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青色1号 第五話

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深夜の公園で、僕と水野は待ち合わせた。
梅雨が終わったといえ、夜は肌寒い。ブランコの表面は湿っている。大きな電灯が一本。静寂。
手で押して来た真新しい自転車のサドルの上に、僕は小さな黒いカバンを乗せた。まだ水野は来ていない。
乱雑に積み上げられた荷物の一番上に、鉄砲。

玩具の鉄砲? 否、本物の鉄砲。
撃って試した訳では無いが、モデルガンと本物の違いくらい、手に取れば素人なりに判別できる。
コルトM1917。ネットで調べると、それは1960年まで日本の警察に配備されていた鉄砲だという事が解った。
何故そんなモノが歩道橋の真ん中に棄てられていたのかは解らない。単に誰かが落としただけかもしれない。
とにかく今、それは僕の手元にあり、交番に届ける訳でもなく、机の引き出しに隠し持っている訳でもなく、
それを使って今夜、僕は女の子とコンビニ強盗をしようとしている。

「いやはや、ごめんね、待った?」

背後から声。
振り返ると、明らかな部屋着に身を包み、肩から大きなカバンを下げ、化粧を落とし、髪を振り乱し、
黒縁眼鏡をかけた水野が走ってくるのが見えた。

「待った」

僕は呟いたが、水野には聞こえていまい。

「ごめんね、ちょっと迷っちゃって」
迷う? 自分が指定した公園だから、道に迷った訳ではないだろう。
部屋着に身を包んでいるくらいだから、着る服に迷ったという訳でもないだろう。
別に深夜のデートではないが、もう少し愛嬌があっても良いだろうというくらい、明らかな部屋着だ。

「それにしても、本当に来てくれたんだ、ありがと」
しまった。別に本当に来る必要は無かったのか。
素直にお礼を述べる水野に驚きはしたが、時すでに遅し。来てしまったモノは仕方がない。
「……何に迷ったの?」
「ん、これこれ」水野は肩から下げた大きなカバンに手を入れると、二枚の布キレを取り出した。

「……何それ」
「マスク! コンビニ強盗といえばマスクが必要でしょ!」
呼吸を整えるように息を吐きながら、水野は言った。

「私、ルチャドールに憧れてたんだよね」
「……ルチャ?」
「ルチャリブレ! メキシコのプロレス、知らないの?」
中臣鎌足(なかとみのかまたり)、知らないの? とでも言うような顔で、水野は言った。

「知らない」
「男はルチャドール! 女はルチャドーラ!」
「はぁ……」

何を言っているのか解らないが、水野がメキシコのプロレスラーを尊敬している事は理解できた。
「男に憧れてたの?」
「違うよ、ルチャドールに憧れてたの、とにかく!」
水野は二枚の布キレを自分の両頬に当てると「どっち被りたい?」と言いながら僕を見た。まさか、
「そのマスクを被るって意味?」
「当然。他に何を被るっての?」

素材が何かは知らないが、麗しいほどの光沢を携えた二枚のマスクは、目立つ事この上ない。
ロマン輝くエステールも驚きの輝きを放っている。

「興味本位で聞くけど、そういうマスク、何枚持ってるの?」
「そうね、200枚以上かな、まだまだ集め足りないけど」
なるほど。200枚以上の中から選りすぐられた2枚。準備に時間もかかるはずだ。
「別に……どっちでも良いよ」
「じゃ、君コッチ。私コッチ被りたいから」
一枚を半ば強引に僕に手渡すと、水野は眼鏡を外し、ピンク色のマスクを被り始めた。

その格好のまま目的地まで歩く気ではあるまい。水野は本気でコンビニ強盗をする気があるのだろうか。
まるで緊張感が無い。もしかすると水野は"コンビニ強盗ごっこ"をしたいだけでは無いだろうか。
淡い期待が儚く崩れたのは、一秒後。

「じゃ、今から、今夜の作戦を発表するから、よく聞いて」

水野はカバンから大学ノートを取り出すと、それを開いて見せた。
各店舗の時間帯別の売上・客層・客数・店員の態度・店内カメラの配置・防犯対策の有無。逃走経路。
全ての情報が細かい文字と図で、一面に書き込まれている。水野は一枚のページをめくり、人差し指を置く。

「今は水曜の夜だから、南通りのコンビニが狙い目ね。やる気ない中年フリーターが店員だから」

時間帯別の客数は現在、0~2人。カメラは設置されているが、あまりチェックをしていない。
入口の前は細い車道で、角を曲がると入り組んでいる。途中、広い路地に出る辺りに自転車を用意しておく。
「鉄砲、持ってきた?」僕は無言で、真新しい自転車のサドルに乗せた小さな黒いカバンを指差す。
「じゃ、頼むよ、相棒」ピンク色のマスクの奥に潜んだ瞳で、水野は僕を見た。そんな目で見られても困る。

――「コンビニ強盗するなら、コード・ネームが必要ね」

自転車を押しながら目的地に向かう途中で、水野は呟いた。
専用のマスクは自分のポケットに入れ、化粧を落とした水野の素顔が、月明かりに照らされている。
「コード・ネーム?」今宵は満月で、絶好の犯罪日和なのかもしれない。深夜の路地は静かで、只、暗い。
暗くて深い夜の片隅から、何か楽しい事が始まらないかと願っている。明日が来れば、素晴らしい日々か?

「そ、コード・ネーム。そうね、男が主導権を握ってる方が、やっぱり悪の組織っぽくて良いよね」
欧米のフェミニストが聞いたら怒り出しそうな事を、水野は屈託なく言った。
「私、2号で良いわ。ピンクのマスクだから、桃色2号」
それから僕のマスクに触れて告げる。

「君、青色1号ね」

瞬間、少し前に蒲田と交わした会話を思い出した。空缶の表面に記載された合成着色料。
C37H34N2Na2O9S3。ラットが大量の青色1号を摂取すると、発癌するらしい。確かに強そうかもしれない。
日々は退屈だった。僕は冬が好きだった。彼女は失われたままで、季節だけが車輪のように、回転していた。
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[ 2010/11/01 05:00 ] 長編:青色1号 | TB(-) | CM(-)
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