VOSTOK8 blog - Astronaut' Monologue TOP  >  2008年11月

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週末は忙しい。仕事が。
まぁ仕事をしている人であれば「忙しい」と零すのはステータス。
同じく「寝てない」「疲れた」「出逢いが無い」も、働く人のステータス。

爆音ロケンロール
なるものを聴きながら、夜と朝の中間を過ごしている。
The MUSIC で The DANCE。
Take the Long Load and walk it.

僕等は難しい事柄に、眉を顰めて嘆き合う為に、出会った訳では無いよ。
只、話したり、考えたり、触れたりする為に出会った。
あまり複雑にしない方が良い。
君の世界を。

月の綺麗な夜だ。
シリウスから一直線にオリオン。
まったく泣きたくなるみたいな夜だよ、まるで。

僕等の身勝手な言葉のリズムよ、心音を越えてくれないか。
一弦から緊張。緩和を経て融解。
停止して号泣。

楽しい事で笑ったならば、どうか忘れないでおくれよ。
君が笑った、声のこと。
その瞬間に高鳴った、音も無く近付いた、心音のこと。

僕等は何一つ笑えない訳では無いだろう。
悲しい扉を開けたり閉めたりしたって、もう誰も居ないだろうよ。
もう何も無いだろうよ。
だからね、どうか、もう忘れないでおくれよ。
君が笑った、今のこと。

僕等の世界は単純にて明快。
笑う為に笑い、笑う為に泣き、笑う為に怒り、笑う為に憂う。

爆音ロケンロール
なるものを聴きながら、夜と朝の中間を漂うのです。
君を想ってシタタメル、また言葉。
心音を越えない言葉。

越えさせはしないさ。

僕は生きてるからな。
[ 2008/11/30 17:05 ] 雑記 | TB(-) | CM(-)

其の氷上を、跳べ。

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真央ちゃん、良かったね。

浅田真央がNHK杯のSPで首位に。
僕は別にフィギュア・スケートは詳しくないのだけれど、美しいよね。 そして凛としている人――すなわち不安を抱え、非難に晒され、それでも常に、 それらを乗り越えようとしている人達は綺麗だ。それが女性であれば、尚、美しい。

安易に非難する者は常に愚かである。彼等は常に己を省みない。 批判に責任は伴わず、また責任が伴わないからこそ、批判は成立する。 他人の努力を鼻で笑うのは、やはり無音の批判であり、無責任な嘲笑なのだ。

何が言いたいかというと、まぁインターネット上に散見される下品な批判の数々。 その全てが素人によって行われ、また素人ゆえに無自覚な批判が行われる。 世界で勝負する日本人を、同じ日本人が批判する意味が、イマイチ解らない。

我々には同朋意識が希薄であり、また同胞意識が必ずしも素晴らしいとは言わないが、 下手な演技をしたならともかく、首位の演技をして批判される謂れはあるまい。 それにしても我々は無責任であるし、事スポーツに関しては厚顔無恥である。

五輪で野球が惨敗すれば、普段は野球観戦などした事もない者達まで、 鬼の首を取ったかのように騒ぎ立て、水泳で金メダルを獲得すれば手放しで褒め、 かと思えばサッカーで日本が韓国に負ければ、すぐに「闘志が足りない」と言う。 日本と韓国の因果関係に関しては、やや蛇足であり複雑なので此処では語るまいが。

例えば体育のバスケットボールの時間にレイアップ・シュートを決められぬような人間が、 マイケル・ジョーダンを尊敬するならいざ知らず、コービー・ブライアントを罵倒するなら、 やはり、それは厚顔無恥で、酷く愚かな行為と言える。

否、各人の評価は自由であり、嗜好も自由だ。
また我々には言論の自由があり、思想の自由もある。
問題なのは、我々の思考が下品になる事である。
下品な批判は、やはり下品なのだ。

片や不安を抱え、非難に晒され、それでも常に、それらを乗り越えようとしている。 その生き方は美しく、美しい。時に自分本位に映ろうとも、やはり美しい。 そして、それを卑しく乏しめる行為の、何たる下賎な事か。

