VOSTOK8 blog - Astronaut' Monologue TOP  >  2008年09月

白の丘



「今夜は寒いね」

彼女が最初に言ったのは、何気ない、実にどうでも良い、気温に対する感想で、
それを僕は彼女の隣で、手を伸ばしても届かない距離としての隣で、ぼんやりと聞いていた。

「寒いね、もう夏は終わったからな」

僕等は小高い丘のような場所に立っていた。丘ではない。
只、少しだけ全てを見渡せるような、かと言って海も、川も、町並みさえ見渡せる訳でもない場所で、
そのような小高い丘のような場所で、離れるように寄り添って、並んで立っていた。

「もう冬だもんね」
「否、まだ秋だよ」

紅葉が見える訳では無い。
だけれど今は暦の上で、まだ冬では無いのだから、僕の返答は至極普通だった。
ところが彼女は表情を変える訳でも無く、不満を訴える訳でも無く、当然の事のように言った。

「冬よ、寒いから」

寒いからと言って冬ならば、北極点は年中、冬になってしまう。
冬では無い。それは冬のような春であり、冬のような夏であり、同じように冬のような秋だ。

「秋だよ、寒くても」
「冬だと思えば、冬じゃない」
「否、そんなに単純な問題じゃないよ」

小高い丘のような場所から見える、目の前に広がるべき風景に、僕は呟いた。
目の前に広がるべき風景は、海だとか、川だとか、町並みであるべきだけれど、実際は何も無かった。
只、一面が真白で、その他に色は無く、風だけは感じる事が出来た。

「重さが違うのよ」
「重さ?」
「そう、秋には秋の重さがあって、冬には冬の重さがある」

何の重さ?と問いかけようとして、そこで僕は躊躇した。
僕の頬をすり抜けた冷たい風が、その一瞬間、確かに痛かったから。

「風の重さ?」
「どうかな、それは人それぞれだから」
「だとしたら重さを感じるのも、感じないのも、人それぞれだ」

僕が言うと、彼女は小さく笑った。小さすぎる笑いだった。

「あの続き、書かないの?」
「続き?」
「君が気に入って書いていた、あの小説の続き」
「ああ……」

此処は一面、真白で、何処を眺めているのか、時々わからなくなる。
何処を眺めるのも正解だ。不正解なんて無いんだから。
風が吹き、もしも痛さを感じるならば、その先を睨み付けてやれば良い。
何も無いように見えるだけで、何も無い訳では無いんだ。

「書けるかな?」
「書けないの?」
「さてね、どうだろう」

僕等は変わってしまった。何が変わったのかは解らない。だけれど変わってしまった。
思考が変わってしまった。感情が変わってしまった。視点が変わってしまった。
未来は現在になり、現在は過去になってしまった。そして過去は、

「思い出になってしまった?」
「ははっ、どうだろう」
「はははっ」

白い。白い。真白だ。
綺麗だ。素直だ。正直だ。そして尚、僕は色に憧れている。

「贅沢なんだよ、人間は」
「人間は?」
「否、言い過ぎた、僕は」

真白に憧れる。
その中に一点、色を見付けたい。
僕が進むべき位置を、守るべき場所を知りたい。

「汚れるの嫌い?」
「嫌いでは無い、だけれど僕は」
「白に憧れている」
「白の中に一点、それだけが欲しい」
「贅沢なのね、君は」

寒いな。
もしかしたら彼女の言うとおり、今は冬なのかもしれない。
僕が感じたならば、それで良いのだろう。第一、僕が決めなければ、誰が決めるんだ。
気象庁や、朝の天気予報や、巷の噂話で、冬を決めて良い訳じゃないだろう。僕は冬が好きなんだ。

「自分で決めるよ」
「何の話?」
「さてね、何の話だろう」

此処には何も無いような気がしている。何も無い訳では無い。
彼女の手にさえ届かないような気がしている。決して届かない訳では無い。
重さを知るんだ。自分の重さを知る事だ。僕がイミテイションならば、世界もイミテイションだろう。
それで逃げ場を探しているなら、何て馬鹿げた一人遊びだろう。ところが痛みを感じた瞬間に、重さを知る。
届かない彼女の、存在を知る。

「寒い?」
「そうね、少し寒い」
「だとしたら、今は冬かもしれないな」
「ううん、まだ秋よ」
「ははっ」

この白は、きっとイミテイションだ。
何処に行くべきか解らない、迷った真似をしていた僕が、望んでいただけの白。
汚れを知らないだけの白。決して誰にも届く事は無い白。飾られた白。嘘の白。

