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神田駅 第一話



ガタン、ガタン、ガタン。

私が電車に乗り込んだ直後、溜息を吐くように、背後で扉が閉まった。
昼下がりの電車は、混みあっていると表現するほどでも無く、何箇所かに空席が見えた。
空席と言っても、電車の座席スペースなんてのは個別に仕切られている訳ではなくて、
通路を挟んで向かい合わせに、二本の低いバー・カウンターのような、長い座席があるだけで、
それを各々の体格や荷物に応じて、勝手に占有しあっている、と表現した方が正しい。

なので私は未だ占有されていない(もしくは占有されていたが、今は放棄された)スペースを、
空席なのだと認識して、ほんの少し息を吐き出しながら、座った。
軽く走ったので、ハイヒールを履いた足が痛かった。
向かい側の車窓から見える空は、青だった。

車内は冷房を効かせているのかもしれなかったけれど、あまり涼しくなかった。
今は夏の真ん中で、恐らく一年で一番、暑い時期なんじゃないかしら。

愛想の無い車内アナウンスが聴こえた。
愛想の無い車内アナウンスは、次の到着駅を告げている。
それはよく耳にする駅名なのだけれど、その駅で降りた事は無かった。
次の降り口は右側らしい。

私は普段、ほとんど電車には乗らない。
仕事の打ち合わせで、久し振りに電車に乗らなければならなかったのだけれど、
あんまり久し振りすぎて、切符の買い方さえ忘れかけていたくらいだ。
学生時代は毎日のように乗っていたのに、不思議なものだ。

ガタンゴトンと電車に揺られた。

少し遠くを電信柱が通り過ぎる。

一本、二本、三本。

すぐに数えるのが面倒になった。





とは言っても、そうか。
学生時代は毎月、定期券を買って電車に乗っていたから、
どちらにせよ、切符を買って電車に乗るという習慣は少なかったはずだ。

鞄から口紅を取り出そうとして、止めた。
同じように、煙草を取り出そうとしたけれど、それも止めた。
どちらも此処に相応しくない。

車窓の景色はスライド方式の無声映画のように、
私の目前を何枚も通り過ぎていくけれど、それを観て、私が何かを感じる事は無い。
それらは通り過ぎる為に通り過ぎ、忘れ去る為に忘れ去られる。
そんな中で残った小さな欠片を、もしかしたら私達は、記憶と呼ぶのかもしれない。

だけれど全ては通り過ぎ、忘れ去ったはずなのに、
その小さな欠片は、時に、簡単に、圧倒的に、別の記憶さえ呼び覚ます。
電車が宣言通りの駅に停留すると、大量の人間が降り、また大量の人間が乗り込んだ。


神田君を思い出した。


神田君は中学時代の同級生だった。
別に仲が良かった訳でも無いし、悪かった訳でも無い。
中学時代の神田君は、少なくとも私にとって、居ても居なくても良い存在だった。

神田君は天然パーマだった。
それから男子の出席番号では最初の方で、何時も廊下側の席だった気がする。
廊下側の席で頬杖を付いているのが、休み時間によく見かけた、基本的な神田君の姿勢だった。

神田君には友達が少なかったと思う。
男子同士でさえ一緒にいる場面はあまり見た事が無かったし、
もちろん私達と一緒に話していたような記憶は、まったくと言って良いほど無い。
神田君は休み時間中、とにかく頬杖を付いて過ごしていた。

小説か何かを読んでいたかもしれない。
頬杖を付いて、下を向いたまま動かなかったから、多分そうだろう。
神田君は休み時間中に、頬杖を付いて小説か何かを読んで過ごしていた、という事になる。

否、あれは小説だったのかな。
写真のようなモノが載っていたような気もする。
休み時間に女の子同士で教室を出る時に、少しだけ見えた気もする。
もちろん「ちょっと見せて」と話しかけたりはしなかったから、正解なんて解らないけれど。
もしかしたら、あれは小説じゃなかったのかもしれない。

そういえば、神田君には口癖があった。
それは普通の中学生の男子が口にするには、あまりにも卑屈で、残酷な口癖だった気がする。
神田君の口癖は何だっけ。

「どうせ俺なんて」

そう、それだ。
神田君は、私達の教室で何か小さな事件が起こる度に、その台詞を口にした。
神田君が最初にその台詞を口にしたのは、何時だったっけ。
あれは確か中学二年の球技大会の日だった。

神田君はバスケット・ボールに出る予定だった。
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[ 2007/08/15 23:50 ] 長編:神田駅 | TB(0) | CM(1)
続き楽しみにしています。
[ 2007/08/16 18:12 ] [ 編集 ]
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