例えば「ニコニコ動画」という動画サイトには、 中高生から大学生(下は小学生までいるだろうが)、社会人から中高年まで、 様々な年代の人間が集まっているのだろうが、基本的に、あれは子供の為の場所である。

これは例えば大昔に、漫画という媒体を「子供の為のモノである」と謳った、 当時の大人達の言い分に似た響きを持っていると思うだろうが、実際は、やや趣が異なる。 当時の大人達の多くが、漫画という媒体を子供のモノとして無理解を示し、邪険に扱ったり、 時には有害図書として一斉に焼却した時代があったのとは異なり、現代の我々大人達は、 本来であれば子供達の為のモノを「共有」している。同一視点で楽しむ事が出来る。
(これは「家庭用テレビゲーム」等に関しても同じであろう)

これは非常に良い点であり、また悪い点でもある。
何故ならば、共有してしまっては、教育は簡単には成り立たない。 同じ視点で理解を示すのは大切だが、ずっと同じ視点では導く事が出来なくなる。 これはインターネットの匿名性・覆面性ゆえに発生する共有体と言える事にも繋がるが、 要するに、――ここで話を最初に戻そう。

大人も子供も、一緒になって物事を批判し、一緒になって物事を擁護する。
これは、実は共同体として稀であり、異常である。
それが下品だ、と言っている。

普通、どの国の文化においても、子供は大人の真似をしながら成長する。
大人の言葉を真似、大人の思考を真似る。
大人は、嘗て自分が聞き教わった道徳(昔話や諺である)を、子供に話す。
それが脈々と伝わり、固有の習慣となり、固有の文化になる。
それが(良くも悪くも)教育である。

我々の国に本来、誇るべき習慣と文化があったのは有名な話であるが、
それが今後も脈々と受け継がれるかと問われると、驚く程に希望は薄く、
また受け継がれる事が正しいかと問われると、疑問を抱く人達は多かろう。

さて、まぁ本来、我々の文化には「野次馬文化」というモノもあるし、
同じく陰口・嫉妬・策謀と言った陰湿な文化もある。
無論、共同体を作り出すのも文化だ。

であればインターネット上で行われる下品な会話も、
本来の我々の文化と受け流せば、至極納得のいく話でもある。
奇異な点は一つ。大人が子供を導かない。

子供には子供のコミュニティが発生し、また派生し、
大人には大人のコミュニティが発生し、また派生する。
互いは一定の距離を保ちながら、互いを「うざい存在だ」と牽制する。
その割、匿名性・覆面性のある場所では、同一視線で語り合う。
非常に奇妙な関係である。

余談だが、mixiの年齢規制が緩和されるらしいので、
巷の規模で、このような論議(うざい・うざくない)は起きるのだろう。
どちらでも良い。簡単な事だ。大人が子供を導け。己の責任を放棄するな。
mixiに子供が入ってくるくらいで、ぎゃあぎゃあ騒ぐな。
インターネットは別に、夢の国でも何でもない。無論、パチスロ屋でも無い。

我々がそうこう騒いでる間にも、何処かでスポーツ選手達は、汗を流す。
表現者達は頭を悩ませ、才能に迷い、努力に咽び、涙を流している。
そして我々は、また無責任に、それを嘲るように笑うだろう。
怒り、呆れ、一喜一憂するのだ。それでも良い。

唯、忘れはいけないのは。

しかし、我々もまた、演者だ。
競技者であり、演技者であり、人生の演者だ。
子供達は我々を見て育つべきであり、我々は子供達に見せるべきだ。
恐れ多くも、生きるとはどういう事なのか、を。

其の氷上を、跳べ。

背筋を伸ばすが良い。泣くな。飽きるな。呆れるな。
すなわち不安を抱え、非難に晒され、それでも常に、それでも常に。
それらを乗り越えようとしている人達は綺麗だ。
それが女性であれば、尚、美しい。

そして男であれば、尚、逞しい。
[ 2008/11/29 11:47 ] 雑記 | TB(-) | CM(-)

