ないモノは居ない。






実に現実だ。






疲れた。

肩と足が痛かった。

もう此のまま倒れこんで

路上で寝ても良いなと思った。



其の場に立ち止まり

ギターケースを置きそうになる。

頭の中を単調で複雑なリズムが響く。














腹が減った。














此の街に来て未だ何も食べてなかった。

前を見ると牛丼屋の看板が光っていた。

眠る前に、とにかく腹が減った。






店に入る。






店員の掛声。

椅子に座る。

ギターケースを降ろす。

そして注文。



大きくない店。

店内は暖かい。

窓の外を見る。

何気ない欠伸。

注文の品が出される。



暖かそうな湯気。

割箸を取り出す。

男は牛丼を食べ始めた。



食べながら何気無く店内を見渡す。

狭い店だが此の時間の客は少ない。

そろそろ年末という事もあるだろう。




















「おかわり!」




















突然

斜め後の席の客が大きな声で言った。

思わず其の声が聞こえた方向を見た。












女。












愛した女に似た女。


いや


歌う女が其処に居た。




頭の中を単調で複雑なリズムが響く。


探しても見つからなかった女が其処に居た。


男の視線は歌う女の元で固まってしまった。






どうすれば良いのだろう。






目の前に



届く距離に



歌う女が居る。






だからと言ってどうすれば良いのだろう。



元々会えたらどうしようとは考えてなかった。



歌っている姿が見られれば其れで良かった。



其れがこんな場所で会うとは。






「お待たせしました」






店内に店員の声が響く。

歌う女の前に牛丼が置かれた。



男は少し冷静に考えた。

歌う女は此処の常連なのだろうか。

店員はおかわりの一言だけで理解していた。

彼女は何時も此処で二杯の牛丼を食べるのだろうか。



そう考えると何故か急に可笑しくなった。

歌う女を見たまま思わず笑ってしまった。



其の小さな笑い声で

歌う女が此方に気付く。

怪訝そうな顔をしながら。



失策ったと思いながらも

男は何か話し掛けようとした。

だが先に口を開いたのは歌う女だった。










「あ、一万円の男」










「え?」










男が聞き返す。

今度は歌う女が、失策った、という顔をした。

そして誤魔化すように笑った。

歌う女が話し掛ける。



「覚えてます? 以前に私の歌を聴いてくれた事?」



男は大きく頷く。




「其の時に一万円くれたよね? 私もうビックリして!」




歌声と同じ元気な喋り方。


妙に不思議な感覚だった。


歌う女が自分を覚えていた事に驚いた。


男は口を開く。




「今は、もう、歌は?」




すると歌う女は楽しそうに笑った。


そしてテーブルの横を指差す。


其処にギターケースが在った。




「良かったら今から聴きに来ません?」




歌う女が言った。

男は更に大きく頷いた。

牛丼の残りを掻き込む。

店を出ようと立ち上がる。

男はギターケースを背負う。

すると歌う女が言った。



「あれ? 君もギターを?」



男は笑って頷いた。



歌う女も、笑った。



男が動き始める。



歌う女が慌てて手を伸ばした。



男のコートを掴んで静止する。






「ちょっと待って! まだ牛丼、全然食べてない!」






互いの顔を見詰め合わせる。






二人は大きく笑った。










共に店を出て歩き出す。



其れは実に妙で不思議な感覚だった。






外は先刻と変わらず寒い筈だが

何故だか全然気にならなかった。



女は今は駅前で歌っているようだった。

百貨店のシャッター前は少し前に

酔っ払いの暴力沙汰が起きたので

其れから場所を変えたのだと言っていた。






駅前に着くと

女はギターケースを開き

使い慣れたギターを取り出した。






沢山の小銭と四枚の紙幣が入っていた。






男は思わず訊いた。



「今日の稼ぎ?」



女は笑いながら言った。



「少し、違うかな」



其れから更に



強いような弱いような



微妙な視線でこう言った。










「其の四枚は、私の自尊だから」










そして笑った。










寒い空気に白く熱い空気が混ざった。





歌う女は、ギターを弾き、歌い始めた。





何時か見た姿のように





大きく大きく大きく





大きく大きく大きく





歌っていた。










男は座りながら


歌に聴き入った。




愛した女に似た女。


此処で歌を歌う女。




寒い空に白い息が大量に舞った。




輪廻する花のように。


大切に種子を蒔いて育てる。




輪廻する花のように。


色んな想いが散っては咲く。




輪廻する花のように。


そうして僕等はイキ続ける。












なぁ、輪花。


きっとそうだろう?












