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彼女はモスキート。 第二五話

熱。

温かい。

音。


湯気。

空気。

会話。


温度。

上昇。

存在。


君の真実は、僕の嘘。

僕の真実は、君の嘘。

只、僕は其れ等を、共有してみたかった。




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第二五話 『自室(焦熱)』




「久し振りに見たよ」

温かい紅茶を飲み終えた後で、僕は最初に言った。

「何を?」

「笑った顔」

「誰の?」

悪戯を終えたような顔で、彼女は笑いながら言った。

「姉さんの」

姉は既に此処に居なかった。
居間からは水道水の流れる音が聞こえた。
僕は目を閉じ、無音の中で響く、其の音を聴いた。

「仲、良くないの?」

「さてね、どうだろう」

普通の姉と弟の関係は。
あまり笑った顔を見ない事くらい、変わった事では無いと思う。

「君は兄弟、いないの?」

「さてね、どうかしら」

姉と僕の関係は。
笑った顔を見せる、見せないの関係では無くて、
許せるか、許せないかの関係として、長らく成立していた。
少なくとも僕自身の中で。

「そう言えば」

僕は目を開き、先程、彼女が取り出した赤と白のスタンプカードを思い出した。

「漫画喫茶で住所なんて教えてくれるの?」

僕が訊ねると、彼女は少し呆れたような表情で、教えてくれる訳ないじゃない、と言った。

「だけど、君」

「教えて貰ったよ」

明らかに矛盾した事実を告げると、彼女は鞄の中から、赤と白のスタンプ・カードを取り出した。

「誰に?」

「誰かに」

「何で?」

折り畳まれた赤と白のスタンプ・カードの中には、小さなメモ紙が挟んであった。
細長い指で取り出すと、彼女は其れを楽しそうに読み上げた。
僕の家の住所だった。

「確かに」

呆れた声で、僕は続けた。

「どうして僕の家に?」

最初に玄関で訊ねたのと同じ質問を、僕は繰り返した。
お見舞いに来たのよ。
其のような返答を、期待して居たのだと思う。

僕等は共に並んで、歩道橋の上から初雪を眺めた。
あの瞬間、僕等は一緒だった。
一緒の存在だった。



(来年も、初雪は誰かと一緒に見たい?)



だから、今から数秒間に起きた、其の短い出来事を、僕は永遠に忘れないと思う。

其の瞬間の彼女は動きは、とても自然だった。
まるでスタンプ・カードを取り出すのと同じに、
鞄の中に手を入れて、小さく笑った。
小さく笑いながら、言った。

「本当に、一緒は良いかな、吉川くん」

窓の外では雪が降り続いて居たのだろうけれど、あまり気にならなかった。
本当は、常に気にしておかなければならなかった。
もう季節は変わったのだと。

「ごめんね」

彼女が鞄から取り出したモノ。

其れが何なのか、最初、僕には解らなかった。

彼女の掌よりは大きくて、固く、其れから酷く冷たかった。



其れまで信じた全ての、

音が、

色が、

感覚が、

感情が、

窓の外の雪に吸収されて、

消えてしまうような気がした。








「君は、私になれる?」








其れは鉄砲だった。








君の真実は、僕の嘘。

僕の真実は、君の嘘。

只、僕は其れ等を、共有してみたかった。


分かち合いたかった。

分かり合いたかった。

君を、僕と同じように、理解してみたかった。


延々と一緒が良かった。

脈々と一緒が良かった。

心臓が、僕の中で鳴り続けるのと同じように。

欠ける事無く同じであれば、良かったのにな。


嘘では無いよ。
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