VOSTOK8 blog - Astronaut' Monologue TOP  >  2010年07月

ミナモ

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『ミナモ』 作:金城光亮


はじめに 水面が ありました。


水面は 生まれた時から 水面でした。

水面は 自分が何の為に生まれたのか 解りませんでした。

水面は まるで鏡のように いつでも 何かを映していました。

ですから 何かを映すのが 自分が生まれた理由なのだと

水面は 毎日 思っていました。


水面は 静かに 映しました。

大抵は 動物を 映しました。

空を飛ぶ鳥を たくさん 映しました。

もちろん 虫も 映しました。

ときには 魚も 映しました。



たゆたい また ながれました。



ある場所で 水面は 森の中の湖の水面 でした。

天に伸びるほどの 大きな木や

空を隠すほどの 大きな葉を 映しました。

老いた兎も 映しましたし 鹿の親子も 映しました。


どちらも 水を飲みに来ました。

怯えるように 水を飲みました。

そういう時 水面は決まって

黙って 静かに 唇付け をしました。



たゆたい また ながれました。



ある場所で 水面は 大地を分ける大河の水面 でした。

それは 雄大に流れはするけれど

あまり 変化に乏しい流れでした。

なので 水面は 何も考えないで 空を映していました。


やはり 鳥が 空を飛んでいました。

まるで 自由に 空を飛ぶのでした。

そういう時 水面は決まって

黙って 静かに 鳥に憧れました。


ある日 水面が 空を映していると

突然 パァン と音がして 空から鳥が いなくなりました。

それから ボチャリ と音がしました。


そのすぐあとで 4匹の人間が ワイワイ騒ぎながら

バチャリバチャリと 水を掻き分け 歩いてきました。



「やあやあ 見事な獲物だな」

「やいやい 大した獲物じゃないな」

「まあまあ さっきの獲物の方が ずっとすごい」

「それでは もっと捕えて ぜんぶ並べて 比べましょう」



水面は 再び 空を映すだけの 水面に戻りました。



たゆたい また ながれました。



ある場所で 水面は 静かな家の洗面器の水面 でした。

最初に 少女が顔を洗い 続いて 少年が顔を洗いました。

それから うら若い女が 水面の前に立ったのですけれど

うら若い女は いつまでも 水面を見詰めるだけでした。


なので水面は いつまでも うら若い女を映す水面 でした。

うら若い女は いつまでも 水面を見詰めるだけなので

水面は うら若い女に 触れる事も 交わる事も 憧れる事も ありませんでした。



ポタリ。



水面の上を 小さな波が 揺れました。

揺れて 沈んで すぐに 溶けました。

それは 涙でした。

ですから うら若い女の涙は 水面の一部 になりました。



たゆたい また ながれました。



ある場所で 水面は 水面の水面 でした。

自分と同じ水面を 映すための 水面だったのです。

なので水面は 注意深く 自分と同じ水面を 探るように映しました。


水面が揺れると 水面も揺れました。

水面が流れると 水面も流れました。

水面が枯れると 水面も枯れました。

何日も 何月も 何年も 枯れたままでした。



たゆたうことはなく また ながれることも ありませんでした。



ある年 たくさんの雨が降り たくさんの雪が溶けました。

すっかり渇いた水面のもとに 沢山の水が流れてきました。

そうして 水面は また 元の水面に 戻りました。


ですが 水面は もう何も映す事は ありませんでした。


水面は 静かに映しました。

覗き込む人々を 静かに映しました。

覗き込まぬ人々さえ 静かに映しました。


水面は 静かに映しました。

皆も。

涙も。

そうして たゆたい ながれてきました。


水面は もう 何も映しませんでした。

それが 悲しいことか 嬉しいことか

水面にも よく解りませんでした。


けれど。

ただ そうした時 はじめて

水面は 自分だけの水面 だったのです。


水面は もう 何も映しませんでした。

世界中の大きな川を 小さな町の水道管の中を 

雨あがりの水たまりの中を まるで鳥のように泳ぎました。


そうして 今も どこかを

たゆたい また ながれています。


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写真協力:midori
[ 2010/07/31 16:56 ] 小説 | TB(-) | CM(-)

『怖い』を科学してみよう。

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夏である。
夏といえば怖い話である。
老いも若きも男も女も、怖い話で涼を求める季節である。

怖い話を聞いてゾッとする。
そんなことで暑さを忘れようなんてのは、
中々どうして、マゾっ気全開の発想なのである。

しかし、そもそも「怖い」とは何か?
我々が普段、他人から聞いて「怖い話」だと感じるのは、
幽霊・怪談・都市伝説の類ではあるが、そもそも何故それが怖いのか。

本日は皆さんと一緒に、
そんな『怖い』という感情を根本から考えることによって、
「怖さを超越する。……アタシ、そんな自分が怖いの。ねぇ怖いの。(※1)」
そんな新しい境地に辿り着きたいと思う所存である。

※1:「101回目のプロポーズ」の浅野温子の台詞より抜粋。

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■レッスン1:『解らない』から怖い。

実は日本人が感じる「怖い」という感情は、大半がコレで説明できる。
後述するが、この辺の感覚に欧米人と大きな違いが見られる。
我々は本質的に「解らない」ことが怖いのである。
それでは「解らないのが怖い」と感じるのは、どのような瞬間だろうか。

