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青色1号 第六話

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梅雨明けの雀。窓の外から鳴き声が聴こえる。
寝返る度にギシギシと煩い音を鳴らす、壊れかけたベッドの中で、僕は目覚めた。
家――何の変哲も無い、見慣れた自宅。雑誌と空缶が転がっている。
普段と違ったのは、ジーンズを履いたまま寝ていた事。枕元に変なマスクが脱ぎ捨てられていた事。
「……夢じゃなかったか」残念だ。シーンズのポケットを漁ると、丸められた一万円札が四枚。
数時間前、僕は本当にコンビニ強盗したんだな、水野と。

――「聞いたかよ! コンビニ強盗の話!」

大学に行くと、蒲田が興奮気味に騒いでいた。数時間前の出来事だから、まだ朝刊に載っている筈が無い。
彼の情報源は一体、何処から湧き出てくるのだろう。講義室を見渡すと、普段通りの席に水野は座っていた。
「おはよう」
「おはよ、一号、よく眠れた?」
「おかげさまで」
その呼び名は止めろ、と訴える前に、不覚にも睡眠に関する話題に反応してしまった。
厭味を言ったはずなのに、水野は楽しそうに瞳を大きくする。「へぇ、私なんか興奮して眠れなかった!」
ほとんど遊園地に行った後の子供みたいだ。「ねぇねぇ、何時間、寝た?」非常にどうでも良い質問だ。
「……二時間くらいかな」
「あっそ! それにしても鉄砲を出した瞬間の、あの店員の顔! あれ覚えてる!?」
「……おい! 止めろ!」抑えた声で、僕は叫んだ。講義室でコンビニ強盗の話をするなんて馬鹿げてる。
水野は口を押さえて小刻みに笑いながら「だって、あの顔……」と言った。まるで「あの観覧車、覚えてる?」と話すくらい気軽で、「だって、あの景色……」と笑うくらい根本的に能天気だ。確かに鉄砲を出した瞬間の店員の顔が、かなり素っ頓狂だった事は否めない。驚くでも無く、怒るでも無く、怖がるでも無く、素っ頓狂だった。
差し出された鉄砲を手に取って「ご一緒に温めますか?」と言い出しそうなくらい、素っ頓狂だった。

それくらい仕事に集中していない、やる気の無い中年フリーターだったのだ。
それが鉄砲と解るや否や、目を大きく見開いて、何かを叫ぶのかと思ったら「……ご一緒!」と言った。
彼は本当に「ご一緒に温めますか?」と言いそうになったのだ。僕達は予定通りに「金を出せ!」と叫んだが、会話としては成立していない。どうせなら隣の棚にあるカルビ弁当を差し出すくらいの余裕を見せたかったが、そんな余裕があるはずもなく、僕達は八万円を奪って逃走した。「……なぁんだ、たったの八万円かぁ」
水野は半分の四万円を僕に差し出すと溜息を吐き、その落胆の念を正直に表現した。深夜のコンビニで高額を狙うのは難しいのではなかろうか。「一旦、売上を精算する時間帯があるのよね」大学ノートを取り出す。
「調べておくわ、各コンビニの精算時間」
次の瞬間には、次の機会に向かって立ち直っていた。(……次の機会?)

「確かに、あの顔は面白かった。だけど今、その話するなよ」
「どうして?」
「学校だから。……捕まりたいのかよ、君は」

声を潜めて話していると、見慣れた影が近付いてくるのを感じた。
「何だよ、お前ら最近、本当に仲良いな」
「……別に仲は」
「それより聞いたかよ! 南通りのコンビニ! 強盗が現れたんだって!」
「へぇ……よく知ってるね」頬杖を付き、極めて冷静を装う。水野が余計な事を言わない事を祈る。
「それが男女二人組で、すげぇラブラブな強盗だったらしいよ」
「……ラブラブ?」
「それがさ、いや、ラブラブ、いやすげぇ」
蒲田が笑いながら、何とか話そうとして、やはり笑うので、まるで意味が解らない。僕達がラブラブ?
「何がラブラブなの?」
「それがさ、寄り添ってたらしいよ、常にピッタリと、コントみたいに……強盗する前にホテル行けよな」

誤解だ。寄り添ってた訳じゃない。水野のリクエストでBGMとしてBlack Sabbathを聴いていたのだ。マスクの隙間から何とかコードを入れて。だから寄り添ってた訳じゃなくて、コードが短いのだから仕方が無い。
「まぁ、確かにコントみたいだけど……」
「な! コントみたいだよな! 何でベタベタしてんのに、コンビニ強盗なんかしようと思ったんだろうな!」
「……それはベタベタしたいんじゃなくて、何か他に理由があったんじゃないかな」
「そもそも、その二人組、めちゃくちゃ変なマスクしてたらしいんだよ!」
「変なマスクじゃないッ!」水野が立ち上がる。失策った。マスクの悪口に反応したか。
「……何だよ、水野。お前、どんなマスクだったのか知ってるのかよ?」
蒲田は少しだけ怪訝な目をして、水野を見上げた。水野は一瞬、口篭ってから言う。「別に……女の勘よ」

何だ、そのフザケタ理由は。
勘だけで「見た事も無いマスクの変具合」を否定する女が、何処の世界に存在する。
明らかに「自分の宝物のマスクが馬鹿にされたから否定しました」という姿勢がバレバレでは無いか。
「なるほど、女の勘か」ああ、蒲田が馬鹿で良かった。
「まぁ、とにかく犯人は若い男女だったらしいんだけど、俺の勘だと、また次の犯行があるね……」
蒲田が突然、声を潜めて、わざとらしい演技口調で言う。(どうせ他の席でも言って回ってるのだろうが)
「……へぇ、それは男の勘?」水野が問う。
「否! 違う! これは俺の勘!」蒲田は叫ぶと、満足そうに笑った。

そんな蒲田を見ながら不敵に微笑んだ水野を見て、僕は心底、笑えなかった。
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[ 2010/11/01 06:00 ] 長編:青色1号 | TB(-) | CM(-)
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