歌う女の演奏が終わる。

男は大きく拍手をする。

そして言う。



「実はね、今日はずっと君を探していたんだ」



女は不思議そうに訊き返す。



「え、どうして?」



男は笑って言う。



「其れがね、どうしてか僕にも解らないんだ」



女も笑って言う。



「ふぅん、何だか適当なのね」



男は楽しそうに笑った。






吐いて捨てるほど在った

大切なモノは

今じゃ日々探してる始末だし。



別に無くたって良かった

余分なモノは

今じゃ日々積み重なっていくけれど。





ボクラが伝えたかったコトバは



不器用なコトバは



大切だったコトバは



言えなかったコトバは




どれだけ手元に残っているのだろう。






冷えた冬空。


空気は澄んでいる。


何処までも透明で


壊れそうに繊細な


冷えた冬空の空気。




座りながら


ギターを弄りながら


最後に男が女に訊いた。








「あのね。

 二つの異なる特出した才能が

 或る一つの時期に

 或る一つの場所で

 同時に共存している事がある。



 例えば其れは

 ビートルズで言う

 ポールとジョンのようなモノで。



 でも思うんだ。

 二つの異なる才能は果たして

 最初から特出していたのだろうか。



 其れとも

 一つの場所で共存する事によって

 其の結果で特出し得たのだろうか。



 なんてね。



 なぁ、君はどう思う?」





女が答える。





「そうねぇ、そんな事どちらでも良いわ。

 其れよりもお互いの自己紹介をしない?」





男は笑った。





もっともだ。





「一緒に、歌わない?」





男はギターケースを開いた。



そして女と共に歌い始める。



一緒に歌いながらイキ始める。



どんな歌声が響き渡るだろう。



一人では無く、例えば二人で。



ボクとキミが歌えば。


















ヒトと関わってイコウ。


















雪は降るし。



雪は溶ける。



ボクラはコトバを残していく。






吐いて捨てるほど在った



大切なモノを



今じゃ日々探してる始末で。






別に無くたって良かった



余分なモノが



今じゃ日々積み重なっていく。






そんな中で






僅かに手元に残る大切な何か。






そう






其れが






此の紛れも無く






此のうざったく






此のかけがえなく






此のクソったれの






此の現実の真ん中で






















ボクラが、残した、コトバだ。

[ 2013/11/20 20:08 ] 長編:ボクラが残したコトバ | TB(-) | CM(0)

