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飢える皇帝 第二章



国は緩やかに堕落していった。
民衆は刺激を無くし、次第に仕事を放棄するようになった。
まず始めに地方の小さな靴屋が店じまいをし、一週間後に隣町の床屋が店じまいをした。
外を出歩く者が減ったから、身なりに気を使う者も減ったのである。

それから半年後には多くの町から商店街が無くなり、
電灯は夜でも消えたままになり、一年後には信号機も動かなくなった。
それから数ヵ月後には銀行が経営破綻し、私の国は、ほとんどが動かなくなった。

「カレーライス禁止法を廃止されては如何ですか?」

従者の井上が進言したが、時は既に遅い事を、私はよく解っていた。
民衆がカレーライスから得ていた刺激が、それほどまでに強烈だった事実を知るに付け、
私はより深くカレーライスに対する羨望を覚え、より深く民衆に対する嫉妬を覚えたのである。

「カレーライスが食べられないなら、ケーキを食べれば良いではないか」

私は宮殿の回廊を歩きながら、空を眺めて呟いた。
それは実に青く澄んだ空だった。
私は「カレーライスに、この青を表現する事は可能であろうか?」と考えた。
だが恐らくカレーライスには造作も無い事なのであろう。
カレーライスは自由なのだ。

国が動かなくなろうと、私の生活に変化はなかった。
毎日、同じ時間に起床し、同じ時間に入浴し、同じ時間に睡眠する。
時に女中を抱く夜もあるが、ほとんど私は動かない。
それから同じ食器で食事をする。

嗚呼、喩え満天の星空の全てが私のモノだとしても、私は満たされないだろう。
全てが私の両手では抱えきれぬほど満たされていたとしても、私は一億光年分、虚しいだろう。
本当に欲しいモノだけが決して手に入らないと悟った時、それほど虚しい事が、他にあるだろうか。
私は生まれを呪い、血を呪い、カレーライスを愛する民衆を恨んだ。

私に愛する事が叶わないのならば、他の誰も愛してはならない。
私だけが愛するカレーライスで無いならば、他の誰に愛されてもならない。
全てが緩慢に滅び行くならば、喜んで共に滅びようではないか。

「陛下、暴動が起きようとしています」

従者の井上は、この一年で随分と痩せたように見える。
痩せても尚、私の元から離れようとしないのは、受け継がれた立場によるものか。
生まれを憎み、血を憎んだりはしないのだろうか。

「制圧せよ、朕は国家である」

私の一言で戦車隊は出動し、町は燃えた。
銃声が三日三晩、鳴り止まず、四日目に何も聞こえなくなった。

「陛下、私達は一体、何処へ向かっているのでしょうか」

井上は窓の外を眺め、小さく呟いた。
大きな窓の右端に満月が浮かんでおり、井上の髪を照らしていた。
それから月光は、井上の細い肩を撫でるように滑り落ち、真紅の絨毯に染み込んでいった。

「井上、脱げ。
 朕は貴様を抱きたくなった」

振り返った井上は何も言わず、喉元の牡丹を一つ外して、私を見た。
衣服は月光のように滑り落ち、白い肩筋が見えた。
それから小さく一礼して、目を閉じた。

井上がいなくなった窓辺から、細く伸びる煙が見えた。
満月に向かって、煙が伸びている。
決して届く事はない。

十月革命が勃発したのは、その四日後である。
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[ 2007/06/30 10:37 ] 小説 | TB(0) | CM(0)
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