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東京コミケ紀行 其の三



■健康ランド
船橋の健康ランド『ゆとろぎの湯』に到着した頃、時刻は既に0時を回っていた。
流石にコミケ会場である国際展示場から、これだけ離れていれば、混んでいる事はないだろうと思っていた。
ところが、である。この日が土曜の夜である事を、我々は忘れていた。見渡す限りのご老人。

受付のスタッフが「仮眠室は全て埋まっておりますが、よろしいですか?」と、僕等に訊いた。
僕等は顔を見合わせたが、今更他に行く場所も無い。「大丈夫です!」
とは言ったものの、寝る場所が無い不安に少しだけ襲われながら、僕等は二階へと移動した。

二階には仮眠室・お食事処・マッサージ室・喫煙所・ゲームセンターなどがあり、
今すぐ風呂に入って寝ておきたいところだったが、まずは飯を食おうという事になった。
この日、僕は起きてから、まだ何も食べてなかったのだ。荷物を下ろし、一息。「何食べる?」

ちゅい太君が「山菜そばとタラコご飯」などと、別にわざわざ千葉県に来なくても食えるものを注文したので、
この子は馬鹿なんじゃないかなと思いながら、僕はカレーライスを注文した。おもっきり普段通りだった。
何処で食ってもカレーライスは落ち着く。健全だ。安心の象徴だ。カレーが美味けりゃ世界は平和なのだ。
「カレー美味い?」などと訊きながらデジタル・ムービー・カメラを回す、ちゅい太君。「まぁ、美味いね」

逆に、この世に不味いカレーがあるなら持って来て欲しい。カレーと名の付くものは全て美味いのだ。
好きになったら全肯定。それが僕のスタイルである。嫌いになれる訳が無い。不味い訳が無いじゃないか。
ひとしきり食事を終え、煙草を一服。「風呂でも入るか?」
遠くの席では、0時を回っているにも関わらず笑い声。何処かの家族が、酎ハイ片手に談笑している。
テレビから五輪のニュースが流れている。此処は千葉県だ。普段とは違う。此処は僕の部屋では無い。
だけれど違和感は無かった。何処にいたって、誰かは笑っているし、楽しい時間を過ごそうとしている。

それは、とても人間らしい感情だ。
とても人間らしい、幸せを求める為の行動だ。ささやかな日常なのだ。
僕の知らない彼等にとって、千葉県の健康センターは、ほんの日常の一部かもしれない。
眠い目をこすりながら起きてるであろう小さな女の子が、ウーロン茶を注文していた。それを僕は見ていた。

翌朝、コミケスタッフは7:30~9:00の間に会場入りしなければならないらしい。
この時、船橋から会場まで一時間近くかかるであろう事が解っていたので、僕は少し不安だった。
多分、寝る事は出来ない。寝ないで会場入りして、ちゃんと一日、笑顔で皆と楽しむ事が出来るだろうか。
とにかく風呂に入る。全てはそれから考えよう。

風呂場へ向かうと数人の爺さん達が、裸のまま扇風機を浴びていたり、体を拭いていたり。
僕は荷物をロッカーに入れ、服を脱いだ。どうでも良いが男同士、この最初の一瞬だけは、少し躊躇する。
ちゅい太君と出逢って三年以上になるが、裸の付き合いは今回が初めてだった。まぁ、普通、初めてだろう。
彼が服を脱ぐと、その美しくも儚いラインが見えたので、僕は爆笑した。もっと運動しろ、ちゅい太よ。

風呂場はそれなりに立派で、何種類かの湯船や二種類のサウナまであり、露天風呂まである。
露天風呂に浸かりながら、健康ランドを選んで本当に良かったと思った。
ネットカフェでシャワーを浴びるのはもちろん、頑張ってホテルに泊まっていたとしても、こうはいくまい。
それまでの緊張や、不安や、疲れが全て流されていくような気がした。草津の湯。「草津の湯なんだ?」
僕は問いかけたけれど、ちゅい太君から返事は無かった。
ちゅい太君は相当のぼせていて、試合を終えたプロレスラーか、千秋楽の力士のようになっていた。
ごっつぁんです。

風呂を上がると、いよいよ僕等は寝床を探す事となった。
寝床を探すとはどういう事かというと、まず仮眠室は全て埋まっていて、本当に爺さんだらけだった。
とは言え、僕等以外にも仮眠室からあぶれた人達はいて、そういう人達が何処に寝るのかというと、
各々、休憩室のソファを陣取ったり、マッサージ用の(既に閉店していた)椅子を陣取ったりしていたのだ。
しかしソファ系の、いわゆる「割と寝心地の良い場所」は、すでに占領されており、僕等に残された場所は、
床――そう、床だった。いくら一時は野宿を覚悟していたとはいえ正直、床はないだろ、と思っていた。

