
退屈なんだと誤魔化して ヘッドフォン 付けちまうんだ
欲しがるほどに 上手くいかないよな
目に映る素晴らしいモノ全て 僕のモンだとしたら
僕はどれを一番 素晴らしいモノだと思うんだろな
曖昧なんだと誤魔化して かったるい 逃げちまうんだ
求めるほどに 上手くいかないよな
君に宿る素晴らしいモノ全て 誰のモンでもなくて
僕は君の声に触れるのさえ 迷ってしまうんだよな
僕の中の鉛 鉄 灰色で君に反応しても 何にも聴こえないんだ
聴かせてくれよ リラ リラ こんなヘッドフォンじゃ何も聴こえない
君の中の鉛 鉄 赤色は君を何処まで連れて行ってしまうんだろ
教えてくれよ 君がいる場所を 鉄塔と円盤は何も届けてくれない
僕に浸透する 静脈を駆け抜ける存在 何か足りないよな
僕を扇動する 心臓を突き抜ける感覚 音が足りないよな
ああ そうか
何て事ない 手を当てるだけで良かった
また聴こえる 君の心音
ああ そうか
何て事ない 手を当てるだけで良かった
また聴こえる 君の心音

大量の酸素を吸い込んで 大音量の心音を鳴り散らかせて
高温を抱えながら 走り続けて 手を伸ばしてたんだ
動脈は そうやって僕を 此処に連れて来た
乱暴な感情は要らない 眠るような朝だ
僕の事なんて誰も知らないけど 僕の存在を 僕は知ってる
出来れば 君にも僕を知っておいて貰えたらと 願うんだけど
もしも そうなったら どれだけ素晴らしいんだろう
忘れないで欲しいけれど 忘れてしまっても構わない
世界を変えてしまいたい 変わらなくたって構わない
静脈は 静かに 其の先端まで
君の存在が 只 全身に浸透するだけ
静脈は 静かに 其の先端まで
君の名前が 只 全身を回転するだけ

風邪をひいた。
とは言え大体、僕は四六時中、風邪をひいているような、ダラダラとした面倒くさそうな風体だし、基本的に鼻声のような喋り方らしいので、あまり普段と変わらない。周囲の人達にしても、それほど違和感はなかろう。
只、本人が「風邪ひいた、風邪ひいた」と一人で騒いでいるだけである。「あ、そ」てなモンである。
それにしても今年の風邪(この「今年の風邪」という表現は、風邪をひいた時の枕詞なので、深い意味はない)は少し厄介で、喉の痛みや止め処なく流れ続ける鼻水が何日間も続くのに、熱が出ない。
ここまできたら、いっそ出て欲しい。ものっそい高熱が出て欲しい。何というか、非常に中途半端である。
コンビニの少年週刊誌コーナーとエロ本コーナーの中間に置かれた、週刊実話くらい中途半端である。
脱ぐなら脱ぐ、脱がないなら脱がない、ハッキリして頂きたい。
冬が寒い。
当然の事である。寒いから風邪をひきやすいのであるが、春が来れば風邪をひかないだろうか。
春は春で、花粉症の季節が近付いており、考えるだけで今から憂鬱だ。一年で一番、嫌いな時期である。
だが春には春の良さがあって、それは大地が芽吹き、生物達が目覚め、再び命が動き出すという感覚である。
……と、ここまで考えて、フと気付いた。
大地が芽吹き、動物達が目覚める? 春だからといって、そんな光景、そんなに目にしているだろうか?
春の事を考えた。
我々の生活の多くは、アスファルトに塗り固められた地面の上で、冬でも暖房を効かせた部屋の中で、一年中、出来るだけ快適な生活を過ごせるようにと工夫された環境の中で、繰り広げられている。そこに動物だとか、植物だとかが入り込む余地は、実は想像する以上に皆無である。綺麗事を抜きにしよう。皆無である。
「街に緑を」などと呼びかけて街路樹を植えても、それは自然とは呼べない。
部屋に観葉植物を飾るのも自然とは呼べず、素晴らしいガーデニングも人間の活動の域を出ない。
芽吹いた大地の上、咲き始めたタンポポの上を、羽を広げた蝶が飛んでいる。
それは都市伝説に近い。そんな風景が、今、何処にある?
何処にも無い、とは言わない。勿論、日本の何処かに必ず存在する。では、何処にある?
少し考えてしまった。確かに子供の頃、家の近所でそういう光景を見た気がする。確かに見た。
だが、ここ数年、家の近所でそんな光景を見たかと問われたら、そんな記憶は何処にも無いと答える。
田舎(という表現は失礼かもしれないが)に行けば、そういう光景は必ず存在するだろう。
当然だ。容易に想像できる。だが身近ではない。
ある程度、それなりに発展した都市地域で、普通に暮らす者達にとって「春に蝶が飛ぶ」のは都市伝説だ。
誰かが見た、何処かにある、という知識だけで夢想する、噂話だ。
何という「人間の為だけに構成された社会だろう」と気付いて、少し愕然とした。
そこでは植物だとか、動物だとかの存在は、人間の生活に対する、都合の良い付属物でしかない。
「植物の緑は疲れを癒す効果がある」だとか「家に帰ってペットに癒される」という感情の延長でしかない。
何処までも「人間対人間」の為だけに考え尽くされた社会。
人間さえ存在すれば問題なく取り仕切られてしまう、人間の為だけの世界。
人間なのだから、そこに異を唱えるつもりもなければ、植物や動物の代弁を気取るつもりも無い。
只、そう気付いて、僕は少し愕然とした気分になった。
春が来る。
きっと僕等の知らない場所で、種は土の中から芽を生やそうとし、動物達は冬眠から目覚める。
雪解けの川が勢いよく流れ、やがて花が咲き、その上を昆虫は飛ぶだろう。
どうでもいい。別に関係ない。僕等の生活に影響は無い。
そうか。影響は無いのか。何と寂しい事だろうな。
僕はインドアな人間だ。外は嫌いだ。部屋の中にいるのが好きなのだ。
それでも、もしも春が来たら、散歩でもしたいな。花粉が飛んでいるだろうから、苦手だけれど。
花の上を蝶が飛ぶのは、都市伝説なのか?
こうして大雪が降っているような季節では、まだ確かめようもない。
風邪をひくのは寒いからだ。寒いのは、今が冬だからに他ならない。いっそ高熱でも出ないものか。
ノドの痛みと、止め処なく流れ続ける鼻水の、その緩慢な脱力感の中で、僕は考えるんだ。
春は、まだか。