「あの続き、書くよ」
「小説の?」
「うん」
「約束、嫌いなんじゃなかったっけ?」
「うん」

嫌いだった。果せる保障が無いからね。
例えば明日の今頃、僕が何を考えているのかさえも、僕には解らなかったんだ。
だけれど憧れるよ。本物の真白に憧れるように、約束が果される日に、僕は少しだけ憧れている。
さぁ、今から僕等は何処へ進むべきか。望むように進んでみよう。今から僕は冬だ。僕の大好きな冬だ。
イミテイションな白は、もうじき全て消えるだろうから、そうなれば僕等は離れ離れだ。望むように進めば良い。
後生会えないかもしれないから、小さな約束を一輪、植えておきたい。

やがて此処にも本当の冬が来るよ。
僕等が自分で決めようとも、決めなくとも、有無を言わせぬ冬が来るだろう。
小さな約束を一輪、植えさせてくれ。

どんな約束かは言わない。
きっと彼女は、もう知っていると思うから。
只、僕等は真っ直ぐに、汚れても尚、純粋である事を願うんだ。

「今夜は寒いね」

そうだね。

さようなら。
こんにちは。
全ては僕等が決めた季節に従って。

白い、小高い丘のような場所に風が吹き、次の瞬間、僕等はいなくなった。
[ 2008/09/27 05:22 ] 小説 | TB(-) | CM(-)

R



全ての絶望を追うようにして 全ての希望が始まろうとしている

君なんかには 僕の気持ち 解るはずもない

だけれど解って欲しいと願うんだ


世界は見えないモノだらけ

見えるモノばかり信じていたら 何にも信じられなくなっちゃうぜ

僕が伝えたかったモノは どれだけ伝えられたんだろ?

何にも伝わらなかったかもって 眠れない夜に限って

世界は僕等の目の前に 笑って姿を現すんだぜ


見えたんだ 見えた気がしてるんだよ サバイバー

生き残ったんだ 今更 死ぬ理由なんか無いだろう

何もかも遅すぎるんだぜ 素晴らしいじゃないか too late to die

何を迷ってんだ 一緒に笑っちまえばいい 世界も笑ってんだろ


全ての後悔を覆うようにして 全ての航海を終えようとしている

僕なんかには 君の気持ち 解るはずもない

だけれど知ってみたいと思うんだ


世界は食えないモノだらけ

食えるモノばかり蓄えていたら 何にも楽しくなくなっちゃうぜ

君が伝えたかったモノは どれだけ覚えていられるんだろ?

もし全て忘れちゃったとしても 悪く思わないで欲しいんだ

どうせ僕は思い出すよ 君の知らない 世界の何処かで


見えたんだ 見えた気がしてるんだよ サバイバー

立ち上がったんだ 今更 迷う理由なんか無いだろう

何もかも遅すぎるんだぜ 素晴らしいじゃないか too late to die

何を願ったんだ 僕等は一人だけれど 別に孤独じゃないんだぜ


世界の気持ちが解らないんだろ 解るはずもないぜ

これから探しに行くところ 今から僕が 探しに行くところ

世界の気持ちが解らないんだろ 解るはずもないぜ

これから探しに行くところ 今から君を 迎えに行くところ
[ 2008/09/25 02:35 ] 詩歌 | TB(-) | CM(-)

サヨナラ火星



僕は混乱した意識の中で また夢を見てる

君の後髪を掴もうとして 掴み損ねた 嗚呼 また何にも無いや


空間に水色

体内に白濁

どちらも僕が伝えたかったモノだ


単純に言うなれば 種を残したい気分 防弾ガラス越しの

無酸素の花に熱を与えてくれよ 僕の心臓よ 足りないな

空中線上に球状に浮かんで 弾けて消えてしまえば良い


振り返るなよ オルフェウス そろそろ飛ぶ時間だ

白化して望めよ

振り返るなよ オルフェウス そろそろ飛ぶ時間だ

覚悟して臨めよ
[ 2008/09/24 16:36 ] 詩歌 | TB(-) | CM(-)

夕暮れスロウ



頭と体がバラバラなので 出来ない理由を探しているよ

一昨日の夜はブルー 昨日の夜はイエロー 今日の夜はどんな色だろ

こねくり回して最後には 何にも知らないって事ばっか 知ってる気分になっちゃうよ

だけど知ってるよ 君の名前 君の仕草 君の泣き顔だって知ってる 嗚呼 君の笑い顔は知らない


夕暮れはスロウに伸びて 僕の心臓まで

感覚的に捉えたままで 描けない君の輪郭まで

足早に過ぎる 惰性で流れる 放物線状の時間の隅々まで


夕暮れはスロウに伸びて 次の心音まで

夕暮れはスロウに伸びて 次の心音まで

縮んで 弾ける ほんの一瞬まで

紡いで 届ける ほんの一瞬まで
[ 2008/09/23 15:29 ] 詩歌 | TB(-) | CM(-)
目次
★説明




★短編






★長編小説














★短編






★お笑い








Blog Search
QR CORD
QR