VOSTOK8 blog - Astronaut' Monologue TOP  >  長編:胡 【Butterfly】 蝶

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胡 【Butterfly】 蝶 / 3

■K

絶望が大きく口を開いて

ボクラを飲み込んだとして。


希望が深く耳を澄ませて

ボクラの心音を聴いている。


君と、僕が、何処に居ても。

--------
■R

「今日、早上がりしたい」

ピーチ・リキュールにオレンジ・ジュースを注ぎながら、彼女が言った。

「何で」

軽く三周、ステア。
安いオレンジ・ジュースは、色合いで判る。
彼女が氷を放り込むと、オレンジ色に乱暴な音色が混ざった。

「明日、ライブ打ち合わせ」
「へぇ」
「ポテト、そろそろ揚がる」

グラスを三杯、トレイに載せ、片手で持ち上げる。

今ならば出来る事は、今だから出来る事だ。
パスワード染みた日常を積み重ねている内に、私は正しさとは何かを知った。
だけれど私の知った正しさが、全てにとっての本当の正しさなのかは知らない。
私が知ったのは「このパスワードを打ち込むと、この扉が開く」という事実だけだ。

たまたま開いてしまった扉を眺めて、それが正しいと信じる姿は滑稽では無いのか?

偶然、扉が開いた部屋に堂々と入り込み、さも正解者らしき顔を自堕落にぶら下げ、
不正解を積み重ねる社会人を発見するのに、さほど苦労はしない。
彼女は年下の、バイトの先輩だ。

「夢で食ってくの、大変なんだよ」
「へぇ、何が?」
「食えた瞬間から、それが夢じゃ無くなるのが」

言葉使いは粗雑だが、外見上は誰が見ても女だ。
食えた瞬間と言うが、正に今バイトをしているので、夢で食えている訳ではない。
ライブの打ち合わせと言うけれど、何のライブなのかは知らない。
訊いた事も無い。

賑やかな色のカクテルの横に、揚げたてのフライド・ポテトを乗せる。

「何やってんの、早く行きな」

彼女に急かされ、私は歩いた。
伝票の半券。4号室。同級生の女達のルーム。

--------
■Y
今日は濡れたスニーカーも、明日には乾くだろう。

靴ならば他にもあるし、一日くらい歩けなくても不自由はしない。
食材ならば冷蔵庫の中に充分に詰まっているし、煙草はとっくに止めた。
退屈ならばネット上に散乱している素人動画でも眺めながら過ごせば良い。

スニーカーが濡れたくらいで生活に大きな支障は出ない。
日本経済新聞の記事が書き換えられることも無い。
世界は大きく変わったりしない。

妙に再生回数ばかりが多い音楽動画を眺めている途中で、
トイレに立って気が付いた。電球が切れている。

--------
■D

(我々は対等。)

何の話だ。

(お前の記憶の話さ。)

忘れたな。

(忘れた訳ではない。)

忘れたさ。

(俺は何も食っていない、ならば――)

忘れたよ。

(最初の一文字を、お前にやろう)

--------
■V

(契約は等価。)

何の話だ。

(お前の記憶の話さ。)

思い出した。

(思い出せる訳がない。)

思い出したさ。

(俺は何も食っていない、ならば――)

思い出したよ。

(最初の一文字を、お前にやろう)

--------
■F

何も見えない。

何も言えない。

何も聞こえない。


それでも私が今

存在していると呼べるなら。


君に気付いて欲しいと思う。

君の名前を、知りたいと思う。

胡蝶
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[ 2015/05/15 04:07 ] 長編:胡 【Butterfly】 蝶 | TB(-) | CM(0)
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