VOSTOK8 blog - Astronaut' Monologue TOP  >  2008年08月

ロシュ漫談(壱)



ブロロロロローン。(車の音)
キキキィッ!ガチャガチャ……ウィ~ン。(車が急停止し、ドアが上に開く音)

やぁ、みんな達~!お待たせ、みんなのロシュだよ~!
……え、誰?あっはははは!嫌だなぁ、【M線上のアリア】に出てくる僕だよ、僕!
そう、この僕こそ、地上に舞い降りた最後の貴公子!ロシュ!霧島ロシュとは、僕の事じゃないか!
……え、わかんない?
あはははは、その冗談、面白いなぁ!はい、そんな君にはお小遣い。すごいだろ、それが二千円札だよ?

ちなみに僕、本編の作者Roche氏の許可を得ないで勝手に書かれてるから、
後から怒られるかもしれないんだよ。……え、何の話かって?そ・れ・は、コッチの話さ!
それはともかく!ああ!今日も世界は愛に包まれてるなぁ!地球、サイコー!

あれ、どうしたんだい、可愛い子猫ちゃん達?そんな微妙な顔して。
え?「本編のロシュは、そんなキャラじゃない」?
あはははは!そんな事は百も承知さ!知っててやってるんだ!どうだい、タチが悪いだろう?

さ~て、子猫ちゃん達?
どうして、この僕、ロシュがこんな辺境の地に姿を現したか、その理由が解るかい?
……そう、暇だったんだよ。いやいやいや暇じゃないよ。この僕、ロシュに暇な時間なんか無いよ。

いよいよ【M線上のアリア】が本になって、九月から一般販売が始まるからだよ。
そこで、この僕、霧島・ことごとく美男子・ロシュが、その宣伝役を買って出てあげようってワケ。

まず、この本は!……、え?
え、何々?あ、もう今日、時間ないの?
あ、じゃあ今日、ここまで?あ、ほんと?あ、そう……。

……えっと、あ、じゃあ子猫ちゃん達、また今度、あの、白銀の夜にランデブーしようね!

ブロロロローン。(煙を上げながら)

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P.S 関係者の皆様へ(というかRocheさんへ)
色んな意味で、ごめんなさい。後悔は、していない。
■本編【M線上のアリア】のロシュさん(本物)はコチラ!→ロシュ編を読む
[ 2008/08/30 19:24 ] 告知:M線上のアリア | TB(-) | CM(-)

全米は泣いてばかりか。

※音が出るので気を付けてくださいね。


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M線上のアリア 出版告知 by M線上のアリアさん

カンタンCM作成サイト コマーシャライザー


こういうCMがあると「おお、いよいよか、ドキドキ」って感じがしますよね。
内緒ですが、僕もドキドキしてます。
携帯の人は見られないのかな。だとしたら、ごめんなさい。
パソコンで見られない人は、Flash Plaer9をインストールすると見られますよ。

さて、いよいよ一般販売が近付いて来ました。
一応まだ「発売は9月から」としか言ってないのですが、
正式な発売日は特設ブログにて告知しますので、チェックしてみてださいね。
[ 2008/08/28 19:11 ] 告知:M線上のアリア | TB(-) | CM(-)

東京コミケ紀行 其の八(最終話)



■東京
最後の朝。
最初の夜は雷雨だったのが嘘のように、よく晴れていた。千葉の朝は穏やかだった。
5時頃、目が覚めると、隣でちゅい太君は、まだ眠っていた。一人、起き上がり、風呂に向かう。
朝方、人は少ない。露天風呂に浸かりながら、僕は昨日の出来事を思い出していた。今、とても静かだった。