其れは通り雨。そして雨。 -後編-

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鼓動が、水を跳ねる音が聞こえる。
鼓動を伴った水が水を跳ねて、また別の水を跳ねる。
跳ねた水が重なって、また別の水溜りを作る。其の水も、跳ねる。

人影が近付いて、僕等は息を殺した。
身を低く丸めて、暗闇に飲まれようと努めた。
「何?何?」
ミチルが不安げな声を漏らしたので、其の口を塞いだ。
「近所の兄ちゃんだ、多分……」
小声で伝える。
恐らく男の方は、近所に住んでいる高校生。女の方は解らない。
「もう喋るなよ、ミチル……」
ミチルの口を塞いだまま、僕は穴を覗いた。

男女は手を繋いで走り、もうすぐ近くまで来ていた。
雨を避ける為に、此処に入る気だろうか。
この青いトンネル状の土管は小さいが、横には長く10m以上ある。

僕とミチルは中央より左寄りの位置に身を隠している。
もしも男女が右側の入口から中に入れば、息を殺して身を潜めていれば、
暗闇に隠れて見付からないはずだった。足音は次第に大きく、近くなった。
声が聞こえる。

「ああ、何だよ、この雨!ほら、早く入れよ!」
「ちょっと!何なの、この穴?こんなトコで休む気?」
「うるせぇ、いいから早く入れよ、濡れるよりマシだろうが!」

とっくに濡れているのに、男は乱暴気味に言った。
強引に促されるようにトンネルに入ると、女は小声で文句を言った。
僕等とは逆方向の、右側の入口。
穴から漏れた光で、影が動いているのが解る。

(……何?)

耳元からミチルの小声。喋るな。見付かるだろ。
影が動き、ミチルは其れを見ている。不安なのか、僕に体を寄せた。
動くなよ。黙っていれば、向こうからは僕等が何なのか解らない。影を動かさなければ。 多少の声ならば雨音が隠してくれる。だけれど影は動かしてはいけない。 気付かれてはいけない。ミチル、これは単なる隠れんぼだ。

(……大人から、隠れるんだよ)
(……何?)
(……得意だろ、隠れんのなら)

ミチルは隠れんぼが苦手だった。其のくせ見付かりにくい場所に隠れる癖があった。 何時も一番最後に見付かるのがミチルで、其のままずっと見付からない時もあった。 ミチル、隠れんぼっていう遊びは、見付けられる部分に面白さがあるんだよ。 見付けられないままの隠れんぼなら、最初から居なくたって同じ事なんだ。 だけどね、ミチル。今は見付からない為の隠れんぼをするんだ。 大人に見付からない、隠れんぼだよ。

(……得意だろ?)
(……うん)

男女の影は初めの内、小さな言い争いをしていた。
女の声が甲高くて、其の声が雨音を裂くように聞こえてきた。
「ちょっと汚い!何なの此処!ガキの遊び場じゃん!」
続けて男の低い声。声変わりを終えた、低い声。
内容は聞こえない。再び女。
「だから!最初から家に行ったら良かったんじゃん!」
雨音。乱暴な雨音。瞬間、風。小さな穴から、風。
「親がいるとか知らないから!……ちょっと!」

暗闇の中で、僕とミチルは動かなかった。
体育座りの姿勢のまま、息を止めるように動かなかった。
少しでも動いて、大人に気付かれてしまうのが怖かった。
自分の存在を知られる事を、極端に恐れていた。高校生が怖かった。

もし見付かったら殴られるだろうか。何も悪い事をしてないのに?
殴られるかもしれない。何時だって大人の考える事は解らない。
高校生くらいの大人が考える事が、特に、僕等には解らない。

だって彼等は、親や先生よりも、ずっと僕等に近いはずなのに、何時だって誰よりも大人ぶっている。僕等を遠ざけようとする。 僕等を邪魔な者(其れは例えば、大嫌いな自分自身)を見るような目で見る。 だから隠れなければいけない。大人に見付かってはいけない。

(……あれ何?)

僕の思考を遮るように、耳元でミチルが呟いた。
首を動かさないように、視線だけを動かす。
女の甲高い声は、もう聞こえてこなかった。
代わりにフタツの影が、静かに動いていた。

(キス、してる……)
(え?)