★見えないから怖い。

これは「周囲が暗い」もしくは「目をふさがれている」状態である。
まさに基本的な怖さ。
暗いのは誰だって怖いのだが、それは何故か。
そこに何があるのか見えなくて「解らない」からである。
これが発展すると、次のようになる。

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★見えないのに、見えそうで怖い。

上に比べて少し複雑だが、これは結局、状況的には上と変わらない。
勝手に想像力を働かせて、余計に怖くなっている状態である。
見えないからこそ色々と考えて、怖くなってしまう。

「あそこに影があるような気がするが、人間だったらどうしよう」
「むしろ人間じゃなかったら、どうしよう」
「もしも動いたら、どうしよう」

最終的に「なんか、もう、とりあえず気配がする」とか言って、勝手に怖くなる。
しかし結局は、それが何か「解らない」ままなのが怖いのである。

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★見えたから怖い。

これは、もう見えている。
ハッキリと見えているのに、それが何なのか解らない。
正体が解らない、スッキリとしない怖さ。
具体的にいうとUFO・心霊写真・覆面レスラーなどが、それである。

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■レッスン2:『普段と違う』から怖い。

以上のように「解らない」=「理解できないこと」に対する怖さは、
視覚に応じて、大きく三種類に分けることができる。
更に状況に応じて、それぞれ細分化していく。


★本来、誰か居るはずの場所に、誰もいない。

真夜中、ポツンと光る電話ボックスを見て、怖くなったことはないだろうか?
これは「電話=本来は人が話す場所」というイメージに加えて
真夜中に電気が点っている安心=しかし誰もいないというギャップが生む怖さだろう。

大体、真夜中に電気やライトが点っていて、しかしそこに誰もいないと、まず怖い。
例えば真夜中、道路にタクシーがハザード(チカチカするアレ)を出して止まっていて、
車内にライトまで点いていて、しかしフと見たら誰も乗っていなかったら、すごく怖い。

同じように「真夜中の学校」も怖い。
それから「真夜中の公園」や「真夜中のプール」が怖いのも、
昼間、そこで子供達が楽しく遊んでいるイメージが焼き付いているギャップだろう。

類似する理由で「廃墟が怖い」というのも、
その場所の「楽しかったであろう過去」を想像するからだ。

子供の頃、家族と一緒に寝ていて、
朝、目が覚めると誰もいなかったら怖い。
誰かいるはずなのに、誰もいないのは怖いのである。

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★本来、誰も居ないはずの場所に、誰かいる。

これは上と真逆である。
完全に正反対の事例であるが、これもまた怖い。

都市伝説でよくある話だが、
自分の部屋のベッドの下に、知らない男が隠れていたら怖い。
しかもそれが殺人犯だったら、もう夜も眠れない。

ちなみに、これは前述した「見えたから怖い」にも通じており、
心霊写真の怖さは大体、こうした怖さであろう。
また、これは「誰か居るはずの場所に、誰もいない」とも絶妙にリンクしている。
例えば、

「真夜中、誰もいない学校を、当直の先生が見回りしていたら、
 5年3組の教室に、知らない男の子が一人、ポツンと座っていた。」

これは
【本来、誰か居るはずの場所に、誰もいない】という「真夜中の学校」と
【本来、誰も居ないはずの場所に、誰かいる】という「真夜中の教室の男の子」で
しかも【誰だか解らない】というのが怖い。

しかし、このままでは怪談話としてはスッキリしないので、
多くの場合、大体「その子は昔、この学校で……」といったオチが付けられる。

更にこうした『普段と違う』を掘り下げていくと、
例えば「優しいお母さんだけど、実は正体がヘビ」というように、
奇才・楳図かずおが描くマンガのような怖さを演出することが出来るだろう。

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■レッスン3:『解りやすい』から怖い。

レッスン1と真逆である。
前述のように日本人が感じる「怖い」という感情は、
大半がここまで話したような内容で、ある程度は説明できる。
しかし当然、それが「怖さ」の全てでは無い。

そして、この「怖さ」に対する感覚に、
我々と欧米人とでは、大きな違いが見られるのである。

旺盛なるフロンティア・スピリッツに溢れた彼らは、基本的に「未知なるモノ」を畏れない。
いや、畏れはすれど立ち向かう姿勢こそに意味があり、彼らなりの美学があると言える。
その辺が、島国に住む農耕民族である、我々との大きな違いなのかもしれない。