風呂から出て、着替えを済ませ通路を歩いていると、ちゅい太君に会った。
「あ、いたいた」
「おはよう、風呂でも入って来たら?」
「うん、そうする」
ちゅい太君が風呂に入っている間、僕は冷たいジュースを飲みながら、煙草を吸って過ごした。
緩やかに、日常が取り戻されていく。とは言え、まだ非日常の中だ。それでも、何故か千葉の町は落ち着く。
きっと、僕が暮らしている町に、少し似ているからじゃないかな、と僕は思った。
掃除係のおばさんが、喫煙所に入ってきた。おばさんにとっては、きっと当たり前すぎる日常。僕の非日常。

13時10分の飛行機に乗る為、僕等は千葉を離れ、羽田空港に向かった。
時刻は、まだ8時半。早すぎるくらいだったけれど、実はこの後、僕には会っておきたい人達がいた。
元々、最終日に会う予定は無かったけれど、滞在中にメールで連絡を取る中で、羽田で会える事となった。
それは、ある一つの季節、あるひとつの時期、ある一つの時間、僕等が住みなれた、あの北国の町で、
共に笑い、共に悩み、生活していた人達だった。今から僕等が帰る、あの町で、共に過ごした人達だった。

この旅の終わりに、これほど相応しい相手はいない。
札幌で出会い、共に大切な時間を共有し、今は東京で頑張っている人達と会って、また札幌に帰る。
偶然の積み重ねのような旅だったが、やはり最後も、そのように出来ていた。偶然ながら見事なシナリオだ。

羽田に向かうモノレールの中で、僕は東京の町を眺めていた。
本当に不思議な町だった。きっと当たり前のように暮らしている人達は、それに気付かないだろう。
東京の町には、地方特有の文化のようなモノが無いと、ずっと僕は感じていた。情報過多。増加。飽和。
ベクトルが多方向で、その実「東京らしさ」というモノが無い。延々とテレビをザッピングしている町のようだ。
とても失礼だけれど、ずっと僕はそう感じていた。だけれど町を横切るように走るモノレールに揺られながら、
僕は少し違うだけ感想を持った。モノレールは、もっとも東京らしい、特有の文化なんじゃないか。

人と町が自然と融合し、生活の一部になっているのが「文化」だ。
当たり前に溶け込んでいるのが文化だ。それは決して、象徴になってはいけないし、誇示してはいけない。
だから例えば、東京タワーは、東京の文化では無い。もちろん国会議事堂も、東京の文化では無い。
モノレールはどうだ?きっと誰も当たり前のように感じている。川を横切り、町を横切る、奇妙な形の乗り物。
それは文化だ。ザッピングの最中に、手を止める。これは素晴らしく、東京らしい。ずっと大切にして欲しい。

子供が二人、車窓から広がる、東京の町を眺めていた。
下を見て「高いなぁ」なんて言い合いながら。
僕は、只、それを見ていた。

--------
■再会
羽田に到着したのは、午前10時頃。かなり時間に余裕がある。
会いたい人は二人。その二人共、大体11時頃に羽田に来られる、という事だった。
僕とちゅい太君は、お土産を買う為に、空港内を歩いた。
「ごまたまご、良くない?」
「ああ、良いね、これ」
黒ゴマのお菓子か。ふむ。などと一人で妙に納得しながら、僕はそれを何箱か買った。
それから(相変わらず)喫煙所に向かい、21世紀に残る最後の喫煙者となっていくべく、煙草を吸った。

10時半になり、朝御飯を食べていない僕等は、何か食べておこうという事になった。
すると空港内に「カレーとビールが美味い店」の看板を発見。
「お、カレーが美味いんだって」
「え、まさか三日間、全部カレー食べる気?」
「うん」
僕は一切の迷いも無く、その店に入ると「チキンとエッグのカレー」を注文した。
結局、僕は三日間、三皿分のカレー以外、何も口に入れなかった。我ながら素晴らしい。感動する。
これほどまでに好きになったモノに一途な自分を、我ながら褒めたい。称えたい。カレーライスを敬いたい。
カレーライスと結婚したい。指輪だけでも買っておきたい。カレーが美味けりゃ、ずっと世界は平和なのだ。

