VOSTOK8 blog - Astronaut' Monologue TOP  >  2009年08月

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89.0m/s

273.jpg

wait.

平和すぎるんだ。
俺にも出来るはずだ、と今でも信じているんだよ。
頭が狂いそうなmusic. その最果てみたいな声と、その声を生む声。
世の中には素晴らしきモノ達が沢山あって、その素晴らしきモノ達の中に俺も入って居たい。

それが衝動だよ。そして自我だ。何が出来る? と考える。
何を今更。全てが遅すぎる。随分と長い間、俺は俺の人生を放置した。
放置したまま放棄した。年齢に、生活に、金銭に、納得した。だけれど思うのさ。

「それでも」

それで俺は空中の、何も無い虚空の、その一点で呼吸した。
想像した世界を想像した通りに実現させる方法を模索した。
理不尽な社会。馬鹿な上司。資本主義。意味の無い平等意識。
脳味噌なんかは初めから無いんじゃないか? 
その全てを受け入れるか、壊すか、嘲笑うかの選択を迫られたなら、俺は叫ぶぜ。

ぬけぬけと爽やかな笑顔で叫ぶんだ。
それがどんなに卑猥で、乱雑で、下賎な台詞だろうと誰にも解りはしないだろう。
情報の何割かを共有したなら、残りの何割かは右クリックで捨ててしまえる社会だ。
それでも。
何にも伝わらなかったんじゃないかって思う日くらい、落ち込む日は無いんだよ。
何にも伝わらない事は。

「悲しい事だ」

そう、悲しい事だからな。
俺の言葉はそんなにも、誰にも何にも響かないモノなのか?
何の価値も無く何の意味も無い思想に大層な理想を込めて、まだ言葉にしている。
全く進んでいる気がしないぜ。まるで周辺を88.0m/sで回遊しているだけ。
今、この瞬間にも、俺は×××てしまいそうなんだ。
だから笑える方法を探す。

その為に俺は来た。
俺にも出来るはずだ、と今でも信じているんだよ。
頭が狂いそうなmusic. その最果てみたいな声と、その声を生む声。
世の中には素晴らしきモノ達が沢山あって、その素晴らしきモノ達の中に俺も入って居たい。

今日という日は始まったばかりだ。午前8時8分。蒸し暑い朝だぜ。
文字をカタカタ打ちながら、こんな行為に何にも意味なんて無い事を、俺は知っている。
だけれど止めはしないんだ。
全くまるで呼吸と同じに、何も無い虚空の、その空中に、吐き出してやるぜ。
世界は本日も愛で満ちているか?

地球を吸い込むように、深呼吸。

渇望しているぜ。まだ何も足りない。
朝日の角度と同じくらい、まだ俺には先がある。
明日には死ぬかもしれない。だが明日の事なんて知らない。
明日、もしも全てが止まるとしても、まるで意味も価値も無くても、俺は進むんだ。

89.0m/s。
繰り返して前進。
それが新たなる一歩だ。
[ 2009/08/09 12:02 ] 小説 | TB(-) | CM(-)

smoking of yellow. talking to mine.

272.jpg

弱酸性の嘘だ。

アンズが此処に着いた時、最初にアンズは一輪の、小さな花を手に持っていた。
恐らく道端で摘んだのだろう、白く濡れた、小さな花だった。
其の花の白色は、彼女の傘の鮮明な(其れでいて人工的な)赤色に、よく馴染んだ。

「火星に咲いた花よ」

窓の外は雨。
濡れた路面を水色の古いラシーンが通過して往く。
撥ねた雨水の勢いは孱弱で、しかし鮮やかに汚れている。
彼女の嘘は本当に嘘だって事実を、何時だって僕は知っていた。

「火星に寄ってから来たの?」

もしも、ほんの少しでも真実に触れる部分があるならば、誰だって騙されるはずだ。
彼女の嘘は完全なる嘘のまま、不完全な嘘として存在しただろう。
ところが彼女は演技的に、薄く笑って言った。

「本当はフォボスに寄ってから来たの」

嘘は、嘘のままで溶けるしかないのだ。
彼女の嘘には悪気が無くて、全くまるで隙が無く、絶対的だった。
其れは麻糸のシャツみたいに、僕によく馴染んだ。

「フォボスにも花は咲く?」

だからこそ、其れが違和感になる。
嘘ってのは普通、もっとザラリと画質が荒くて、雑音だらけで、舌触りが悪いモノだ。
其れを誤魔化す為にまた、僕等は煙草を吸い込んで、独善的な自分語りに夢中になった。

「咲くわよ、君が笑うなら」

古いラシーンは、古かった。
しかし、よく手入れされているように見えた。
もっとも一瞬だったので、よく見てはいないのだけれど。

其れでも、そんな気がした、という事実が、僕の中に存在して、
要するに、それは、

「嘘のような真実だ」

彼女は相対する席に座ると、
椅子の脇に、濡れたままの赤色の傘を置き、
木製のテーブルの上に、濡れたままの白色の花を置き、
其の花の隣には、ポケットから取り出した、黄色い箱の煙草を置いた。

「笑える?」

黒色のタイトなミニ・スカートの店員を呼び、
至極事務的な口調でホット・コーヒーを一杯注文すると、
彼女は煙草を一本取り出し、火を点けて吸い込んだので、僕は言った。

「火星に咲いた花を、最後に君は、どうする気?」

そうね、と言いかけて煙を吐き出し、窓の外を眺めると、
何かを思い付いたように、アンズは瞬間、口元だけで楽しそうに笑った。

「また遅刻の言い訳に使うわ」

アンズが吐いた煙は天井を浮遊し、其の頂点で小さく円を描き、消えた。
其れが最後に見せられた、彼女の唯一の真実だった。
彼女が消えた後、残されたのは――。

さて、この可も無く不可も無い会話を、
この出来事を、きっと僕は、すぐに忘れるだろう。
其れほど全ての出来事は、移ろい易く、消え易く、溶け易い。

事実、アンズの花ならば、すぐに枯れた。
火星でも、地球でも。
そうして弱酸性の嘘が、誰もが気付かぬ間に、またしても真実に摩り替わっている。

――彼女が消えた後、残されたのは、箱。
黄色い煙草の箱。
驚くほど明確に、其れだけが事実で、其れだけが現実だった。

アンズは僕のモノだった。
しかしながら、僕の為のモノでは無かった。
アンズは何処まで行ったとしても、アンズの為のモノだった。

美しい白色の花は、呆気なく枯れた。
代わりに何の生産性も無い、汚れた黄色い煙草の箱だけ残った。

だから真実は、真実のままで生きるしかないのだ。
僕の真実には愛想が無くて、全くまるで隙だらけで、相対的だった。
其れはセロファン性のシャツのように粘着質で、全く僕に馴染まなかった。

手を伸ばし、目を瞑り、唇を縛り、歯軋りをする。
何も届かない。聴こえない。
だから瞼を開く。

天井、僕は虚空を見詰める。
煙が消えた場所。
其の一点。

煙草で汚れた黄色い肺と、煙草で汚れた黄色い空を。
啄ばむ欲求だけを啄ばみ、忘れる欲求だけを忘れる。

「アンズが此処に着いた時、最初にアンズは一輪の……」

火星を見付けられるか?
別にフォボスだって、何なら地球だって良い。
何処かに咲いた花を何気なく摘めるなら、何処に居たって幸せだよ。
晴れの日も、雨の日も。


(咲くわよ、君が笑うなら)


弱酸性の嘘だ。
そして感覚だけが残る。
[ 2009/08/04 18:34 ] 小説 | TB(-) | CM(-)
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