だから彼らにとって「解らない」ことは、
畏れはすれど、直接的な怖さの対象にはならない。
我々にとっての「幽霊が怖い」と同じ感覚にはならないのだ。

彼らはホラー映画でいきなり現れる殺人鬼に畏れはすれど、
それそのものが怖い訳ではない。
ならば、彼らが感じる「怖さ」とは一体、何なのだろうか。

それは意外にも我々が感じる怖さ(=解らないもの)とは正反対の、
ものすごく解りやすいものに対する、純粋な恐怖なのであった。


★大きいから怖い。

これは大体なんでもそうだが、
具体的にいうと、音、声、身体のサイズなどである。

・いきなりドーンと爆発したから怖い。
・なんかガンガン言ってくるから怖い。
・身長2mだから怖い。
・しかも筋肉質で怖い。

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★武器を持ってるから怖い。

・ピストルが怖い。
・チェーンソーが怖い。
・手が鍵爪だから怖い。

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★逃げ場がないから怖い。

・閉じ込められて怖い。
・自然災害が襲ってきて怖い。
・お互いに殺し合えとか言われて怖い。

以上である。
これらをあえて分類するのであれば「解りやすい」怖さと言える。
基本的に不良に絡まれる怖さにも似ている。
金を出せ、パン買ってこい、と言われるアレである。

我々日本人の場合、
例えば不良に絡まれるのは当然嫌なのだが、
「不良に絡まれた。しかし同じ時間、その不良は事故で死んでいた。」
という話の展開の方が、より怖い。

しかし「解りやすい怖さ」の場合だと、
「不良に絡まれた。逃げた。しかし逃げ切れず、次々と仲間がやられていく。
 逃げているだけではキリが無い。俺は息を潜め、最後の反撃の機会を伺った……。」
と、このようになる。

そこには困難に立ち向かう、力強いフロンティア・スピリッツがある。
非常にマッチョな考え方ではあるが、困難を乗り越える為には必要な心構えだろう。
平成不況とも呼ばれる未曾有の危機に瀕して、我々日本人が見習うべき姿勢である。

「不良に絡まれた。しかし同じ時間、その不良は事故で死んでいた。」

そんなもの、単なる妄想である。
我々の危機は、我々の目の前に迫っているのであり、
実際の我々は、やはり逃げるなり、戦うなりしなければならない。

怖さを乗り越える――。
今こそ、その本当の意味を考えるべきなのだ。
我々日本人が、この不況を乗り切る為のヒントが、そこにあるのかもしれない。
一番怖いのは『現実』なのだから……。



Σえ、そんなオチ!?
[ 2010/07/27 11:15 ] 雑記 | TB(-) | CM(-)

エウロパ

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鳥は飛べると 思っていたら

飛べない鳥も 居るわけで


せめて 走れと 走れど けれど

まるで 歩いているような 遅さ

とてもじゃないが あの星までは 届くまい


飛べぬなら走り 走れぬなら歩き 歩けぬなら

せめて 僕は手を伸ばし 声を出して 叫ぶさ

やがて 声は枯れ 喉は潰れ 言葉を失くした


それでも 伸ばし続ける手に 文字が残された

僕の手は 言葉を放ち あの日と変わらず叫び

やがて 爪は割れ 肉は痩せ 手さえ失くした


羽を失くし 足を失くし

声を失くし 手を失くし


まるで 術を失くしたか?

まだ何かある 何かある 必ず 何かあるぜ

生むごとに失くし その度に考えて また生み出したろ


もう何にも無いってこと 無いよ

もう何にも無いってこと だけが 何処にも無いよ

届かなくても 届け続ける者だけに やがて それは届けられるのさ


知ってるだろ

鳥じゃなくても 知ってるだろ

飛べなくたって 知ってるだろ

エウロパが ほら 綺麗だろ
[ 2010/07/20 03:06 ] 詩歌 | TB(-) | CM(-)

青いカメレオン

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世界は色をナクした

お前は 頭上を見上げるが もう何にも無い

黒でもない 白でもない 夢でもない 誰でもない

何でもない何かが カラカラと カラっぽに 広がっている


そろそろ俺を信じてみないか

お前には もう 俺しか居ないのに

また 消えちまうことばかり 考えている


腹を空かせ 耐え忍んでから食べる あの瑞々しい 果実の美味さも

汗を流した後の 渇いた喉に染み込む よく澄んだ水の美味さも

脚を折り曲げ 身体を屈めなければ 高くは跳べない事も

知っているのにな お前は全て 知っているのにな

どうして俺を 俺を信じようとは しないのだ


(また ナクして シマッタ と言うのだろ)


俺の名は絶望 青いカメレオン

嫌がる奴は多いが 怖がる必要は無い

今から ホラ 何色にだって変わるさ


お前が星を見上げるならば

俺は銀河の その果ての 何より光る星になろう

深き谷底 その奥底の その奥底から また高く 跳び上がろう

銀色に輝く 俺を見て きっとお前は 祈るだろう

流れ星が 真上に飛び上がる夜だ


俺の名は絶望 青いカメレオン

痛がる奴は多いが 壊れる必要は無い

今なら ホラ 何処へだって飛べるさ


お前が星を見上げるならば

俺は銀河の その果ての 何より光る星になろう

深き谷底 その奥底の その奥底から また高く 跳び上がろう

銀色に輝く 俺を見て きっとお前は 祈るだろう

流れ星が 真上に飛び上がる夜だ


今なら ホラ 何処へだって飛べるんだぜ
[ 2010/07/14 15:36 ] 詩歌 | TB(-) | CM(-)
目次
★説明




★短編






★長編小説














★短編






★お笑い








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