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彼女はモスキート。 第十一話

嗚呼、太陽が接近する。

歩道橋の階段を一段、一段、昇る。
理由なんかは無いけれど、僕は毎日、歩道橋を歩いた。

嗚呼、太陽が接近する。

歩道橋の階段を一段、一段、昇る。
両手を伸ばしてみても、太陽に触れる事は在り得ない。

何年間も其処に在る歩道橋は、名物と言う程では無いけれど、
何年間も其処に存る事が当たり前だったし、
歩道橋から眺める一直線に伸びた道路は、絶景と言う程では無いけれど、
僕は此処から見える風景が大好きだった。




1678058_212.jpg

第十一話 『歩道橋(黄)』




彼女は歩道橋の中央で肘を突きながら、
一直線の先端に在る、町並と青空と山脈を眺めて居た。

僕には歩道橋を渡る理由なんて何も無かったけれど、
毎日のように歩道橋の上を歩いた。
彼方から此方まで。

此処から見渡す風景は大好きだったし、
其の度に僕は無敵な気分に浸って居たのだけれど、
青空に貼り付いた太陽にも、
遠方に貼り付いた山脈にも、
何ひとつ届きはしなかった。

彼女は歩道橋の中央に居た。

「待った?」

僕は彼女に声をかけた。
具体的な待ち合わせの約束を交わして居た訳でも無いのに、
一方的に「待った?」と問うのは、間違いのような気がした。
彼女が早すぎた可能性だって在る。

「待った?」

もう一度、問う。
彼女は歩道橋の柵に肘を突いたまま風景を眺めて居る。
栗色の髪のせいで彼女の表情を見る事が出来ない。
彼女は同じ姿勢のまま、声だけを捻じ込んだ。

「待った」

「何分くらい?」

「二時間くらい」

別に悪びれる気は無いが、
僕と彼女は厳密に時間を決めて待ち合わせた訳では無い。
何となく昨日と同じ時間に、何となく昨日と同じ場所で、
何となく会えると良いかもしれないよねといった程度の、
何となく待ち合わせの約束のようなモノを交わしたような気がしただけだ。

だけれど。

其れは確かに事実なのだけれど、
誰かを二時間も待たせてしまったという事実も、存在する。
僕は一気に申し訳無いような罪悪感に襲われて、思わず彼女に謝った。

無意識的に眉を下げながら、手を合わせ「ごめん」と声をかける。
ところが彼女からの返答は、実に呆気無かった。

「何で?」

彼女の髪が風に揺れて居る。

「え?」

「何で謝るの?」

僕は合わせた手を下しながら言う。

「二時間も待ったんでしょ」

「二時間も待ったね」

其処で彼女は此方を振り向き、
僕の顔を眺めると小さく笑った。

「だけど君が謝る必要は無いね、吉川くん。
 別に約束の時間なんて決めて無かったんだもん。

 また明日ねって言っただけよ。

 私は私の理由に従って此処に居たんだし、
 君は君の理由に従って此処に来たんでしょ?」

振り返った彼女は、僕に小さな驚きを、ふたつ与えた。

ひとつは彼女が、眼鏡をかけて居た事。
ひとつは彼女が、怒るどころか、笑って居た事。

彼女の眼鏡は鼈甲色の縁が付いた眼鏡で、
彼女の赤色の目(カラー・コンタクトでは無かったのか?)によく似合った。

肩から下げた大きな鞄は相変わらずだったけれど、
赤色と白色と黒色のチェック柄のネル・シャツと、
色落ちしたデニム生地のミニ・スカートと、
相変わらずのブーツを履いた彼女は、昨日より随分と穏やかに見えた。

「理由?」

「そうね、理由」

「理由って、どんな理由?」

彼女は僕を諭す事も、叱る事も、鼻であしらう事もしなかった。
口元で静かに笑うと、僕に向き直り、静かに歌でも唄うように言った。

「無言の約束に従うような理由よ。
 其れが初めから決められた事なのか、
 其れとも後から付け加えられた事なのか、
 其れは私にも君にも解らないけどね、吉川くん。

 君は君の理由に従って、歩道橋に来たんだよ。
 私も君も約束なんてしなかったんだもん。
 私はまた明日ねって言っただけよ。

 そして君が此処に来たの」

其処まで言うと彼女は鞄のファスナーを開いて、
其の中に手を入れると、何かを取り出した。
赤色と白色のストライプが見えた。
1088。

「じゃ、行こうか」

彼女は僕の横を通り過ぎ、また勝手に歩き始めた。
僕は彼女の背中を追うように歩き始めた。
彼女のブーツが重低音を響かせて、
秋の終わりの風に紛れた。

嗚呼、太陽が接近する。

少しずつ近付く季節に反比例するように、
きっと其れは、音も無く温度を上昇させて居る。
もしも今すぐ雪が降り墜ちたとしても、すぐに溶けるだろう。

今日の彼女は、冗舌な気がする。
少なくとも、昨日の彼女に比べてだけれど。
今日の彼女と、昨日の彼女しか、そもそも僕は知らない。

僕と彼女が出逢う前、其の更に前、
僕と彼女に何が在ったのかなんて、僕等は何も知らない。

其れが初めから決められた事なのか、
其れとも後から付け加えられた事なのか、
其れは僕にも彼女にも解らないけどね、リンカ。

「眼鏡、似合うね」

僕が背中越しに話しかけると、
彼女は此方を見ずに「何言ってんのよ」と言った。
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