11時になり、僕は会いたかった人達と会えた。
その内の一人、後輩の佐久間トーボ君は、今では東京でダイノジさんの構成作家をしている。
今回の滞在中も当初はトーボ君の家に泊まろうとしていたのだが、何だか仕事が忙しそうだったのと、
昨夜は「ダイノジの大谷さんのご好意で、サザンのライブに行ってる」という仕事とも自慢とも付かぬ理由で、
僕は会いに行くのを(自分も疲れていたし)辞めておいたのだ。

数年前の夏、一緒に漫才コンクールの舞台に立ったのが嘘のようだ。
今、彼は曲がりなりにも「お笑い」を自分の仕事にしている。大変だろうが、自分の道を進んでいる。
僕に会うと、彼は4枚のCDをくれた。彼がオススメするロックンロールなCDだった。

僕の人生において、彼と出逢った事で受けた影響は計り知れない。
この小さく、陰気で、内気で、人見知り全開の、同じクラスにいたら目立たない子の、彼から受けた影響だ。
僕には、似た者同士を好きになり、愛そうとする習性があると思う。
しかし彼の中にあったのは、僕以上にドス黒い、変化と上昇への衝動だったと思う。
僕は彼から、ロックや、マンガや、お笑いや、本当に沢山の影響を受けた。(陰気な男同士のそれだった)

トーボ君が、電話では「飯おごってくれんですよね!」などと相変わらずな発言をしていたのに、
待ち合わせ場所に着くと他に知らない人達がいて、あからさまに萎縮した態度になったので、僕は爆笑した。
この辺の人見知り具合は、あの頃と何も変わらないままだ。トーボ君に貰った4枚のCDを、僕は眺めていた。
それを聴きながら、今、僕はこの文章を書いている。

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■帰郷
会いたかった人達と別れ、僕とちゅい太君は飛行機に乗り込んだ。
小さな座席に座り、窓を眺める。僕にとって、この短い三日間の旅は、本当に大冒険だった。
子供の頃、読書感想文を書く為に読んだ少年向け冒険譚のように、僕にとっては小さな大冒険だった。
まず、この旅に付き合ってくれた、ちゅい太君。そして、この旅で出逢えた全ての人達に、深く感謝したい。
シートベルトを締めて、ゆっくりと飛行機が動き始める。

東京の町は、僕に変化を与えてくれた。
千葉の町は、僕に安心を与えてくれた。

ちゃこさん。本当に短い瞬間だったけれど、会えて良かった。同じ場所にいられて良かった。
KIHIROさん。会場に足を運んでくれて嬉しかった。今度はゆっくりお会いしたいものだ。
るどさん。僕等の壁や、緊張を取り除く役目を演じてくれて、どうもありがとう。

ちこさん。笑顔の似合う元気の良い人で、礼儀正しく、想像通りの親しみやすそうな人だった。
ゆんさん。気配りの出来る優しい子。エレベーター内での「教祖様……」発言は忘れません。頑張るよ。
なつめさん。頭の中に沢山のアイデアや夢が、きっと沢山詰まっている子。少し照れた感じが可愛かった。
奏湖さん。ずっと知っていたけれど、やっぱり歌が上手だったな。迷ったら、何時でも声をかけたら良いよ。
卵茶さん。予想を裏切る男前だった。カラオケでの歌は、実は僕の好みだった。仲良くなれそうだと思った。
黒さん。車は本当に良い思い出になりました。さり気ない周囲への気遣いは、大きな優しさだと思います。
ロシュさん。良い意味で裏切られました。「厭味なハンサム」とは逆方向のイケメンで、好感を持ちました。
サクさん。自分じゃ気付いてないかもしれないが、君は充分目立ってました。全てが君らしくて、嬉しかった。

