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彼女はモスキート。 第十五話

断片的な全てを拾い上げ、再び結合する。

何かが始まる前に。
何かが終わる前に。

視界は爽快に開けては居るが、進むべき場所も無く、
また進むべき目的も無ければ、進むべき理由も無い。

完全な白だとか、完全な黒だとか、にも似て居る。

光だとか、闇だとか、に揶揄される事象の中間で、
僕は灰色を抱えながら、是が世界なのだと考える。
ところが世界とは何だ?

唯、僕の手の中には、
彼女が差し出した、ホット・レモン・ティーが在った。




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第十五話 『彼女と公園(空缶)』




「僕が自分で決めた事以上に、僕にとって本当の事って在るのかな?」

僕は温められた缶を握りながら、彼女に質問した。
彼女は無責任な表情で笑いながら「どうかな?」と言った。
汚れたベンチに腰を掛けると、彼女はホット・コーヒーを飲んだ。

僕は、僕の手の中のホット・レモン・ティーを眺めながら、
先程、其れに彼女が唇を付けた事を思い出した。

僕も彼女の隣に腰を掛けたけれど、
ホット・レモン・ティーに唇を付ける事は、
何故だか悪い事のような気がした。

「私の名前は?」

「リンカ」

「そ、リンカ」

「リンカ」

「そうよ、君が決めた事よ」

僕は本当の事が知りたかった。
全ては簡単に忘れ去られてしまうだろうし、
全ては懸命に手に入れたところで、最後には失われてしまう。

本当が欲しい。
だけれど一体、本当とは何なのか。

本当だとか、嘘だとか、に揶揄される事象の中間で、
僕は本当らしきモノを信じながら、今も此処に居る訳だけれど、
彼女の名前がリンカで在ろうが、リンカで無かろうが、彼女は変わらない。

空には月が昇り始め、僕等は公園のベンチを立ち上がった。
彼女はホット・コーヒーを飲み干すと、空缶を放り投げた。
放物線を描いた空缶は、公園のゴミ箱に命中した。

「ありゃ、入らなかった」

彼女は笑いながら走り出すと、空缶を拾った。
空缶を拾うと、少し距離を置き、改めてゴミ箱に放り投げる。
綺麗な音を立て、空缶はゴミ箱の中に消えた。

僕等は歩道橋に向かって歩き始めた。

僕の手の中のホット・レモン・ティーは、
今ではホット・レモン・ティーとは呼べなかった。
其れは存分に冷めてしまったけれど、
アイス・レモン・ティーと呼べる程でもなかった。

「また飲んでないの?」

彼女が僕の手を見ながら、呆れるように言った。

「飲めないよ」

「何で?」

「君が先に飲んだから」

「失礼ね」

彼女が頬を膨らませた。
其れは昨日、よく見た表情だったけれど、
何故だか懐かしい表情のような気がした。

「そういう意味じゃないよ」

「どういう意味じゃないの」

僕等は歩きながら、他愛の無い会話を繰り返した。
初めから目的や理由など存在しないはずの会話だった。
だけれど今は、目的や理由を求め始めて居るような気がした。

「女の子が唇を付けた場所に、唇は付けられない」

僕が言うと、彼女は実に楽しそうに笑った。

「中学生みたいな事を言うね、吉川くん」

遠くから、ビール瓶が倒れるような音が聞こえた。

「よし、良い事を思い付いた」

彼女は歩きながら、
彼女の人差し指を、彼女の唇に当てると、
其の人差し指を、今度は僕の唇に当てた。

「コレで飲めるでしょ?」

瞬間、僕は自分の血液が音を立てた事を意識した。
体の中が急激に温度を上昇させて、出口を求める感覚を覚えた。
恐らく其の出口は僕の顔面で在り、恐らく僕の顔面は、今、真赤だった。

彼女は僕を観察するように、
鼈甲色の眼鏡の奥から、赤色の目で僕を眺めた。
僕は何も悟られまいと、何も言わずに手の中の缶に唇を付けた。
彼女は僕をからかうように「あ、飲んだ」と言った。

僕の唇の中のホット・レモン・ティーは、
今ではホット・レモン・ティーとは呼べなかった。
其れは存分に冷めてしまったけれど、
アイス・レモン・ティーと呼べる程でもなかった。

僕はレモン・ティーを一気に飲み干した。
其れは、恐ろしく稚拙な表現かもしれないけれど、
甘くて、酸っぱかった。

気が付くと僕等は、歩道橋の中央に居た。

彼女は昨日と同じように、
僕の会員カードを手に「じゃ、また明日ね」と言うと、
其れを大きな鞄の中に放り込んだ。

僕は空缶を手に持ったまま、彼女を眺めた。
遠くに月が見えて、歩道橋が伸びて、其処に彼女が居た。

彼女の髪は栗色で、鼈甲色の眼鏡で、赤色の目で、
ネル・シャツは暖かそうだけれど、ミニ・スカートは寒そうで、
何者なのか、何歳なのか、何処から来たのかも解らなくて、
名前はリンカだ、と思った。

彼女は去り際に「一緒は良いね」と呟いた。

「一緒は良いね、吉川くん」

「一緒?」

「君が望むように、全てが一緒なら良いのにね」

断片的な全てを拾い上げ、再び結合する。

何かが始まる前に。
何かが終わる前に。

視界は爽快に開けては居るが、進むべき場所も無く、
また進むべき目的も無ければ、進むべき理由も無い。

完全な白だとか、完全な黒だとか、にも似て居る。

光だとか、闇だとか、に揶揄される事象の中間で、
僕は灰色を抱えながら、是が世界なのだと考える。
ところが世界とは何だ?

「君は私になれる?」

月は少しだけ欠けて居た。
音も無く滑るように昇り始めて居る。
彼女は僕に背を向け歩き始め、僕は其れを眺めた。

帰り道、僕はレモン・ティーの空缶を道端のゴミ箱に放り投げた。
ところが其れは見事に入らず、派手な音を鳴らしながら路上に転がった。

僕は空缶を拾うと、其れ以上は捨てる事も出来ずに、
彼女が唇を付けた部分を指で触れながら、只、路上に立ち尽くした。
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