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鉛色のサンデー 第十六話

暗闇に一閃。

高広は豪雨の中を走ると、車道を横切った。
濡れ果てた靴が、路上の雨水を高く跳ね上げる。
雑居ビルの入口に差し掛かる頃、背後で雷鳴が響いた。

マクマード湾を経たかのように、高広はずぶ濡れだった。
指先から水が滴り落ち、歩く度に床がゴム性の音を立てた。
高広は周辺を見渡すと、静かに立ち止まり、小さく息を吐いた。






第十六話 『扉の前』




雑居ビルの通路の照明は落とされず、エレベーターも稼動して居る。
エレベーターのランプは最上階で止まったまま、動かない。
先刻、路上で見たのが雑居ビルの全ての従業員という事は無いだろう。

腕時計を眺める。午前〇時五四分。
マリモの言葉を信じるのであれば、
少なくとも村上の店を一番最後に出るのは、村上自身だ。
村上と一対一で話す機会を窺わなければならない。

何処で待てば良い?
そもそも村上を、どうやって見分ければ良い?

エレベーターから降りて来る人間に一人ずつ訊けば良いのか。
間抜けな顔で近付いて「貴方が村上か?」と訊けば良いのか。

もしも違ったらどうする。
出来る事なら、他の人間には何も知られたくない。
それが出来るなら、最初からそうして居る。

雑居ビルは静かで、外からの雨音だけが響き渡って居る。
数時間前に訪れた時よりも、更に薄暗く感じる。
淫靡な声さえ聴こえないはずだった。
遠くで雷鳴だけが聴こえる。


突然、エレベーターのランプが動いた。


思わず、高広は通路の陰に身を隠した。
屋上から(水滴を落とすように)降下したエレベーターは三階で止まった。
ランプが三階を意味する地点で点灯して居る。

高広は息を殺しながら、自分自身の心音を感じた。
冷静に混乱して居た。
今、三階に居るのは村上である可能性が高かった。

高広はリュックを肩から外すと、ジッパーを開いた。
鉄砲を取り出す。
何の感慨も無く。
鉄砲を取り出す。

菓子袋の奥に、丸めた軍手が入って居るのが見える。
東京湾で空缶拾いをした日から、入れっぱなしの軍手だった。

高広は素早く軍手を取り出すと、それを手にはめた。
何故か瞬間的に「指紋」という単語が浮んだからだ。

エレベーターのランプが、三階から動いた。

高広は息を止めた。
通路の陰に隠れて、身を固くした。
両手で鉄砲を強く握り締めて居る。

二階。

一階。

エレベーターの扉が開いた。

高広は視線だけを動かして、降りて来る主を探した。
恐らくは、三十歳前後の男が見えるはずだ。
恐らくは、それが村上のはずだ。
高広は、村上を探した。


降りて来たのは、女だった。


正確に言うと、マリモだった。
マリモは黒の長袖のシャツと、細長いジーパンに着替えて居たが、
垂れ目気味の大きな瞳だとか、切り揃えられた前髪だとか、
膨らみ切らない乳房だとかは、間違いなくマリモだった。

マリモは少し足を引きずるように歩いて居る。
高広は思わず声をかけようとしたが、寸前で止めた。
外の豪雨を見てマリモは独り言を呟いたが、よく聞こえない。

傘を持って居ないらしく、携帯電話を取り出すと、
少しの間、それを眺めて考えるように立ち尽くして居たが、
すぐに手を挙げてタクシーを拾った。
タクシーの扉が閉まる音だけは、聴こえた。

マリモ?
マリモが一人だけ、最後に遅れて出てくる理由は何だ。
混沌とした記憶の海を、鮮明な台詞が浮かび上がった。
実に簡単に、瞬間的に、導かれるように。


(その後で村上に抱かれる、私の気持ち、わかる?)


笑うしかないから、笑った。

解らない。今でも解るなんて胸を張って言えない。
各々の、理由だとか、視点だとか、基準だとかが何時も存在して、
それは常に渦を描いて居るように思える。
黒と白のマーブル模様が、延々と回転しながら、問いかける。
だけれど答を知りたい。変化したい。理解したい。

「最低だな」

高広は呟くと、エレベーターを眺めた。
ランプは一階で止まったまま、高広を待って居る。

マリモが最後の従業員ならば、今、村上は一人だ。
高広は静かに歩き始めると、鉄砲をジーパンとTシャツの間に隠した。
軍手をはめたままの指で、エレベーターのボタンを押す。


音も無く、扉は開く。

暗闇に一閃。

追い縋るような雷鳴。

間隔は徐々に短くなって居る。


午前一時。

高広はエレベーターに乗り込むと、扉を閉じた。
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