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鉛色のサンデー 第三話

心臓が血液を、強く、全身に圧し出して居る。

全速力で校庭を走り抜けるイメージ。
歓声と悲鳴の中央を、突き抜けるイメージ。
目標を定め、足を高く上げ、手を強く振り、前へ。

もっと前へ。
もっと前へ。
更に一歩、前へ。

そういえば高広は、徒競走で三位以上になった事が無かった。






第三話 『初体験』




「エアロスミスのCD、貸してあげるよ」

その一言で、また文乃と会う理由が出来た。
文乃が高広に好意を感じて居る事は伝わっては来たが、
それが恋愛感情なのかどうなのか、高広には解らなかった。
まともに女性と付き合った事は無かったし、自分に向けられる好意に対して、
どう接するべきなのか、正直よく解らなかった。

文乃は何処にでも居るような女子大生で、高広の一歳年上だった。
一歳年上とは言っても、高広が四月生まれで、文乃が三月生まれだから、
ほとんど同い年だと言っても良かった。
文乃は大学の為に長野から上京して、一人暮らしをして居た。

五階建てのマンションの、二階の一番手前が、文乃の部屋だった。
オートロックも無ければ、エレベーターも無いような、安い造りのマンションだった。
灰色のマンションは全体的に陰気で、人気が無さそうだった。

「住人少ないのよ、此処」

初めて文乃の部屋に入った時に、彼女が言った台詞だ。
そこで彼女は、大量のエアロスミスのCDを、高広に貸した。
特に断る理由も無いままに、文乃と会う理由は増えていった。
とにかく高広は、週末になると、文乃の部屋に入り浸るようになった。

話題の映画を観たり、買い物に付き合ったり、何となく公園を散歩したり。
そうした日曜日の終わりに、文乃の部屋で、他愛の無い会話をした。

「何が好き?」

珈琲を淹れながら、文乃が言った。

「エアロスミス?」

「うん」

文乃の部屋は簡素で、だけれど女性らしい清潔感があった。
白色の壁と、全体的に青色で統一されたインテリア。

テレビ。冷蔵庫。小さなソファ。青色のベッドシーツ。
壁に飾られた何枚かのポストカード。
閉じられたカーテン。

「青、好きだよね」

「うん、好きね、子供の頃から」

「どうして?」

「お砂糖、一個で良いんだっけ?」

文乃と週末しか会わないのには、理由が在った。
文乃には恋人が居た。

文乃は恋人の事を「村上」と呼んだ。
週末は休みの取れない仕事で、文乃と村上が会う事は無かった。
文乃の口調から、二人が上手くいってない事を察する事は出来た。
だけれど高広が自分から、文乃にその話を持ち出す事は無かった。

「で、何が好き?」

「エアロスミス?」

「うん」

文乃は珈琲に砂糖を入れると、スプーンで掻き混ぜた。
高広は暫くの間、その様子を眺め、それから煙草を取り出した。

「what it takes かな」

「へぇ」

季節は冬だった。
毎日は酷く静かで、色々な事を忘れてしまいそうだった。
例えば、あの日、東京湾で鉄砲を拾った事も。

「明後日、誕生日だよ、私」

「あ、本当だ」

「一足先に、年上になるから」

「ほんのちょっとの間だけじゃん」

鉄砲は机の一番上の引き出しに入れて、鍵をかけた。
鉄砲を机から出して使うような事は、きっと今後も無いだろう。
鉄砲を所有して居るだけではあるが、何となく楽しい気分には浸れた。

秘めたまま。

秘めたまま。

いざとなれば、何時でも撃ち放てるまま。

「青、好きだよ」

「知ってるよ」

「多分ね、子供の頃に観た、海のイメージだと思う」

「へぇ」

文乃は立ち上がると、ベッドの上に乱暴に飛び乗り、何かを探した。
ジーパンを履いた細い足をバタバタと揺らして、
ベッドの横の棚から何かを取り出すと「そうそう、この写真」と言って、
高広を呼んだ。

