VOSTOK8 blog - Astronaut' Monologue TOP  >  スポンサー広告 >  小説 >  your step means my setup

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
[ --/--/-- --:-- ] スポンサー広告 | TB(-) | CM(-)

your step means my setup



「compression internal organs が値上がりするんだって」

「へぇ」、と呟いたまま、サワコの言葉を遮るように、僕は歩き始めた。太陽は地面から垂直に伸びて、真上から直射的な熱風を、僕等に吹き込んでいる。噂話は嫌いだ。誰も得しないから。真実は大体の場合、真実以外にはならない。なってはいけない。ところが噂話は真実をいとも簡単に嘘に変えて、悪ぶる事も無く他人のフリをしている。誰にも責任が降りかからないのは丁度、真夏の砂浜で抱き合う恋人同士みたいなもんだ。
「責任は降りかからない。迷惑はかかる」
「それ何の話?」
「別に」
グランシオ・スワップから南南西に伸びる国道を時速120㎞で進んでいたら、やがて海が見えるだろう。
そういう話だ。要するに「実体の無い実体が、真実に成り代わっているって話さ」
「よく解んないな」サワコは波音に耳を傾けて、もう僕の声なんて聞いちゃいなかった。僕だって同じだ。

よく解んない事柄に、何とか意味を与えながら、わざわざ此処までやって来たんだろ。
今更、失った荷物と、手に入れた荷物を、両天秤に架ける行為に、大層な意味なんてあるか?
「無いね。何も無い」
「何の話?」
「この言葉に意味なんて無いって話」
言葉は虚構だよ、サワコ。ならば僕等の生死も同じ事。実体の無い実体が、真実に成り代わっている。
エナメル質に濡れた海と、無色透明の空気。指に触れて感じるサワコの肌。何処にも差異なんて無いのさ。
それなのに僕にとって、サワコが唯一絶対的に、サワコで在り続ける理由は何だと思う?
認識しているという事。欲求しているという事。それを疑ってしまうと、全てが成立しなくなるという事。
「笑うって行為に、よく似ているな」
「はははっ」
恐らく意味も解っていないのに、サワコは短く笑った。眼前に広がる、静かな海を眺めたまま笑った。
意味なんて無い事柄が欲しいよ、サワコ。認識できない欲求。僕は、それが欲しい。何をするにも情報が多すぎるんだ。情報に伴う理由が必要になる。理由は噂話に変わり、真実は嘘に変わる。誰も得なんかしないよ。
宛を失くした迷惑だけが残るだろう。誰に? ――僕等の知らない誰かに。

「僕等の知らない誰か、ね」

知らないという事は、存在しない事と同じか? 同じでは無い。
見えないという事が、存在しない事と同じでは無いように。太陽が放射したガンマに、誰も気付かないように。
サワコの悲しみに、僕が気付かないように。黒点が発生し、質量が増加し、紅炎が噴出したって気付かない。
惑星が飲み込まれる最期の瞬間に、僕とサワコは悟るだろう。

「compression internal organs が値上がりするんだって」

「へぇ」、と呟いたまま、先程と同じ会話を繰り返した事に、僕は気が付いた。
生命を維持する身体機能を、たった一つの臓器に圧縮し、半永久的に生きる事を、最初に望んだのは誰だ?
だけど、それは噂話だよ、サワコ。誰が最初に望んだとしても、宛を失くした迷惑が残るだけだ。ところが誰もが半永久的に生きるなら、誰もが半永久的に死なないという事。宛が在るという事。だとしたら、それは。

「……それは、誰の為の命なのかしら」

グランシオ・スワップの空は青く、土は赤かった。
サワコが太陽を見上げて、一歩踏み出した。崖の上の小さな石が弾かれて、海に落ちた。
何にも意味の無い事で笑いたいんだよ、サワコ。喩えば明日、死んでしまう我が身だったとしても。
僕等の全てが、もう手遅れだったとしても。「月が昇るまで生きていよう。それを見たら、次は太陽が昇るまで」

瞬間、宙ぶらりんの片足を止めたまま、サワコは笑った。
何となく、僕も笑った。
関連記事
[ 2008/07/29 10:20 ] 小説 | TB(-) | CM(-)
目次
★説明


★長編小説














★短編






★お笑い








Blog Search
QR CORD
QR


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。