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Taciturn Saturn



エルシスの森で一つだけ約束しよう。
冗舌な右手と、寡黙な左手の、其のどちらも切り落としてはいけない。
だから君は、君の指一つ傷付ける必要は無いのだし、其の魂一つ押し潰す必要も無い。
喩え僕等が唯一無二、自分だけの存在だったとしても、この世に何一つ解り合える事なんて無いと、
嘆いたり、嘯いたり、諦めたりする必要は無いのだと、せめて頭の片隅くらいにでも、入れておいてくれ。

歌を唄いたいんだ。其れだけだった。
其れだけの事に大層な理由を付けて、気が付けば今日も、こうして喉を震わせている。
叫びたい事も、伝えたい事も、ましてや吐き出したい事も、全て飲み込んで、何を唄う気だったんだ?
もしも世界中が困難だらけでも、君が笑うなら何とかなるような気がしたよ。

僕の右手は冗舌で、僕の左手は寡黙だ。
其のどちらもが、僕の声になる。言葉になる。この森を震わせる感情になる。
僕等は笑いたかったんだ。其の為に泣きたかったんだ。だからこそ解り合いたかったんだ。其の全てが、
「森に歌が響くぞ。何とも荘厳な歌だ。民よ、書を棄て、剣を棄て、吼えろ。吼えろ。吼えろ!」
僕等の歌になる。君の大好きな歌だよ。月は欠け、闇に隠れ、しかし再び昇るだろう。似た円を描きながら。
木陰から風が吹き、虫達の声は止み、煙草の煙が見えるなら、きっと僕等は知るだろう。

喩え僕等が唯一無二、自分だけの存在だったとしても、この世に何一つ解り合える事なんて無いと、
嘆いたり、嘯いたり、諦めたりする必要は無い。僕は君では無いし、君も僕では無いけれど。
それでも一つだけ言えるなら。何時だって僕は、君の事ばかり考えてしまうんだ。

土星の輪。
森に歌が響いている。
せめて頭の片隅くらいにでも、入れておいてくれ。
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[ 2008/09/15 19:18 ] 小説 | TB(-) | CM(-)
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