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水中花



ああ、俺の人生は失敗だ。
これで何度目の自己嫌悪だか解りゃしない。
大雨が降り雷が鳴り響いているのは、鬱屈した夏が吠えてるんだろう。

身の丈に合った事をやろうと思い立ってアルバイト情報誌を買って来た物の、
俺の身の丈が「アルバイト情報誌を買う程度で満足する男」だとしたらどうする。
案の定、俺はアルバイト情報誌を買っただけで満足して、部屋に寝転んでるのさ。

沸点が低いんだよ、何かを成し遂げた気になってる。
アルバイト情報誌を買っただけで、何かを成し遂げた気になったという訳だ。
それは俺にしては大した成果で、まず風呂に入り体を洗い、着替えを済ませ、服を着て、
部屋の扉を開けた上で靴を履き、部屋を出てコンビニエンス・ストアまで歩いた訳だから、
俺にしては上出来だし、その上、アルバイト情報誌とタバコを買って帰って来た訳であり、
この結果は誰にも咎められる事なんて無いと思う。

150円と290円分の安心を買っている。
俺は前に進む意思があるのだという安心を買っている。
まだ完全に最低で最悪な部分には浸っていないという安心を買っている。
安心を買ったのだから、買った安心に浸る事は許されるはずだ。

それで俺はタバコに火を点けて煙を吸い込み、部屋に寝転んでいる。
隣の部屋から聴こえる下手くそなベースが耳障りだが、隣人の顔など知らない。
それは薄い壁を緩やかに振動させ、ブンブンブンと羽音のような迷惑音を響かせている。
掌をパチンと打ち鳴らしてみたが、音は鳴り止まず、仕方が無くて俺は目を閉じた。

ベース音に混じって雷鳴。
ブンブンブン、ドダドダドダ、ゴロゴロゴロ。
大粒の雨音は、何処かの国の政見放送の演説でも聞いてるかのように不躾だ。

明るい仲間が待ってます。
弁当工場パートタイマー朝四時から送迎バス完備。
時給680円昇給アリ。

アルバイト情報誌を買っただけで、何かを成し遂げた気になるような俺だから、
実際、ページの中身なんかには興味が無いし、履歴書を書く気力なんかも無いんだよ。
それなのに何故に「俺には他の誰にも出来ない何かが出来るはずだ」という気分になるのだろう。

駄目な大人を発見しては、鼻で笑って、安心してる。
俺は絶対にこんな大人にならないと、根拠もなく、また安心してる。
ところが根拠が無い事が不安なんだ。

不安は次第に大きくなる。
一秒毎に大きくなって、セロファン状の風呂敷で包まれた気分になる。
息苦しいし、身動きも取れない。
粘着質な不安は、血管に入り込んで、疼きとも渇きとも取れぬ焦燥を促す。
蚊に刺されたような気分になる。

それで俺は体中を掻き毟って叫び倒したい気分になるんだ。
だけど雨音と雷鳴に消されてしまう。
おまけに隣の部屋のベース音にすら勝てる気がしないんだ。

無音は嫌いだ。
だからテレビを点けたまま眠る。
雨音と雷鳴とベース音は邪魔だけれど、ほとんど無音に近い。
俺には関係ない世界の音だ。

昼間からカーテンを閉め切ったままの蒸し暑い部屋で、
俺は虚栄的なテレビの明かりだけを頼りに、タバコに手を伸ばしたりする。
煙を吐き出す瞬間が一番好きだ。

肺が、煙に満ちて、黒く染み、俺自身を汚す感覚に浸る時、
その歪んだナルシスティックなエゴイスティックなヒロイズムに浸る時、
俺には他の誰にも出来ない何かが出来るはずだ、という気分に浸れるという訳だ。

そこで再度アルバイト情報誌に手を伸ばしてみると、
現実の上に現実を塗りたくったような文字ばかりが並ぶので、
すぐに厭になって、またアルバイト情報誌を放り投げる、その繰り返しなんだ。

何を選んでるんだ?
何かを選ぶ余地などないくせに。
俺は俺に相応しい何かってのを探してるんだろう。
俺に相応しくないはずの何かを受け入れるってのが怖いんだろう。
そんな事ぁ、俺自身がよく解ってる。

結局、俺は自分を大きく見せる手段も、小さく見せる手段も知らない。
身の丈に合った自分を受け入れる手段も知らない。
妙に天井の低い部屋に住んでる。
窓が異様にデカイ。

この窓からは全てが見える気がする。
だが見ない、見ようともしない、カーテンを開けようともしない。
俺の人生は失敗だって事だけは、日に日に強く自覚するようになってきてるんだけど、
足を一歩踏み出す為に地面を強く蹴り上げる必要があるならば、はたして俺に足は在るだろうか。
地面を強く蹴り上げるだけの強靭な足が在るだろうか。

身の丈に合った脳髄を受け入れる勇気があるだろうか。
身の丈に合った精神を受け入れる勇気があるだろうか。
身の丈に合った自分自身って何だ?

身の丈に合わない自分自身って何だ?
身の丈に合わない脳髄を受け入れる必要はあるだろうか。
身の丈に合わない精神を受け入れる必要はあるだろうか。

不安は次第に大きくなる。
一秒後に大きくなって、セロファン状の風呂敷で包まれた気分になる。
二秒後に死にたい気分になり、それで三秒後に息を吸い込んでるんだ。
四秒後に、ゆっくりと吐き出す。

ベース音に混じって雷鳴。
ブンブンブン、ドダドダドダ、ゴロゴロゴロ。
大粒の雨音は、何処かの国の政見放送の演説でも聞いてるかのように不躾だ。

入口も無ければ出口も無い場所で、弄んでるだけだ、初めから。
水中花のように。
俺の人生は失敗だ、何処で道を間違えたのか知らんが、失敗だ。

失敗作を失敗作として展示してみてはどうか。
首を吊るんでも、手首を切るんでも、ビルから飛び降りるんでも無い、
最高の、失敗作の展示法ってのが、あるのではなかろうか。

嘘だらけの造花。
汚れた水の中でも、お前は花を咲かせるのか。
ならば俺は、俺が犯した失敗を、雷雨の中で高らかに吠えてやろう。

俺がどれだけ醜くて、惨めで、愚かで、自分本位で情けなくて、
それでも尚、綺麗事を求めて止まないのかを、誰より高らかに吠えてやろう。
だって俺は駄目男なんだからな。

五秒後、俺はタバコに火を点けて、湿ったカーテンを開けた。
一瞬にして、一層大きく響き渡る、ブンブンブン、ドダドダドダ、ゴロゴロゴロ。
俺は息を吸い込み、高らかに声を張り上げてやろうと思ったら、窓の雨でタバコの火が消えた。

はぁ。

俺は濡れ果てたタバコを指先でピンと弾いて、窓を閉めた。
それから部屋に寝転んで、アルバイト情報誌を数ページめくって、寝た。
身の丈に合った天井に手を伸ばすと、やっぱり届かなくて、何だか少しだけ安心した。
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[ 2007/07/28 11:51 ] 小説 | TB(0) | CM(2)
自分にこの男そのままの時期があったので、ドキッとした

今は人生に失敗はないって思ってる。
[ 2007/07/29 23:39 ] [ 編集 ]
汚れた水の中でも、私は咲いていられるだろうか。

私の花は、今、咲いているのだろうか。

指先に花を纏いながら、美しく造られた花の髪飾りを飾りながら、

悲しげに枯れた花を、内に感じていたくは、ないな。
[ 2007/07/29 07:10 ] [ 編集 ]
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