瞬間、割れたビール瓶と、下品な雑誌の存在を思い出した。
僕の足下に転がっている、近所の兄ちゃんが置き忘れた、下品な雑誌。
ビール瓶の破片。
破片。

(何?)
(いいから見るな!)

鼓動。
僕の心臓が、血液を圧し出す音が聞こえた。
急に黙っているのが辛くなって、何処かに逃げ出したい気分になった。
雨音が、其れを拒絶している。
僕に逃げる場所は無くて、只、其の影から目が離せなくなった。

影が動く。

衣服が擦れる音

聞こえるような気がする。

地面。
濡れている。
小さな雨は濡らしていく。

水は一方向へ。
やがて定められた場所へ。
馴れ親しんだ場所から、知らない場所へ。

「あ、駄目……」

瞬間、光。
小さな穴から、一瞬の光。
足元の下品な雑誌の、カラー・ページ。
其れと同じ色をした、女の肌。
被さるような、男の息。
再度、闇。

「きゃ!」

突然、ミチルの声。
振り返る。見えない。手を握る。
影が動く。

「誰だ!?」

男の声に反応するように、僕は叫んだ。

「逃げろ!」

ミチルを強引に圧し出す。
低い姿勢のまま、ビール瓶を踏み潰す。
突風。轟音。雑音的な無音。静寂とは正反対の無音。

僕とミチルは手を繋いだまま走った。
決して後を振り返らずに走った。
雑音だらけの中を走った。

僕等は逃げた。
逃げる為だけに逃げた。
大人に捕まらない為だけに逃げた。

途中、走りながらミチルが大声で何かを問いかけた。
まるで聞こえなかった。
気が付くと、見知らぬ団地の自転車置き場にいた。
鉄製の屋根に雨が降り落ちて、不細工な音楽を奏でていた。

「はぁ、はぁ、はぁ」

息は白く、頭の中も白く、また言葉だけが。

「はぁ、はぁ、はぁ」

僕等を飽きもせずに、動かそうとしている。

「はぁ、はぁ、はぁ、もう大丈夫?」

もう大丈夫。追って来ない。
そもそも追ってなんか来るもんか。裸のままで。
自転車置き場の屋根が奏でる不細工なドレミに合わせて、僕は言った。

「ここまで来れば、もう大丈夫」

結局、僕等は濡れてしまった。ズブ濡れだった。
ミチルが巻いたハンカチから血が流れて、靴下まで届きそうだった。

「おい、足、大丈夫かよ!」
「……あ、忘れてた」
「痛くないか?」
「全然」

目の前には、見知らぬ団地。
普段は近付く事の無い、見慣れぬ棟。
僕が住んでいる棟とは、まるで反対方向だった。

「変な棟に来たな」
「N22棟」
「まさか、お前ん家?」
「ううん、新聞配達で、来るから」

手伝いで、と付け加えると、ミチルは呼吸を整えた。
其れがお婆ちゃんの手伝いだという事には、僕でも気が付いた。
其れからミチルが来年の春、別の中学校に進む事を、また思い出した。

「……何だったの、あれ」

高校生の男女の影。息。肌色。
ミチルの疑問に、僕は何も答えなかった。
あれが何だったのか、僕もミチルも、本当は知っていた。

大人になる事。
僕等の知らない、何者かになる事。
馴れ親しんだ場所から、知らない場所へと、流れる事。

右手に過去。左手に未来。
僕等の体を経由して、或る方向へと流れていく、時間。
何時までも隠れていてはいけない。やがて姿を現して、笑うんだ。
だから僕等は、いずれ。

「見付からなくちゃな」

雨音は次第に弱くなっていたけれど、まだ止みそうには無かった。
其れは通り雨。そして雨。何時か晴れるまでの青い雨。
終わらない事は無いはずの雨。だとしたら、

「帰ろうか」

僕は自転車置き場を離れて、振り返った。
今更、これ以上、雨に濡れても、別に支障は無かった。
赤く染まったハンカチを膝に巻いて、佇んでいるミチルが見えた。

「……どうなるの?」
「え?」
「じゃ、この隠れんぼ、どうなるの?」

ミチルが、雨音の中を、泳ぐような声で言った。
さてね、無効だろ、だなんて言う気にはなれなかった。
僕とミチルは何故だか、この時、まるで共犯者のようだった。
何らかを共有した理解者のような気分だった。