それは海と呼ぶよりは、湾と呼んだ方が良かった。

「東京湾じゃん」

「そうそう、子供の頃にね、お父さんと観に行ったの」

「東京湾を?」

「うん」

文乃はベッドに寝転んだまま、楽しそうにアルバムをパラパラと捲った。
高広はベッドの上に座り込み、その写真を眺めた。

「東京湾って青色?」

「どうだろうね」

文乃は愉快そうに笑った。
現に写真の中の東京湾は、青色では無かった。
青い空に薄い雲と、遠くには大きな船が写って居る。
しかし決して、東京湾は青色では無い。

「青色だって信じてたよ」

「思い込んでた?」

「そう、思い込んでた」

アルバムを捲ると、東京湾を背に、文乃が満面の笑みで手を伸ばしてる。

「それって幸せな事?」

「幸せな事よ。
 汚れてると信じてるより、ずっとね」

「東京湾は汚れてないって事?」

「少し違うわね。
 汚れても、尚、青色だって事よ」

何となく、無言になった。

季節は冬だった。
毎日は酷く静かで、色々な事を忘れてしまいそうだった。
例えば、あの日、東京湾で鉄砲を拾った事も。

「タイラー、エッチな事、しようか」

文乃が言った。
アルバムを棚に戻し、仰向けになると、文乃は高広を見た。
それは酷く不自然な会話だったが、酷く自然な会話にも思えた。

そう言えば、もうすぐ二十歳だった。
女性を抱いた事も無いまま二十歳になるのは、少し厭だった。
文乃は美人でも不細工でも無いが、特に断るような理由も無かった。

村上が、頭をかすめた。
だけれど、すぐに消え去った。
顔も知らない男だ。

高広は文乃の両肩を押さえると、唇付けをした。
稚拙な唇付けだった。
文乃は高広の腕を撫で、首を撫で、頭を撫でると、舌を入れた。
柔らかい舌が高広の歯に当たり、温かい唾液が高広の中に流れた。

高広も舌を入れ、文乃を舐めた。
やり方はよく解らないから、真似をした。
文乃の歯は、意外と小さいんだな、と思った。

それから薄い唇を舐めた。
口紅の味がしたような気がするけれど、よく解らなかった。

互いの唇を離すと、文乃が変な声を出した。
それはきっと、恐らく、一般的に、実にイヤラシイ声だった。

だから高広は、文乃の乳房に触れた。
触れるにつれて、文乃はイヤラシイ声を吐き出した。
息を吐き出し、吸い込み、また吐き出した。

だから高広は、文乃の衣服を脱がせた。
ジーパンに手を伸ばし、ゆっくりと脱がせると、真白な太股が見えた。
衣服の下の女性の肌が、こんなに白いとは、思わなかった。

高広は太股に唇付けし、それから噛んだ。
文乃が痛そうな声を吐き出すと、ゆっくりと舐めた。

青色のベッドシーツが、揺れて居る。

心臓が血液を、強く、全身に圧し出して居る。

全速力で校庭を走り抜けるイメージ。
歓声と悲鳴の中央を、突き抜けるイメージ。
目標を定め、足を高く上げ、手を強く振り、前へ。

もっと前へ。
もっと前へ。
更に一歩、前へ。

「おいで、タイラー」

文乃は高広を強く抱き締め、耳たぶを柔らかく舐めた。
それから高広の耳元で、何度も、実にイヤラシイ声を吐き出した。


血液が。


圧倒的な量の、血液が。


心臓が血液を、強く、全身に圧し出して居る。


全速力で校庭を走り抜けるイメージ。
歓声と悲鳴の中央を、突き抜けるイメージ。
目標を定め、足を高く上げ、手を強く振り、前へ。

もっと前へ。
もっと前へ。
更に一歩、前へ。

大きくスライドする、最終コーナー。

呼吸。

心拍。

限界。








それから、空白。








東京湾で、鉄砲を拾った。

鉄砲は机の一番上の引き出しに入れて、鍵をかけた。
鉄砲を机から出して使うような事は、きっと今後も無いだろう。
鉄砲を所有して居るだけではあるが、何となく楽しい気分には浸れた。

ぶっ放してしまえば、楽だろうか。

何の為に?

誰の為に?

秘めてしまえば、楽だろう。

変化する必要など無いのだ。




文乃が言った。




村上はね、毎晩、他の女を抱いてくるのよ。

村上の仕事は、風俗だからね。

お店の子をね、抱いてくるの。


研修だとか、指導だとか言ってね。

仕事の為に、他の女を抱いてくるのよ。

それが本当に仕事なのか、村上の嘘なのか、知らないけどね。


だけれど

とにかく

その後で村上に抱かれる、私の気持ち、わかる?


ねぇ、タイラー。

青色を信じるのは、素敵な事よ。

汚れてしまったと信じるより、ずっとね。
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