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彼女はモスキート。 第九話

部屋に辿り着いた頃には、夜だった。

僕はパソコンの電源を立ち上げると、
宛の無いネット・サーフィンを繰り返した。
目的も無く漂う行為は愉しくも在り、虚しくも在る。

何処に向かうべきなのかはよく解らないし、
そもそも初めから終着点など設定されては居ない。
右手でマウスを動かすと色を変える地点を発見するので、
僕は其処を出口だと認識し、次のページへ移動する訳だけれど、
見付けた出口は、次のページへ向かう為の、単なる入口だとも言えた。




1678058_212.jpg

第九話 『自室(夢想)』




入口は再び数箇所の出口を用意して居る。
何を選んでも正解では無いし、何を選んでも不正解では無い。
吐き気がする程に曖昧な基準が、
個人の自由と言う名で揶揄されて、偉そうに佇んで居る。

ニュース・サイトには有名人の離婚話と交際話が交互に書かれ、
殺人の記事と、自殺の記事と、事故の記事と、病死の記事が並び、
一番下には、元アイドルに長男が生まれた、という記事が書かれて居た。

僕の興味を引いたのは、小さな事件の記事だけだった。

其れは一切、争いの形跡は見られなく、
首を吊った男性の足元には遺書も残されており、
自殺と断定しても差し支えないような状況では在るのだが、
唯一点、男性は正装して居た、というB級映画の内容のような記事だった。

正装と書かれて居るのは恐らくタキシードか何かの事だと考えられるが、
今から首を吊って死のうとして居る男が、タキシードに着替えるだろうか。
其の上、タキシードは一切、汚れて居なかったのだ。

記事を書いた記者は、
「警察は事件・自殺の両面から捜査を続けて居る」
と書き添えて、短い記事を締めくくった。

コレがB級映画なら、犯人はタキシードに宿った悪霊だろう。
『恐怖のデス・タキシード2』みたいな、情けない題名を付けられて、
レンタル・ビデオ屋の隅で何年間も埃を被って並んで居るような作品だ。

其処からマウスを三回クリックすると、
知らない誰かの裸体が表示された。

其処からマウスを十三回クリックすれば、
知らない誰かの死体が表示されるのだろう。

政治家が青少年の育成を偉そうに語ったところで、是が現実だ。

世の中、間違えてる気がするけれど、其れが何なのか解らない。
世の中、間違えてないと主張する人が居たら、きっと僕は頷くと思う。

正解が何なのか解らない事を考え続けるよりも、
正解だと主張された答を受け入れた方が、よほど楽だから。
誰もリスクを背負わず、誰もリアルを背負わない世界は、随分と楽だ。

本屋でエロ本を万引きして、走って逃げる同級生を思い出した。
姉が可愛がって居た小鳥を、誤って踏んで死なせた事を思い出した。
中学三年の冬に、初めて好きな女の子と手を繋いだ日の事を思い出した。

其れ等は酷く些細な出来事なのかもしれなかったけれど、
目の前に表示される知らない誰かの裸体だとか、死体だとかに比べたら、
随分と(痛みを伴う程に)現実的だった。

(君が自分で決めた事以上に、君にとって本当の事って在るの?)

パソコンの電源を落とし、
部屋の電灯を消そうとした瞬間に、
何故だか突然、彼女の台詞を思い出した。

僕はベッドの上で横になり、目を閉じた。
数時間前の出来事なのに、彼女の顔はよく思い出せなかった。

彼女の赤色の目が、僕の目と合った事は、よく覚えて居る。
其れからテーブルの上を流れる川のような栗色の髪と、
甘いシャンプーのような香りを、よく覚えて居る。

彼女をリンカと名付けた事も。

僕が自分で決めた事以上に、僕にとって本当の事は在るのか?
僕が休学を決めたのは、先月の終わりの事だった。
僕は大学を休学して、地元に帰った。
夏は終わろうとして居た。

何処に向かうべきなのかはよく解らないし、
そもそも初めから終着点など設定されては居ない。

何をしても良いし、何もしなくても良い。
親が子を殺したニュースが流れた翌日には、
子が親を殺したニュースが流れた。
其れをテレビで眺めながら、僕等は朝食を食べた。

中学生の自殺が頻発し、
学校と教師と両親は涙を流した。
昼下がりのニュースを眺めた主婦達は、
其の中の誰の涙が、本当の涙なのかを言い当てた。

同じ時間、何処かでは、また誰かが殺され続けて居る。

似たようなニュースならば何度も繰り返されるばかりだし、
似たようなニュースならば何度も破り捨てられるばかりだ。
死に際に派手なタキシードを着なければ、記事さえ目立たない。

吐き気がする程に曖昧な基準が、
個人の自由と言う名で揶揄されて、偉そうに佇んで居る。

僕は逃げたんだ。
僕は逃げ出して、今、此処に居るだけなんだ。

僕は何から逃げた?

小学生時代のサッカーか?

其れとも休学した東京の大学か?

其れは僕が自分で決めた事と言えるのだろうか。
其れは本当の事なのだろうか。

売れない画家の油絵を眺める時のように、
酷く漠然とした何かを悶々と考える内に、僕は眠りに落ちた。

夢の中では恐怖のデス・タキシードに襲われた。
だけれど翌朝、五体無事に目覚める事が出来たので、
例の事件の犯人は、恐らく別に居ると思われる。

シャワーを浴びて、服を着ると、彼女の事を考えた。

窓から差し込む光は温かそうだったけれど、
窓を開けて訪れる現実は、イメージに反比例して居た。
訪れるべき冬は、訪れるべき時機を、何も言わずに見計らって居る。

僕は黒色のニット帽を目深に被ると、部屋の扉を開けた。
青空は厭に澄んで居て、冷たい空気が自由に飛んで居るようだった。

太陽は温度を感じさせず、只、澄んだ青空に張り付いて居た。
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