「……見付けるよ」
「え?」
「じゃ、僕が見付けてやるよ、今から鬼になってさ」

ミチルは眉間にシワを寄せて、不思議そうな表情を浮かべた。
まったく初めて見る、ミチルの表情だった。
だから僕は笑った。

「別の中学、行くんだろ?」
「うん」
「だったら僕が、見付けてやるよ」
「うん」
「僕が、何時か必ず、お前を見付けてやるよ」
「……どうやって?」

今は無理だ。僕等は子供だから。
隣町に行く事さえも、自転車を漕ぐのは大変なんだから。
だけれど僕等は思い出すだろう。何時かは今日を、懐かしく思い出す。
この雨を。止まない雨を。男女の影を。下品な雑誌を。
割れたビールの破片を。 身を潜めた息遣いを。
赤く染まったハンカチを。青いトンネルを。
僕等の約束を。








「大人になって」








僕とミチルが交わした其れは、約束とも呼べぬ約束で。
相手がミチルじゃ無いのなら、果たす必要も無い約束で。
只、僕の右手と左手に同じ重さの其れが在るなら、片方はミチルのモンだ。
ミチルが受け取るべきモンだ。

だから僕は日曜日の終わりから月曜日の始まりまで、
火曜日を経て水曜日を泳ぎ、 木曜日に呆れ、金曜日に忘れ、
土曜日に思い出し、ようやく此処に来たという訳だ。

右手に過去。左手に未来。
ミチルは今も隠れたままだ。あの汚れたハンカチを膝に巻いて。
僕が見付け出さなければ、ミチルは外に出る事も出来ない。
笑う事も出来ない。

人通りの多いハンバーガー・ショップの前。真ん前。
見慣れた光景は、見慣れてしまった光景だ。
何故なら此処には十年前、小さな公園が在ったんだから。
其れが今じゃハンバーガー・ショップで。
あろうことか、僕は其れを見慣れてしまっている。

白い自動車が、ドライブ・スルーを、ドライブ・スルーする。
幼い僕等がブランコを経て、砂場へ駆けた瞬間のように。
青いトンネルの中から、あの小さな穴を覗いたように。
世界中の全てを、知り尽くした気分だったように。

そして彼女を捜している。
今すぐ見付けて欲しいと願いながら、見付かる事を恐れている。 自分の存在を知られる事を、極端に恐れている。
そしてまた、奥深くに隠れている。 其のような彼女を、また見付けようとしている。

季節はずれの羽音が聞こえて、僕は振り返る。

其れは雨音にも似た音で。
其れは雨音にも似た音で。

其れは通り雨。そして雨。
其れは通り雨。そして雨。

何時か晴れるまでの、青い雨。
[ 2008/11/25 10:11 ] 小説 | TB(-) | CM(-)

其れは通り雨。そして雨。 -中編-

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雨に染まる砂場。
小さな穴からは轟音と、全てが濡れる風景が見えた。 僕等の青いトンネルも、外から見れば恐らくは、雨に濡れているはずだった。 この長いトンネル状の青い土管は、長さが横に10m以上あり、 中から外が見られるように、等間隔で何個かの小さな穴が空いている。 とは言え、それは本当に小さな穴で、子供の握り拳程度の大きさしか無い。

「痛い?」

僕は何度目かの、同じ質問を繰り返した。 ミチルが首を横に振ったのが、穴から漏れる小さな光越しに見えた。 静かだ。大量の雨が降っているから無音ではないけれど、此処は本当に静かだ。 僕とミチルは身動きもせず、只、この通り雨が過ぎ去るのを待った。

