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彼女はモスキート。 第五話

彼女がアイス・コーヒーを飲んだ時、
僕は煙草の火を消して、漫画をテーブルの上に置き、
飲みもしないアイス・コーヒーの中に、生クリームを注いで居た。
ストローで掻き混ぜると、氷は風鈴のような音を鳴らした。

其の音が喜ばれる舞台が在るのだとしたら、
其れは数ヶ月前の季節に用意された舞台で在り、
残念ながら其の舞台は、今では閑散とした舞台だった。
要するに、其れは今、此処に相応しい音とは言い難かった。

生クリームは白く円を描きながら、アイス・コーヒーの黒の中に消えた。
勿論、其れは消えた訳では無くて、
依然、黒の中に存在する白のはずなのだけれど、
見えなくなった何らかの存在を理解する事は、やはり難しかった。

僕は『キャプテン翼』の第十二巻を手に取った。




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第五話 『彼女と喫茶店(初/肆)』




今、僕は此処で、其れを読み進めて居る。
彼女に急かされて思わず手に取ってしまったとは言え、
何故わざわざ第十二巻を手に取ってしまったのか、自分に問い質したい。

彼女は動かず、漫画を読み進めて居る。
少し前屈みになりながら、頬杖を突いて読み進めて居る。
栗色の長い髪の片方は耳にかけ、片方はテーブルに流れて居る。
静かな川から流れ落ちる細い滝のように、片方はテーブルに流れて居る。

THE BEATLES は店主の趣向なのだろうか。
其れとも単なる有線放送なのだろうか。
どちらにせよ I'M A LOSER が流れて居る事に、変わりは無い。

「あ……」

と、思わず僕が、小さな声を出したのは、
別に I'M A LOSER に深い思い入れが在ったからという訳では無い。
彼女が泣いてる事に気付いたからだ。

「やっぱりね、五巻は、そうなるよね」

彼女は顔を上げなかったけれど、
彼女の手元が濡れて居るのは見えた。
僕は此処に来る途中で感じた一抹の不安を思い出し、
同情とも優越とも取れない言い方で、何となく、そう呟いた。

「……知ってたの?」

顔を上げないままで、彼女は言った。

「知ってたよ、読んだ事あるからね」

彼女の手を眺めながら、僕は言った。

「何で教えてくれなかったの?」

「何で?」

「何で教えてくれなかったの?」

不意な台詞に、僕は返答するべき言葉を失ってしまった。
何で教えなかったのか?
普通であれば、漫画の展開を他人に教えようとは思わない。
普通であれば、漫画の展開を教えられた方も迷惑に感じるモンだろう。

「教えないよ、楽しそうに読んでるんだから」

僕の返答に対して、彼女は何も言わなかった。
何も言わない代わりに、アイス・コーヒーを飲み干すと、
彼女は僕を見て、憎らしそうな顔をしながら、小さく舌を出した。

「何だよ、それ」

「別に」

「教えてあげようか、その続き」

「嫌だ」

彼女は頬杖を突き直すと、再び視線を下した。
僕を見た瞬間の彼女の目は、先程よりも随分と赤く見えた。

僕は「何だよ、それ」と言いかけたけれど、
其のメビウスの輪のような台詞を、大人しく飲み込む事にした。

彼女は続きを知りたかった訳では無いし、
只、知ってしまった事実に関して、抗議をしただけだ。
そうで無ければ、僕が『キャプテン翼』を読み続ける理由が見付からない。

僕は続きを知りたかった訳では無いけれど、
残念ながら結末を知って居るし、
其の上、在ろう事か、其れを再び読み直して居る。

僕が知ってしまった結末は、
もしかしたら、僕の読み間違いじゃ無いだろうか。
もしかしたら、本当は別の意図が隠されて居たのでは無いだろうか。

其処に存在する事が当然だったはずの、何か。
其れが人であれ、其れが物であれ、何だって構わない。
其れ等は、或る瞬間に、突然、消えてしまう。
漫画だろうと、現実だろうと。

勿論、其れは消えた訳では無くて、
依然、黒の中に存在する白のはずなのだけれど、
見えなくなった何らかの存在を理解する事は、やはり難しかった。

僕は『キャプテン翼』の第十二巻を手に取った。
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