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向日葵と金魚



僕は金魚である。
酷く疲れたので、何も考えない事にした。
何も考えないでいる内に、どうして何も考えないのかを、考えるようになった。

何かを考えている時は、ろくな事を考えないものである。
何処かの町に向日葵が咲いているのを、一度だけ見た事がある。
それが花の名だと知ったのは、ずっと後になってからであるけれど、僕が見たのは黄色い花で、
まるで炎のようだった。(そもそも炎を見た事も、一度しかないのだけれど。)
とにかくそれを、僕は透明な袋の中から見ていた。

美しい人が死んだら、人は泣くのである。
醜い金魚が死んだら、排水溝に流されるのである。信じられるだろうか。
大方、心優しい人は、金魚を土に埋めたりするのだろうが、少なくとも僕が知っている彼女は、
ダッチ・ワイフみたいに口を開けてプカリと水中に浮かんだ翌朝、呆気なく排水溝に流された。

重要なのは、あの朝、まだ彼女は死んではいなかった。
排水溝に棄てられる瞬間、まだ彼女は生きていたのだ。
ならば彼女は、その後、どうなった。

その意味を考える事にも、そろそろ疲れたのである。
何せ僕は以後、数年間に渡って、その日の意味を考え続けてきた。
辿り着いた結論は何個かあって、そのどれもが正解では無く、それが僕を悩ませる。
つまりは呆気ない出来事は、やはり呆気ない出来事なのである。それだけの事なのである。

僕等には無限の可能性など秘められてはいないのである。
この水槽にメロン・ソーダを混ぜられたら、それだけで死んでしまうのだから。
それでも、やはり夢を見るよ。

何時か、この水槽を抜け出して、あの排水溝に飛び込んでみたいのさ。
彼女は何処へ消えた?
行方知れずの感情ほど、手に余るモノは無い。
そもそも僕に手は生えていないので、本日も仕方なく、口をパクパクと動かしている。

君は見たか?
あの日の向日葵を、君も何処かで見たか?
もしも君が見ていたとして、それを僕が知る必要など無いだろう。
それとも見ていないとして、若しくは見られなかったとして、それも僕は知りたくないのだ。
生きているのか、死んでいるのか、そのどちらかを知る事さえも、僕には怖いのだ。それで僕は。

酷く疲れたので、何も考えないようにしている。
水槽の中、プクプクと泡立てる、その酸素を眺めている。
口に含もうとしている。まだ生きようとしている。そしてまた考えているのだ。

向日葵は綺麗だった。
等しく、彼女は綺麗だった。

僕は醜い。
どうしたって醜いのだ。
それでも、やはり夢を見るよ。

黄色く、赤く、水色に。
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[ 2008/06/14 01:38 ] 小説 | TB(-) | CM(-)
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