アリエスさん。今回は会えなかったけれど、きっと何時かお会いしたい。
蓮火さん。当日はライブ、お疲れ様でした。今回は残念だったけれど、その気持ちは受け取っています。
砂藤菓子さん。素晴らしい挿絵、本当にありがとうございました。そして今後も、何卒よろしくお願いします。

SOYUZ。僕等を評して色々な人が「SOYUZは、しのめんさんがお父さん。志津さんがお母さん」と思うだろう。
だけど僕等の関係を一番的確に表すならば、実は週刊少年ジャンプの「SKET DANCE」に出てくる三人だと、
以前から僕は思ってます。どちらにせよ僕の役目は、きっと今後もこんな感じなのです。

しのめんさん。道は長いけれど、頑張りましょう。
志津さん。道は長いけれど、頑張りましょう。

飛行機が加速する。再び、背中にGを感じる。走る。加速。加速。
上昇。
飛行。

再び、僕の日常が帰ってくる。
中学生の頃、初めてDeep Purpleを聴いて、それだけでロックの全てを知った顔になったように、
たった三日間、東京を通り過ぎたというだけで、僕は人生の何たるかを、少しだけ知った気分に浸っている。
東京には行きたくなかった。だけれど本当に、行って良かった。世界は、僕が想っているよりも、素晴らしい。

さて、9月からは【M線上のアリア】の一般販売が開始される。
もう、すぐ目の前だ。
きっとSOYUZは、何時もの如く、これからアタフタするだろう。
僕は二人に迷惑をかけながら、また好き勝手な事ばかり言うのだろう。
それでも、以前とは少しだけ違う。僕等は触れ合ったのだ。その目で見たのだ。

そしてまた、世界は動き始めるのだ。

【M線上のアリア】を読む。
[ 2008/08/26 19:14 ] 告知:M線上のアリア | TB(-) | CM(-)

東京コミケ紀行 其の七



■別離
カラオケを終えて外に出ると、雨は幾分、止んでいた。
駅に向かうまでの短い時間、僕は出来るだけ多くの人達と会話するように心がけた。
歩きながら、一人ずつに声をかけていく。贅沢な時間だ。また次の機会に、なんて今は考えてはいない。
今、出来る事をしよう。ほんの少しの時間でも、出来るだけ多くの会話をしよう、皆に声をかけよう、と思った。

皆、別れを惜しんでいる。渋谷駅に到着し、僕等は「まだ遊ぶ組」と「もう帰る組」に別れる事になった。
僕とちゅい太君は、翌日の飛行機で帰るのだから、この後、まったく時間が無い訳では無かった。
しかし本当に申し訳ないけれど、僕等は「もう帰る組」になった。
僕の気力と体力は、実はカラオケの中盤辺りから、もうほとんど限界だったのだ。
前日から、僕は一睡もしてなかったのだ。緊張感だけで、ここまで背筋を伸ばしたけれど、結構限界だった。

「オレンジさん、最後に締めを!」
そう言われて、僕は一瞬だけ迷った。最後に言う事なんて考えて無かったし、今更、長々と語るのも違う。
この時、我々は、妙な一体感に満ち溢れていた。直接、見られる距離で、触れられる距離で、出逢ったのだ。
僕は一人一人と握手して、頭を下げた。感謝で一杯だった。感動で一杯だった。充実感で一杯だったのだ。
「じゃ、一本締めで」と僕は言った。恥ずかしい事は百も承知である。しかし、あまり言葉は要らないと思った。
シンプルに「よ~お、パンッ!」だけで終わらせるのが、一番綺麗だと思ったのだ。

若者集う渋谷の町で、我々は輪になった。この時点で結構、恥ずかしい。
それではお手を拝借、と言った感じに、我々は両手を広げ、渋谷のド真ん中で、大きく一回、手を叩いた。
「それでは、M線上のアリア、これからも全員で頑張りましょう!よ~お、パンッ!」
は、恥ずかしい!恥ずかしいけど全員やってる!何このオッサンくさい青春感!何だこれ!変な感じ!
この夜、渋谷の町で、間違いなく我々は一体となった。(恥ずかしい事を共有した連帯感と共に)