「皆、居なくなっちゃったね」
「雨、降ってるからな」
「じゃ、この隠れんぼ、どうなるの?」

さてね、無効だろ、と言いかけて、 どうしてミチルが隠れんぼに、其処まで固執するのか、僕は気になった。 単に隠れて、単に見付ける。其れだけの遊びだ。暇潰しの、くだらない遊びだ。 そもそも小学六年生にもなって、未だに隠れんぼを続けている僕等の方がオカシイ。

来年の春になれば僕等は中学生になるのだし、 中学生が公園で隠れんぼを楽しんでいる姿なんて、一度も見た事が無い。 多分、大人になれば、もっと楽しい遊びがあるんだと思う。 隠れんぼなんて、子供の暇潰しだ。 単に隠れて、単に見付ける。其れだけの遊びだ。暇潰しの、くだらない遊びだ。

「お前は見付かりたいのか?其れとも見付かりたくないのか?」

僕の声は真っ暗な土管の中に、行き場を失くしたように響いた。
ミチルは隠れんぼが苦手だった。其のくせ見付かりにくい場所に隠れる癖があった。 何時も一番最後に見付かるのがミチルで、其のままずっと見付からない時もあった。 最後まで見付からない隠れんぼなんて、楽しいか?

「見付かりたいよ」

雨音が聞こえる。
時折、小さな穴から雨粒が入ってくる。
寒くは無い。だって此処はそういう場所なんだから。

「じゃ、自分から出て行けば?」

どうして膝を擦り剥いた時、此処を出ようとしなかった?
最初に僕が手を引いた時、外に出る事を拒んだ?
あの時、すぐに二人で外に出ていたら?

「こんな場所に閉じ込められずに済んだのに」

意地悪な言い方をした。
僕が此処に居るのは、何もミチルが悪い訳じゃない。 あの時、膝を切ったミチルは、すぐには動けそうになかった。 放っておいても良かったのに、僕は自分から、此処に残ったんだ。其れはそうなのだけれど。 本当ならば今頃は、家で甘いお菓子でも食べていたかもしれないし、 部屋の窓から呑気に雨を、テレビでも観るように眺めていたかもしれないのに。


「上手に隠れたら、捜してくれるから」


ミチルが言った。

「何だよ、それ」
「捜してくれたら、何時かは見付けてくれるから」
「何だよ、それ」

小さな穴から届く細い光が、ミチルの影を部分的になぞっていた。
雨音は弱まりもせず、むしろ更に強さを増そうとしていた。
否、これは通り雨で、すぐに止むはずの雨だった。

「そんなの、誰が決めたんだよ」

僕の言葉はミチルに対してなのか、其れとも僕の思考に対してなのか。
自分でも解らない。止まない雨が無いのなら、終わらない隠れんぼだって無い。 隠れんぼがずっと終わらないなんて、世界はそんな風には出来ていないんだ。 大人は皆、そう言うし、大人は皆、其れを知っているようだった。
だのに僕は、この時、まるで釈然としていなかった。

「……ずっと見付からなかったら、どうすんだよ?」
「え?」
「……お前、最後まで見付からなかった時、何回もあるじゃんかよ?」

僕は意地悪だった。苛々していた。
止まない雨はミチルが悪い訳じゃないけれど、終わらない隠れんぼは。

「お前の隠れんぼは、見付からなかったら終わりじゃないのかよ?」

見付けられたいのに。
誰かが捜してくれるのを待っているのに、自分からは出て行かないなんて、
「何考えてんだよ、お前?」
「だからね……」
「え?」
瞬間、雷鳴が聞こえた。ずっと遠くの方だ。
母親が心配しているかもしれない。この時間、家には誰もいないけれど。

「ずっと終わらないんだ、隠れんぼ」

ミチルは両手で膝を抱えて、体育座りの姿勢のままで、小さな穴を眺めていた。 其れ以上、僕も何かを言う事を止めた。ミチルの隣に座り、只、小さな穴を眺めた。 ブランコの前に、大きな水溜りが生まれていた。 大きな水溜りから溢れた水が、道筋を作り、また小さな水溜りを生んでいた。

