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彼女はモスキート。 第十話

コンクリートの地面を、ビール瓶が転がる音がした。

最初、僕等は本屋に居た。
厳密には古本屋と言った方が正しい。

埃を被せたような狭い店内には、
同じく埃を被せたような本棚が立ち並び、
レジ・カウンターとも呼べない奥まった場所には、
寝起きの髪を輪ゴムで止めたような、中年女性が座って居た。

其れから指紋だらけのガラス・ケースには、
一昔前に流行したゲーム・ソフトが飾られて居た。




1678058_212.jpg

第十話 『記憶(古本屋)』




あの時、最初に「エロ本を盗もう」と言ったのは誰だったか。

僕では無なかった事は覚えて居る。
僕は『キャプテン翼』の第十四巻を手に持って居た。

僕等は中学二年生だった。
僕は『キャプテン翼』の続きが知りたかった。
僕が読むのを止めてしまった第十二巻の続きが知りたかった。

第十三巻は無かった。
其れは古本屋ではよく遭遇する状況だ。
仕方が無いから第十四巻を手に取って読み進めたが、
物語の中の彼等は成長してしまって、もう話に付いていけなかった。

岬君はフランスに移住して居るとの事だった。
僕の記憶の最後の岬君は、
ゴールポストに突っ込んだ岬君であり、
其れが何故フランスに移住するのか、理解出来なかった。

「エロ本、盗もうぜ」

背後から声が聴こえたが、
其れが誰の声だったのかは思い出せない。

とにかく誰かの呟いた声は聴こえたし、
そもそも初めから其れが目的だったような気もする。

其れ以外に、中学二年生の僕等に、
あの古本屋に入るような理由は存在しなかったから。

だけれど僕にとって、其れは本当にどうでも良い事だった。
僕が気になって居るのは、岬君がフランスに移住した理由で在り、
第十二巻から第十四巻までの間に、何が起きたのかという疑問だった。

透明なビニールで包装された安っぽいエロ本に興味は無いし、
そもそも其れはエロ本と呼べるような代物だっただろうか。

要するに僕等は不安定な衝動を抱えて居て、
其れを解消する為の方法が、ふたつだけ存在した。

大人のフリをする事。
子供のフリをする事。

くだらないエロ本を読む事。
くだらないエロ本を盗む事。

僕は読みかけの第十四巻を、本棚に戻した。
本当はまだ続きを知りたかったけれど、本棚に戻した。

今から起こる出来事に、きっと意味なんて無かった。
僕はエロ本を読みたかった訳でも無いし、
僕はエロ本を盗みたかった訳でも無かった。

だけれど不安定な衝動を抱えて居るのは、
僕にせよ、エロ本を学生服の中に隠した友人達にせよ、
ほとんどまったく、同じだった。

僕等はレジ・カウンター(とも呼べない場所)の前を通り、
中年女性と目が合わないように、扉を開けた。
中年女性が「待ちな」と言った。

「走れ!」

コンクリートの地面を、ビール瓶が転がる音がした。
叫んだのは誰だったか。
僕だった気もするけれど、よく覚えて居ない。

遠くから中年女性の声が聴こえたけれど、気にならなかった。
細い路地を抜けると、公園のブランコが見えた。
嘘吐きな僕等を、僕等は笑った。

ブランコに腰をかけながら、僕等は互いの顔を見た。
僕等は何人だった?
四人だったような気もするが、三人だったような気もする。

記憶の中で、僕は僕を数えずに居るのかもしれないし、
記憶の中で、僕は僕を数えてしまって居るのかもしれない。

僕は何処から、あの風景を眺めて居たのか。
誰かのブランコが揺れて居た事だけは、よく覚えて居る。

腹の中に抱え込んだのは、
八冊のエロ本と、不健全な満足感だった。
ペプシ・コーラの瓶を回し飲みながら、僕等はエロ本を回し読んだ。

僕等は紙の中の知らない誰かの裸体を眺めながら、
まだ手に入らないモノを、手に入れてみたいと思った。
まだ手に入らないモノを、手に入れたような気分にも浸った。

そうして其れ等を、自分のモノで在るかのように、別の誰かに語った。

青空は、今日と同じような色だったけれど、雲は無かったような気がする。
太陽は温度を感じさせなかったけれど、僕等は汗を掻いて居た気がする。

コンクリートの地面を、枯葉が転がる音がした。
其れは今日の出来事だ。
僕はポケットに手を入れて、其処でまた煙草が無い事に気付いた。

歩道橋を見上げると、彼女が立って居た。
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