ボクラが残したコトバ 第九話『証』

僕が寒い空に

吐き出す

熱くて白い空気。



君の冷たい肌に

吐き出す

熱くて白い精子。



どちらも生の証だ。



活き活きと巡る血液や

絶える事の無い思考や

止まる事の無い肉体が



熱くて白い

空気を

精子を

君の中に吐き出す。



生の証なんだ。










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第九話 『証』










男は息を吐き出した。

口元から寒空へ向けて

白い息が漏れては散る。




静かだ。




淡く雪の降る

海の見える墓場。

花束を握る右手に少し力が入った。




目の前に佇む老女が此方を振り向く。




其の顔は

男が愛した女の其れだった。

綺麗で上品で繊細な容姿だった。






もう一度息を吐く。






再び漏れては散る、白い息。






老女は軽く頭を下げた。

思わず男も頭を下げた。

老女は薄く、微笑んだ。



此の街に来て初めての雪が

愛した女の墓に薄く積もる。



老女が墓の前で膝を落とした。

目を閉じて両手を合わせる。

男は老女の側に近付いた。



老女が立ち上がり

頭を下げて場所を譲る。



再び男も頭を下げて

膝を落とした。



老女が点けた

蝋燭の火と

線香の煙が

淡い雪の中に流れていた。



花を添える。



墓を見る。



冷たく固い石の塊だ。

其の上に深々と雪が積もる。

此の冷たく固い石が

嘗て

語り合った意識でも

抱き合った肉体でも

熱くて白い空気を吐き出さない事も

熱くて白い精子を受け入れない事も

愛した女でも

其れ等全てでは無い事は解っていた。



笑わない

泣かない

石の塊だ。



なのにどうして

こんな場所まで来ては

女を思い返すのだろう。



線香も何も用意していなかった。

不意に老女が手を出す。

其の手に線香が在った。



頭を下げて受け取ると

線香を蝋燭に近付けた。




弱い火を灯し煙り出す。


男は目を瞑り手を合わせた。


墓に向けて。


女に向けて。


男に向けて。






なぁ、輪花。

現実とは何だろう。

君と僕だった理由は何だろう。



なぁ、輪花。

生死とは何だろう。

君と僕は

確実に存在したのだろうか。



其れとも

確実に存在した気になってるだけだろうか。



なぁ、輪花。

目の前に存在しない君を

見えない君を

喋れない君を

触れない君を

冷たく固い石の君を

こうして求める事は

正しい事なのだろうか。






男は熱い白い息を吐いた。



寒い空気に舞っては散る。



ゆっくりと立ち上がると。



老女に頭を下げた。



老女も頭を下げる。



綺麗で上品で繊細な容姿。



愛した女が

イキ続けて

年をとれば

こう成長していたのだろうか。






「初めまして」



男は口を開いた。



「彼女の、お祖母さん、ですよね」



男は横目で墓を見ると、そう言った。



「初めまして」



もう一度言う。






老女は頷くと、少し寂しそうに、笑った。



雪が深々と降っていた。



此の街に来て初めての雪。





荒ぶる波。



静かな墓。



男も、老女も、息を吐いた。



熱い、白い、息を吐いた。






老女が


墓に薄く降り積もった


雪を


手で払おうと近付いた。




其の手を男は止めた。




「ごめんなさい。一緒に見ているので」




雪が深々と降っていた。



此の街に来て初めての雪。



実に静かな時間だった。



随分と長い時間。



誰も何も言わなかった。






不意に

遠くからバスのクラクションが聴こえた。






老女が言った。



「貴方は随分と、此の娘を愛してくれていたんですね」



只、其れだけ、言った。






線香や蝋燭を片付け始めた。






一日のバスの本数は

あまり多くないので

帰りも一緒になるだろう。



最後にもう一度

男は女の墓を見る。








只の冷たく固い石の塊だ。








其れでもやはり

何時か必ず男は

再び此処に来るのだろう。














証だから。














男と老女は歩き出した。



ペンキも剥げかけたような

小汚い町営バスに乗り込み

独特のゴムのような臭いと

所々ボロボロの椅子に座る。

大して愛想も無い放送が車内に響き

バスは走り出した。



バスは無人だった。

其れでも何故か

男と老女は隣り合わせに座った。

特に会話らしい会話は無かった。






「生きていれば」






不意に絵描きの男の言葉が浮かんだ。






生きていれば

何時でも君を思い出せると思う。



生きていれば

時に君を忘れながら生きてる。



生きていれば

其れでも何時でも君を思い出せると思う。






「生きていれば」






生きていれば

君が生きていた日々を思い出し。

果たされなかった約束に泣いて。

不甲斐の無かった自分に悔やみ。


生きていれば

君が生きていた日々を思い出し。

後悔と懺悔を繰り返しながらも。

こうしてモガクように成長する。






「生きていれば」






そして明日からも生きる事ができる。

泣いたり悔やんだり笑ったりできる。






僕が生きていれば

君が生きていた証になる。














窓の外の雪は止みつつあった。














単調で愛想の無い車内放送が響く。

夕方を過ぎて外はもう暗かった。

間も無く最終駅だ。



不意に老女が口を開いた。



「何故か何時も持ち歩いていたのだけれど」



そう言うと

鞄の中から何かを取り出した。

数冊の小さな本のようだった。

少し古いモノから割と新しいモノ。

数冊。



「是は貴方が持っているのが良いと思います」



そう言うと其れ等を男に差し出した。

思わず手を出して受け取る。



「あの娘を愛してくれて、どうも有り難う」
















日記だった。
















バスがゆっくりと止まり

放送と共に乗降用の扉が開いた。



老女は頭を下げ

少しだけ笑うと

バスを降りた。



だから男も頭を下げた。



上品な背中。






女が生き続けていたら

あんな姿になったのだろうか。






僕が寒い空に

吐き出す

熱くて白い空気。



君の冷たい肌に

吐き出す

熱くて白い精子。





どちらも生の証だ。





活き活きと巡る血液や

絶える事の無い思考や

止まる事の無い肉体が



熱くて白い

空気を

精子を

君の中に吐き出す。














バスを降りると





冷えた肩にギターケースを





ズシリと重く乗しかけて歩き出す。














熱くて白い、命の証を、吐いた。
[ 2013/11/19 20:08 ] 長編:ボクラが残したコトバ | TB(-) | CM(0)