砂場は、只、水を吸い、黒く染まる。
滑り台の金属板は、只、水を流し、白く光る。
僕等の住む団地が、雨の向こう、ずっと向こうに見える。

「……親、心配してるんじゃないのか」
「……誰の?」
「お前の」

雷が遠くで鳴った。
ミチルが怪我していなければ、今すぐ此処を出て、今すぐ走って帰るのに。

「そっちの親は?」
「ウチの?」
「うん」

ミチルの声は小さくて、雨音に隠れて、随分と聞こえにくかった。
だから僕は出来るだけ、其の声を聞き逃さないようにした。
もしかしたら何個かは、もう聞き逃しているのかも。

「パート先の青果コーナーで、洗濯物の心配くらいはしてるかも」
「家に居ないの?」
「居ないよ、土曜日のこの時間は。別に変わった事じゃないだろ」
「……そ」

雨が止むのを待ちながら、僕等は少しずつ、自分達の事を話した。
団地の事。修学旅行の事。来年、中学生になる事。
最初はゆっくりと。小さな声で。雨が止むまでの暇潰し。
毎日、同じ学校にいるのに、こんなにミチルと話したのは初めてだった。

「部活、入るの?」
「さ、どうだろうな、面倒くさそう」
「私は手芸部に入りたい。バトミントン部も良いな」
「中学校に、手芸部なんてあんのか」
「どうだろう」

田舎の中学校ならあるかもね、とミチルは付け加えた。

「田舎?」
「私が行く中学校は、皆とは違う町だから」
「何で?」

ミチルが一瞬、困ったような顔をして、其れから不意に笑った。
其れは初めて見た、ミチルの笑い顔だった。
そして、また遠くで、雷。

「お婆ちゃん、もうあんまり長く無いからさ」
「何それ」
「お婆ちゃんと住んでるのよ、私、知らなかった?」

知らない、という台詞を飲み込んだ。別に飲み込む理由は無い。 だけれど僕は飲み込んだ。ミチルの言葉の意味も、よく解らなかった。 何故、お婆ちゃんと住んでいると、別々の中学校に通わなければならなくなる?

「ううん、おばあちゃんとも住めなくなる、が正解かな」
「何それ」
「私が手芸部に入りたい理由」

ミチルは笑った。声を出さずに笑った。
声を出していたかもしれないけれど、雨音で聞こえなかった。
笑った後で、膝を抱えたまま泣いた。僕に顔を見せないようにして泣いた。

「……同じ中学校に行く方法、無いのかよ」

無い。自分で言いながら解っている。
ミチルと僕が、同じ中学校に通う方法は無い。
何故なら僕等が子供だからだ。僕等が大人じゃないからだ。
そして子供ながらに解っている。ミチルがお婆ちゃんと住んでいる理由も。
只、何となく。

ミチルは隠れんぼが苦手だった。其のくせ見付かりにくい場所に隠れる癖があった。 何時も一番最後に見付かるのがミチルで、其のままずっと見付からない時もあった。 最後まで見付からない隠れんぼなんて、楽しいか?

否、ミチルは見付けられたくなかった訳じゃない。
見付けて欲しかった。だから上手に隠れた。捜して欲しかったから。
そしてミチルは、今すぐ見付けて欲しいと願いながら、見付かる事を恐れていた。 自分の存在を知られる事を、極端に恐れていた。そしてまた、奥深くに隠れていたのだ。

ミチルは、自分の通う中学校に関して、もう何も言わなかった。
青いトンネルの中で、雨音だけが止もうとはしなかった。
僕は何も出来ずに、只、小さな穴を眺めていた。

「あ……」

遠くから、人影。フタツの人影。
水溜りを撥ねながら、此方に向かって来る。

「何?」
「誰か来た」
「誰?」

学生服を着ている。
男女。
中学生か、高校生。

恐らく、此処に向かっている。
二人の男女は手を繋ぎ、雨を避けるように走って来る。

「ミチル、声を出すな」
「え?」
「静かに!」

何だかよく解らないけれど、僕等は身を潜めた。
見付かってはいけない気がした。
多分、其れは、きっと。

まだ僕等が、隠れんぼの途中だったから。
[ 2008/11/21 11:53 ] 小説 | TB(-) | CM(-)
目次
★説明




★短編






★長編小説














★短編






★お笑い








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