そして我々は、各々別れ始めた。僕と、ちゅい太君と、サクさんが、一緒に駅の構内に入っていった。
また短い時間、サクさんと話す事が出来た。サクさんと会えて、本当に良かったと、僕は思っている。
何せ8年前から会ってみたかったのだ。もっともっと沢山、話したかった。夜通し、酒でも飲みながら。
きっと話す事は沢山ある。まだまだ沢山ある。小説についてだとか、改行についてだとか、きっと色々。
天空の城ラピュタについてだとか、ドラえもんについてだとか、きっと本当に色々。話し足りなかった。

サクさんが後日談で「オレンジさんは一度もサングランスを外さなかった」と言っているけれど、
それはサングラスの下の疲れた目を見られたくなかったからです。あと、カッコ付けたかったからです。
サングラスをかけるとカッコイイと思ってる、昭和の人間なんです。あの時、本当に疲れ切っていたんです。
最後に固く握手をして、僕等は別れた。アリアが、少しでも彼が飛躍する切っ掛けになると良いと思っている。
僕が蜜の靄や、野良犬デュードや、MartSや、色々を経て、SOYUZに辿り着いたように。彼には手が必要だ。
飛べるのだと確信できる、誰かの手が必要なんだ。味方が必要なんだ。もっと自分から手を伸ばせば良い。

後から、一緒にご飯でも食べたかったな、と少し思った。

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■船橋、再び
駅のホームに立ち、肩から荷物を下した瞬間、再びちゅい太君と二人になったんだな、と実感した。
僕は大きく息を吐き出し目を閉じた。ちゅい太君が「しっかり"オレンジさん"をやり切ったね」と言って笑った。
ちゅい太君がいてくれて良かった、と思った。じゃなければ皆と別れた後の寂しさに、耐えられたか解らない。
この日、僕は「しっかり"オレンジさん"である事」を、一番の目標にしていた。ちゅい太君にも言ってあった。

「オレンジさん」というのは、少なくとも僕にとって、完璧な人物だった。
人生の酸いも甘いも知り、他人の痛みを知り、優しく、強く、しなやかで、安心を与えられる人。
それが僕にとって理想の「オレンジさん」だった。僕自身ではない。それは、あくまでも「オレンジさん」の話だ。
そんな「オレンジさん像」が何時頃、僕の中に芽生えたのかは、はっきりと明確な時期がある。

【ボクラが残したコトバ】という物語を書いた頃だ。
今、読み返すと稚拙な物語は、しかし、一部の人にとっては、とても大切にされた作品だった。
決して誰でも知ってるような有名な作品になれた訳じゃない。だけれど、僕にとっても大きな作品となり、
多くの人達の後押しのおかげで出版もした。そしてまた、その作品が、僕自身を縛り付ける事にもなった。

当時、僕の元には本当に沢山の、色々な種類のメールが届いた。その大半が、人生の悩みだった。
生、死、病気、自殺、借金、それでも生き続ける希望とは?そんなメールが沢山届いた。
今から考えてみれば、当時若干二十歳そこそこの若造に、その苦悩の意味が解っていたとは思えない。
それでも僕は、その沢山の悩みに真摯に応えようとした。皆の理想のオレンジさんを演じようとした。
神様のように振る舞おうとした。世の中の全てを知っている顔をしようとした。しかし、無理に決まっていた。

僕は「オレンジ」という名前から、何度も逃げた。結局、僕は人を傷付けるし、完全どころか不完全な人間だ。
それで何度も逃げた。何度も名前を棄てた。だけれど戻ってくるのは、何時だって、この名前の元だった。
きっと「オレンジ」は、僕の理想なのだ。コミケ会場に向かう朝、僕はちゅい太君に言ったのだ。
「今日の僕は"オレンジさん"だから」と。