ボクラが残したコトバ 第八話『生』

男は息をしていた。

たくましい骨格。

浅く伸びたひげ。

煙草を吸う仕草。

其れと少しの

疲労と雑音を引き連れて。



男は息を吐き出した。



小さな街の冷たい空気に

男の熱くて白い息が混ざった。



もう一度息を吸う。

冷たい空気に鼻腔が痛くなる。



男は息をしていた。



大きな肩にギターケースを

ズシリと重く乗しかけて歩き出した。










175148039_91.jpg
第八話 『生』










過去に男が住んでいた

海沿いの此の小さな街は

大した変化を見せていなかった。



宛も無くブラリと歩く。



駅前の見慣れた風景は

駅前の見慣れた風景の侭で。



小汚い町営バスのデザインも

横断歩道を渡る時に鳴る音楽も

交差点から見える大きな看板も

本当に其の侭で。



此の季節の

鼻腔に響く冷たい空気も

鼻腔に響く冷たい空気の匂いも

何も変化の無い侭だった。



駅前を少し歩くと繁華街に出る。

此の街では一番大きな百貨店の

閉じられたシャッターの前。

あの日、其処に、歌う女は居た。




時計を見る。




だが其れはあまり意味の無い行為だった。




まだ昼過ぎ。




男は百貨店の前まで歩く。

平日の昼すぎの百貨店の前には

沢山の子連れの女性達が出入りしていた。

当然、歌う女など、居ない。




手持ち無沙汰。




男は煙草を取り出すと

マッチに火を点けた。

小さな炎が揺らめく。

咥えた煙草を近付ける。



風が吹いて火が消えそうになびいた。

手で覆うと炎は少しだけ大きくなり

紙が焼ける音と匂いを残し

そして火は消えた。



息を大きく吸う。

続いて吐き出すと

冷たい空気に白く熱い空気が混ざった。




「生きていれば」




不意に絵描きの男が呟いた言葉が浮かんだ。




生きていれば。


生きていれば。


生きていれば。




そうすれば其の先に一体何が在るというのだろう。




生きていれば何時か良い事がある。


そう聞かされて育った記憶がある。




生きていれば君は戻るのだろうか。


生きていれば傷は治るのだろうか。


生きていれば救われるのだろうか。


生きていれば許されるのだろうか。


生きていれば


どうして君と僕だったのか


其の答えも解るようになるのだろうか。




煙草を指で弾く。

雪の上に落ちる。

音も立てずにアッサリと

煙草は其の命を終えた。



男は不意に歩き出す。



ペンキも剥げかけたような

小汚い町営バスに乗り込む。

独特のゴムのような臭いと

所々ボロボロの椅子に座る。

大して愛想も無い放送が車内に響き

バスは走り出した。



女の墓参りに行く。



愛した女が傍に居た頃には

男は外に出たがらなかったので

一緒にバスに乗る機会など殆ど無かった。



乗客は男の他に五名程しか居ない。

老女と、小さな子供を連れた女と

男と変わらぬような年頃の女性と

仕事で外回りをしているような、若い男。



男は窓の外を眺めた。

其れでも何度かは一緒に乗った事もある。

女と一緒に写真の撮影に行った事がある。

其の時にもバスに乗った。



秋の終わりだった。

絵や像を観たり紅葉を観たり

美味しい紅茶を飲んだりした。

そうしながら一緒に写真を撮った。



実に寒く実に晴れた日だった。


歩いていると雪が降ってきた。


其の年の初雪だった。



女は空を見上げ


白い息を吐いた。


其れは活き活きとした


熱い白い命の息だった。





女は不意に



真っ直ぐに向き直り



小さく呟いた。





「初雪は、毎年一緒に見ようね」





そうして少し照れたように笑った。




だから静かに男は女の手を繋いだ。




其の年の初雪は、音も無く、降り続けた。








不意にバスが急ブレーキで止まる。

男は我に返る。

雪で路面の状態が良くないようだ。

何気なく車内を見渡すと

乗客は二人に減っていた。



老女と、同じ年頃の女性。



男は窓の外を眺める。

雪は、降っていなかった。





「初雪は、毎年、一緒に、見よう、ね」





外を眺めながら

口元で小さく呟いて

男は自嘲気味に笑った。





「生きて、いれば」