辺りは静まり返っており、爺さん達の寝息が聞こえてくる。
床さえも、広々とした、寝やすそうな、目ぼしい場所は既に埋まっている。
するとマッサージ・チェアが空いている事に気が付いた。本来は一回300円の商売場所らしいが、
この時間に使用する人はいない。僕は、ちゅい太君に手招きした。小声で話す。「ここでいいじゃん?」
ちゅい太君は「おお、いいね」などと言いながら、何処からか見付けて来た漫画本を片手に座り始めた。

隣に座りながら、僕も漫画本を読み始めた。(漫画や週刊誌などが色々置いてあったのだ)
しかし、すぐに気付いた。マッサージ機のゴリゴリした部分が当たって、背中が痛いのである。
足も伸ばせないし、落ち着かない。これは寝られない。漫画を読みながら「これは無理だ!」と隣を見ると、
ちゅい太君はすでに熟睡していた。早!環境に適応するの早!どんだけ神経太いんだと驚いた。

--------
■睡眠との格闘
旅において大切なのは、環境を受け入れ、順応する能力と、何処でも寝られる能力だろう。
その点において、ちゅい太君は天才的に楽天家な部分がある。何とかなるのではなく、何とかするのだ。
その感覚で、彼は大阪から北海道にひょっこり出てきて、何とか暮らしているのだから大したものだ。
今回の旅は、そんな彼のおかげで、僕は最後まで安心する事が出来た。

ところが今の問題は「僕が寝られるかどうか」だから、こればっかりは彼が頑張ろうが、全て僕次第である。
まず、どう考えてもマッサージ・チェアでは寝られない。仮に寝られたとしても、起きたら全身が痛いだろう。
本番は明日。全ては明日の為に準備してきたのだ。どうしても、明日は万全の体調で望みたいのだ。
そうこうしている間にも時計は進み、睡眠時間そのものが削られている。いよいよ緊張してきた。

あと数時間後には会場にいなければならない。万全の体調で望まなければならない。
寝ておかなければならないし、体調を整えておかなければならない。明日は笑顔で過ごすのだ!
考えれば考えるほど、マッサージ・チェアなどで寝る訳にはいかず、思わず僕は席を立った。床でもいい。
床の方が、全身への負担は少ないはずだ。問題は寝る場所だ。寝やすい場所は既に埋まっている。
僕はマッサージ・チェアと壁の間に、首から下げていたバスタオルを敷くと、半分無理矢理、体を押し込んだ。

腕の近くに、ちゅい太君の足があり、顔を動かすと、枕元に知らないオッサンの足があった。
正しく近距離戦。近い。知らないオッサンの足が近い。寝られるのか、コレは。やはり無理かもしれない。
とにかく僕は、変な体勢のまま、読みかけの漫画を読み進める事にした。今泉伸二の『空のキャンバス』。
漫画でも読んでいれば、そのうち眠くなるだろうと思ったのだ。……ところが全巻、読破してしまった。

これはマズイと、ちゅい太君が読んでいた漫画でも読もうと手を伸ばし、表紙を見てみると、
ドラゴンクエストを題材とした『ロトの紋章』という漫画だった。何読んでんだコイツ、と思いながら読んでみる。
全然、内容が解らない。これは逆に眠れるんじゃないだろうかと思って読み進めてみたものの、眠れない。
携帯電話の時刻を見ると、4時を回っている。これはマズイ。翌朝、6時には起きていなければマズイのだ。
明日は一日中、皆様とお会いしなければならない。目の下にクマを作って「頑張りましょう!」は無いだろう。

寝なければ!寝なければ!思えば思うほど寝られない。今すぐ寝ても二時間。それもマズイ。
僕はむくりと起き上がって、床に敷いたバスタオルを剥ぎ、館内をウロウロと歩き始めた。
喫煙所で煙草を吸ったり、本棚で漫画を探したり、マッサージ・チェアに座ったり、また煙草を吸ったり。
そうこうしている内に時刻は5時。爺さん達が起き始めた。しまった!お年寄りは早起きなのを忘れていた!

ゆっくりと朝が始まろうとしている。
この間、ちゅい太君が一回も起きようとしないのも異常だ。背中は痛くないのだろうか。
爺さんが館内を歩き始めている。そっと仮眠室を覗いてみると、何箇所かのスペースが空いていた。
ラッキー!と叫び出さんばかりに、僕はそこに寝転んだ。時刻は5時30分。まぁ今更、寝るも何も無かろう。
完全に徹夜になってしまった。しかし気休めでも、少しくらい体を休ませておくべきだろう。僕は目を閉じた。
仮眠室の外から、大声で話す爺さんの声が聞こえる。

結局、眠れなかった。
6時になり、僕の携帯電話がポケットの中で音を出さずに揺れた。
いよいよ、8月17日が始まる。この日の為に、二ヶ月前から準備してきたのだ。
30分だけ休めた体を起こして、僕は立ち上がった。
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[ 2008/08/21 18:12 ] 告知:M線上のアリア | TB(-) | CM(-)
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