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ring sling



快感と興奮の中で、言葉は駆けるのさ。
デリルから北へ。黒点を経てコロナへ。止め処なき、其の焦燥へ。
僕等はたまに何かを成し遂げた気分になるけれど、本当は何も成し遂げてなんて無い。
只、この快楽と興奮を、僕等の大好きな言葉に閉じ込めて、川沿いを散歩していただけなんだ。
振り返れば誰も居なくて、隣を見れば君も居なかった。其れで虚しい気分になるなんて、まるで馬鹿げてる。

美味しいパン屋の情報が載っている雑誌を、まったく嬉しそうな顔をして、誰かが買って居た。
其れから電磁気学の参考書と、流行のギャグ漫画。まったく役に立ちそうで、役に立たない情報ばかり。
世の中のほとんど全てが相対性理論で説明出来るなら、僕等の苦悩の全ては幼稚園児でもカタが付く。
君が神様だって言われた方が、よっぽど信用できる。

川沿いの夕暮れは綺麗だったかい?
君の生き方の方が、よっぽど綺麗だよ。だから僕は痛いほど、君に憧れた。
全ての終息の中では、虚しさしか感じないかい?
だとすれば僕は小さなドーナツを一輪、買いに行くよ。あの雑誌に載っていたパン屋だよ。

僕等は何故だか、どうしてだか、まったく不完全な存在で、大事な部分が欠けている。
真ん中にポッカリと大きな穴を抱えて、また偉そうに吼えている。全て残さず食べてしまえば良いよ。
欠けている事も、欠けていない事も、真白な空気に手を伸ばすなら、どちらも同じ事。
勝手に形を演じていたのは僕等の方だ。勝手に空洞を演じていたのは僕等なんだ。だから聞いてくれよ。
全て残らず食べて、何も無かった事にしてくれ。初めから終わりまで、其処に形なんて無かった。僕等は、
「救われる日を待っていた」
嗚呼、そうか、其の通りだ。其れで随分、僕は形を求めていた。何かに自分を重ねて「見付けた」と思った。
ところが悲しいくらいに。

ドーナツの先端が何処に在るのか、君は知っているか?
綺麗な空洞を描いた、其の円の先端だよ。
多分、何処かに原因が在って、其れに付随する結果が在るのだろうと、僕は信じていた。
ところが違うな。初めから終わりまで、先端なんて無いのさ。もしも先端が在るのだとして其れは、
「神のみぞ知るという事だ」
嗚呼、君が神ならば、随分と話が早かった。幼稚園児でもカタが付く問題の答を知っているだろうから。
ところが悲しいくらいに。

僕等は互いに一人だよ。そうだ、悲しいくらいに。同じ人間では無かった。
電磁気学の参考書も、流行のギャグ漫画も、其れ以上の答は教えてくれなかった。
だから僕は、最後にドーナツを買いに行こう。美味しいパン屋の情報が載っている、あの雑誌を頼りに。
まったく笑ってしまうくらい、僕等は欠けてしまってるから、飲み込む作業が必要なんだ。始まりと終わりを。
散歩の途中に少しくらい、寄り道したって良いだろう。嗚呼、季節はずれのモスキートの羽音が聞こえるな。

其れでも僕は糸を繋いで、誰かを愛してみたいと願って止まないよ。連続するドーナツの輪の途中で。
自転しながら公転。巨大な円を描き続ける惑星。其のどれもが始まりでも終わりでも無い。
アンサムから西へ。白熱を経てパラムスへ。止め処なき、其の衝動へ。
快楽と興奮の中で、言葉は駆けるのさ。
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[ 2008/09/14 09:39 ] 小説 | TB(-) | CM(-)
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