VOSTOK8 blog - Astronaut' Monologue TOP  >  2011年07月

走る鳥男

夢の中で 男は鳥だった。


墜ちる感覚など覚えず

畏れる感覚など知らぬ

翼を広げて空を滑る 極彩色の鳥だった。



352.jpg



目が覚めると 男は鳥だった。


身体中に 羽が生えていた。

夢の続きかと目をこすったが

どうやら真実本当らしかった。


目が覚めると 男は鳥だった。

ところが飛べない鳥だった。

己の身体をまじまじ眺めた。


翼は在るが短く

爪は在るが鈍く

頼りないクチバシでは

もう歌うことも出来ぬ

名も知らぬ灰色の鳥だった。


唯 人間らしいのは

そうした思考と身長だけで

人語を解し現状を解すれど

もう鳥で在ることに変わりはなかった。


人に戻らなければ という苦悩も

どうして鳥になってしまったのか という疑問も

家賃や光熱費を支払わなければいけない という不安も湧かず

今日は仕事に行かなくても良いのだと思うと 少しだけ気が楽になった。


目が覚めたら 虫になっていた男 の小説を知っているが

題名を聞いたことがあるだけで読んだことはなく

結局 何の参考にもならないと思った。


鳥になってしまったのだから

鳥として生きなければならず

不思議なことに 其れ以上の不安はなかった。


鳥として生きる ということは

なにかを食べること どこかで寝ること。

なにかを着ることは あまり必要ない。

其れから どこかを飛ぶこと。


飛べるのか と 男は思った。


男は 人間だった時と同じように

布団から起き上がり そして立ち上がり

部屋の小さな窓を開けようとしたところで

もう自分が人間の身体でないことに気が付いた。

窓の鍵を開くことさえ 酷く不自由だったからだ。


其れで男は 飛べない鳥 だった。


翼は在るが短く

爪は在るが鈍く

頼りないクチバシでは

もう歌うことも出来ぬ

名も知らぬ灰色の鳥だった。


仕方がないのでソファに座り

腕を組もうとしたが 腕が無いので

溜息を吐いて 煙草を吸おうとしたが 指も無く

もう煙草は吸えないので 初めて少しだけ 其れを悲しいと思った。
[ 2011/07/27 18:59 ] 小説 | TB(-) | CM(0)

713

最期の音が 聴こえなくなるのが 僕は怖かった

最期の曲なら もう終わったのに


口笛を吹くのも忘れ 貝殻を耳に当て 目を閉じたのだろ

何も聴こえやしないよ 優しい人の手にも 気付かぬまま


7分13秒 ほんの短い時間

それを世界の全てだと思っていた


最初の音が 聴こえてくるのが 僕は怖かった

最期の曲を ずっと聴いて居たかった


言葉を探して 文字で埋めた 真っ黒なページなんて

誰にも見せられたもんじゃないよ 優しい人の目にも


7分13秒 ほんの短い時間

それを世界の全てだと思っていた


世界は一方通行で 後戻りは出来ないから

せめて立ち止まって居たのさ

あの歌が聴きたくて


7分14秒 新しい歌声が聴こえる

次の最初の一秒

次の最初


水中では 青く 小さな泡が浮かぶ
[ 2011/07/13 18:25 ] 詩歌 | TB(-) | CM(0)

8レーン、スコア23。

言葉は世界を変えられる。

もしも君が今もそんな風に考えているのなら、幸せなことだよ。
本当のところ言葉は世界を変えないし、もちろん世界を救ったりもしない。
そんなに便利なモノでも、万能なモノでもないよ、本当のところ言葉なんて、
「ボーリングする?」
しない。僕のアベレージは極めて低く、人前で披露するほどのモノでもない。
靴の貸し出し料金は高いし、床は滑るし、無駄に大きな球は重い。
16歳の夏、初めて友人とボーリング場へ行き、初めてピンを倒した瞬間、
あの高揚感が、僕のボーリングの全てだよ。
あとは別に、よく磨かれた床の上を惰性で転がるだけの、
「何飲む? コーラ? それとも――」
コーラ。だけれど最近読んだ本によると、コーラは身体に良くないらしい。
そんなの今に始まった噂じゃないし、あの甘黒い炭酸飲料が身体に良いとも思わない。
ところが改めて、そんな文章を読むと、馬鹿みたいに信じてしまうモノなんだ。
そして、それはそれとして、やっぱり僕はコーラを飲みたい。

世の中はストレスに満ちていると、君は思うかい。
先日、仕事が何個か重なって、上司が望む優先順位の通りに片付けて、すぐに提出した。
ところがレスポンスが遅くて、結局一週間、そこから仕事は進まなかった。全く馬鹿げてる。
彼等は、僕が何個の仕事を抱え、それをどのように工夫を付けて優先的に時間を設け、
どれほど可能な限りに完璧な状態で仕上げたか、だなんて考えもしないんだ。