今度は絵描きの男の言葉を呟く。

男は其の侭、深く、目を閉じた。






なぁ、輪花。


君が僕に見せたかったモノとは


こんなモノだったのかい?




なぁ、輪花。


僕を独り夢から覚めさせてまで


君が僕に見せたかったモノとは


こんなモノだったのかい?






是が現実か。






なぁ、輪花。



どうして君と僕だったのだろう。



どうして君と僕が共に生きていたんだろう。






男は目を開けた。



独特のゴムのような臭いと

所々ボロボロの椅子に座る。

大して愛想も無い放送が車内に響き

車内を見渡すと

年頃の女性は既に居なくなっていた。



前方に老女が独り座っている。

此処からでは容姿は見えない。

バスは相変わらず愛想も無く走り続けた。



窓の外の風景が少し寂れてきた。

時折、枝の隙間から海が見える。

バスは緩い坂道を登り始めた。

女の墓は海の見える場所に在る。




老女は何処へ向かうのだろう。




先程から後姿だけ見える老女。

男は最後部に座っていたし

老女は最前部に座っていた。


男からは老女の表情を知る事ができない。

何故だか不意に妙な気分になった。

老女を見てみたくなった。




上品そうな背中だった。




もうすぐ墓に到着する。

バスを降りる時に振り返り

老女の顔を見ようと思った。




バスは緩い坂道を登る。


少しずつ墓へと近付く。


やがて


愛想の無い放送が響く。


男が降りる場所だった。


緩やかにバスが止まる。


最後部の座席から立ち上がる。


老女の顔を見たい衝動に駆られる。


男は歩き出そうとした。


瞬間、老女が立ち上がった。


其の侭、老女はバスを降りた。






呆気にとられた。






実に一瞬の出来事だった。

男は我に返り

財布から小銭を取り出す。



小銭が中々見当たらない。

慌てる指で数枚の小銭を掴むと

其れを支払い、急いでバスを降りる。



既に老女の姿は何処にもなかった。



背後で愛想の無い音を立て

今、降りたバスが走り去って行った。






海が見える。


寒い風と寒い潮の匂いがした。


男は気分を取り直した。


寒い風と寒い潮の匂い。


悪い気分では無かった。




愛した女の墓に向かった。


歩いて数分の距離だった。


途中に花屋が在る。


花を買った。




どうして君と僕だったのだろう。




男は深く息をしながら、再び、思った。




海はとても綺麗だ。


雪はとても綺麗だ。


男と女が過去に生きた街は


あの頃と何の変わりも無く


沢山の人々が今日もイキ続け


海はとても綺麗で


雪もとても綺麗だ。




其れ等に理由など無いのかもしれない。




どうして君と僕だったのだろう。




其れ等に説明など無いのかもしれない。




どうして君と僕だったのだろう。










空を見上げると雪が降ってきた。










此の街に来て最初の雪。



女の墓に向かう。



もうすぐ其処だ。



女の墓に向かう。



フと目前に人影があった。






何処かで見慣れた不思議な後姿だった。






上品な背中。



老女だった。






「生きていれば」






突然


男の頭で言葉が響いた。


男の心臓が大きく痛む。






「生きていれば」






突然


男の頭で言葉が響いた。


男は心の中でこう呟く。






なぁ、輪花。



君が僕に見せたかった現実とは何だ?






なぁ、輪花。



君が僕に見せたかった現実とは是か?










「生きていれば」










雪が降る。





此の街に来て最初の雪が降る。





老女がゆっくりと振り向いた。





其の容姿は紛れも無い





男が愛した女の其れだった。
























「初雪は、毎年一緒に見ようね」























生きていれば





どうして君と僕だったのか





其の答えも解るようになるのだろうか。
[ 2013/11/18 20:08 ] 長編:ボクラが残したコトバ | TB(-) | CM(0)
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