ちゅい太君が「しっかり"オレンジさん"をやり切ったね」と言って笑った。僕も笑った。 ホームに電車が来た。
僕等は並んで、その電車に乗り込んだ。行先は、再び千葉・船橋。同じ健康ランドに泊まりたかったのだ。
何でわざわざ千葉まで?と思うかもしれないが、僕は前日、千葉を気に入っていた。好きになれば全肯定。
ゆっくり風呂に浸かって、ぐっすり休みたかった。

やがて船橋に到着すると、僕等はまず、駅前で腹ごしらえする事にした。
一日の終わり、疲れ果てた体を引きずるように、夜の駅前を歩く。一件、明るい電光看板。
「松屋」の文字が見えた。牛丼の松屋。この時、僕が何を考えていたか、きっと解る人には解るだろう。

【ボクラが残したコトバ】の一場面を思い出していた。まるで自分が主人公の男になった気分だった。
一日、ギターを担いで町を歩き回って、疲れ果てた体を引きずって、男が最後に辿り着くのは、夜の牛丼屋。
狙って行動した訳では無い。偶然だ。松屋を選んだのは、ちゅい太君だ。その偶然の一致が、可笑しかった。

松屋に到着して、僕はカレーライスを食べた。松屋で、またカレーライスかい!と言うなかれ。
カレーが美味ければ世界は平和なのだ。この日、食べ物を口にしたのは、この時が初めてだった。
朝「今日は何も食べない」と決めてから、本当に今まで、僕は何も食べて無かったのだ。
傍にいた人は解るだろうが、カラオケ屋でも何も食べなかったし、皆のお土産も、その場では食べなかった。

当然、めちゃくちゃ食べたかったのだ。ずっと、お腹は空いていたのだ。
只、緊張でお腹を壊しやすい僕は、理想の「オレンジさん」は、大事な場面でお腹なんか壊さない、と思って、
一日が終わり、皆と別れるまでは、元気でいたかったし、食事を摂るのは一切我慢しようと決めていたのだ。
ようやくの松屋。大好きなカレー。安っぽいカレーが、めちゃくちゃ美味かった。

考えるに、今回の旅は、僕にとっては、この【M線上のアリア】という現在に辿り着く為の、
それまでの過去を振り返り、作品を振り返り、自分自身を受け入れる旅だったような気がしている。
初めて飛んだ後で、やっと解る事もある。飛ばずに気付く事もあれば、飛んで知る事もある。此処が「今」だ。
カレーライスが美味かったのだ。僕は不完全で未完成な人間のまま、結局は「オレンジ」が好きだったのだ。
理想の「オレンジ」になりたいと思う。不完全なまま、僕は完全に憧れている。それは絶対的な、安心だ。

僕の中のオレンジよ、理想を語ってくれ。叶いもしない夢を、堂々と叫んでくれ。
誰もが信じない、存在しないと思っている何かを、それは存在するのだと、嘯いてくれ。
馬鹿げた綺麗事を、臆面も無く吼えて、嘘を吐き、人を騙し、恍惚とした世界を生み出してくれ。
その全てを、僕は現実に変えたい。嘘だけれど、本当になるのだ、と笑うから。だから僕の中の、オレンジよ。
理想を語れ。夢を叫べ。人が鼻で笑う綺麗事を、恥ずかしげも無く吼えてくれ。

お前は、形の無い物語を、一冊の本に変えたんだ。

船橋の健康ランドに到着した。思わず「ただいま」と、僕は言った。
風呂に浸かり、今夜は空いていた仮眠スペースに寝転がり、僕等は朝まで眠った。
隣で知らない婆さんが大きなビキをかいていたけれど、安心して、眠った。
[ 2008/08/25 18:28 ] 告知:M線上のアリア | TB(-) | CM(-)
目次
★説明




★短編






★長編小説














★短編






★お笑い








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