大切なのは、それがどのような結果を導き、どのような利益に繋がったか。
それだけのことだよ。
身体に良いか悪いかでは無くて、美味いか不味いかだけでも無くて、売れるか売れないか、
「――残念、売り切れ」
赤ランプが点灯して販売終了を告げているので、仕方なく僕は隣のボタンを押した。
健康的な緑茶。僕が望もうと望むまいと、結果、そのようになった。
恐らく長生きするよ、僕は。

世の中の全てに理由があるだなんて思わないことだ。
しかも理由の一つ一つを、自分で選択できるだなんて思わないことだ。
世界を変えられるだなんて思わないことだ。それはとても傲慢な考え方なんだ。そして、
「はい、8番レーン」
物事は、絶えず動いている。
君が止まる間にも世界は動いているし、同時に宇宙は動いている。
君が悩み苦しみ逃れる術を探す夜にも、残念ながら地球は呑気な顔して自転を続け、
あまつさえ当然ながら公転まで続けている。

考えてもみろよ、何の救いも無い孤独な夜の真ん中に、
隣の住人は新しく買ったティッシュペーパーの肌触りに感動し、
更に隣の住人は深夜番組の馬鹿げた会話を鼻で笑ってビールを飲み干し、
更に隣の住人は抱き合い隠微な呼吸の最中にコンドームを出すタイミングを窺っている。
君にだけ朝が来ない道理はあるまい。

言葉は世界を変えられる。

もしも君が今もそんな風に考えているのなら、幸せなことだよ。
本当のところ言葉は世界を変えないし、もちろん世界を救ったりもしない。
それほど便利なモノでも、万能なモノでもないよ、本当のところ言葉なんて、
「ボーリングを始めようか」
しないって言ったのに。僕のアベレージは極めて低く、人前で披露するほどのモノでもない。
だけれど自慢が一個あって、初めてボーリングをした時、僕のスコアは23だった。
周りの友人は笑ったけれど、僕はそれが誇りだったんだ。
「マイケル・ジョーダンみたいだろ」
高く飛び上がる背中に描かれた背番号のように、僕は自由だったんだ。
本当のところ、夢に描いたような自由なんて、何処にも在りはしなかったけれどね。

今からボーリングを始めるのに、バスケット選手の話をするのは不自然かい。
ボーリングを始めるにあたって、ボーリングの話をする方が、よっぽど不自然だ。
コーラを飲もうとして緑茶を買ってしまうことの方が、自然なんじゃないだろうか。

「はい、どうぞ、君の番」

僕が重たい球を転がす番。
8番レーンから、スコア23を目指して、再び転がす番。
しないって言ったのに。結局のところ、するんだよ、こうして。
再び球を転がす。結局のところ何度でも、僕は重たい球を転がすだろう。

別に何にも苦じゃないよ。だって僕は本質、自由だ。
羽も無いのに23を追いかけて、球を転がす生まれながらのボーリンガーだ。
「ボーリングをする人は、ボーラー」
ストライクを目指して中央へ。外れたって、別に構わない。
大切なのは僕が中央を目指し、球を転がそうと試みた、この事実だよ、少なくとも、
「何もしないまま、何もしないより」
これは単なる言葉だよ。信じる必要なんか無い。言葉は世界を変えたりはしない。
だけれど、今、何かを伝えようとしているのは、僕だ。
言葉なんかじゃなくて、僕なんだ。

僕達が泣こうが喚こうが苦しもうが、笑おうが、世界は構わずに回るだろう。
回転の前に、僕達の言葉は無力だ。言葉なんて何の役にも立たない。
言葉ばかりを信じるだなんて、とんだ馬鹿だよ。

それでも、言葉を伝えずには、居られない。

残念ながら、そうなんだ。
言葉を信じられず、無力だと知って尚、僕は言葉を伝えずには居られない。
何故だか分かるかい。僕には分からない。分かる瞬間もあるよ。
そうした瞬間は何時だって、夢の中にいる気分だ。
夢から覚めた途端、また分からなくなる。

それでまた、球を転がす。

最初の衝動を、決して忘れないことだ。
16歳の夏、初めて友人とボーリング場へ行き、初めてピンを倒した瞬間、
あの高揚感が、僕のボーリングの全てだよ。
あとは墜ちていくだけかもしれない。
だけれど決して忘れないことだ。
たまに思い出すのさ。

「――あ、惜しい!」

9本のピンが同時に倒れて、残り1本のピンは小さく円を描いて止まった。
やけに広いボーリング場に、客は僕達くらいしか居なかった。
その瞬間の音を、僕は嫌いじゃないなと、思った。
[ 2011/07/12 19:03 ] 小説 | TB(-) | CM(-)
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