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220km/s

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 血液が心音を上回るなんて事が起こり得るか?
 僕が電車に揺られて空調機能の壊れた会社に向かっている頃、君は地球を離れて土星の輪を三周しているんだろう。二周目が一番スリリングだと笑っていたな。決して溶ける事の無い氷の粒と、決して弛める事の無い君の速度。加速度的な情事。圧倒的な距離を感じるよ。
  君の好きな文学なんて単なる言葉の羅列だよ。難解な文節の羅列。まるで興味が湧かない。馬鹿な僕にも解るように説明してくれよ。一から十まで優しく手解き。新しいコピー機を扱う手順よりも簡単に。能力的に下にいると感じる上司が、偉そうに僕に説教を垂れ流しているのだけれど、これが君の好きな相対性の社会か? 僕が昼休みに自販機で缶コーヒーを買った頃、君は木星の表面で、エウロパの花畑でも眺めているんだろう。銀色の中古車の中で、僕は眠るよ。嗚呼、また君の夢を見た。

 不可逆性のリズムで生活を繰り返している。
 非通知。未処理。相対性理論の結末。分子レベルの会話なんて、僕には関係ないけれど、君には関係あるんだろう。アップとダウンを繰り返し、またクォークで繋がるんだろ。誰が小難しい理屈を聞きたいなんて言った? 僕は君の本当が知りたかった。僕の本当を、僕が知りたがっているのと同様に。だから仕事を終えて本屋に立ち寄る事も、居酒屋で焼酎をロックで注文する事も、同郷の友人の結婚話と離婚話も、別にどうでも良い事だ。どうしたって僕の血液は心音を上回らない。非現実的な現実も、受け入れられない。そろそろ地球は冬だ。

 火星の暮らしはどうだい?
 五体満足に暮らしていくだけでも、意外と大変なものだよ。寝て起きて暮らし、毎日の献立に悩んでいる。昨日はホウレン草のキッシュを作ったから、今日は外で牛丼でも食べようか。宇宙食というのは大体、乾燥しているものなのか。先日、送って貰ったけれど、あまり食えた代物じゃ無かった。無味無臭ならば、何も食べなくても同じ。だけれど渇いているよりは、濡れていたいと願う生き物だよ。人間の話さ。魚が泳いでいる。僕の手には届かない場所でね。ガラスの向こう側で泳ぐってのは、どんな気分なんだろう? ガラス越しに眺める宇宙は、どんな代物なんだい? どうにも電波が悪いんだろ。君に届かなくても良いよ。嗚呼、また朝。

 愛されたいならば馬鹿になるべきだよ。
 欠落した部分を埋めようとする気持ち。それが愛なんだから。人間の話さ。金色の願望。灼熱。焦燥。付随する穏やかな気持ち。君は日本語を覚えているか? 君の大好きな文学を、今でも読む事が出来るのかな。単なる言葉の羅列だけれどね。難解な文節の羅列。まるで興味が湧かない。だけれど数冊、読んでみたよ。もしも君の頭の中が少しだけでも解る気分になれるのならば。多分、嬉しくて。悲しくて。虚しくて。
 今頃、君は金星で、僕の知らない本を読んでいるんだろう。

 身体中に無数の道筋。僕が刻んだシワだよ。気が付けば年老いた。
 才能は枯れ、欲望は果て、それでも思い出すのは君の歩き方だ。声さえ忘れてしまったのにさ、歩き方なら覚えている。音も無く歩く。水中を泳ぐ魚のよう。君は温度を感じられるか? 無酸素のガラスの中で。花束を贈りたい気分だよ。エウロパの花には敵わないかもしれないが。だけれど難しいな。見上げた星空の何処に君がいるのか、僕には見当も付かない。なぁ、嬉しいだろ。君が求めた光まで、もうすぐだ。太陽を眺めていれば、君が目に映るだろうか。

 220km/s の速度で、宇宙を疾走している。
 僕を興奮させてくれよ。血液が心音を上回るなんて事は起こり得ないが。最後には渇いて死んでしまうか? 焦熱に溶けるか? それでも濡れていたいと思うものだよ。人間の話さ。膨大な質量と重力の均衡点を、圧倒的な速度で振り切るんだろ。魚のように、音も無く。 不可逆性のリズムで生活を繰り返している。
 太陽に接近して、接触して、消滅する。瞬間。只、僕が願う事なんて単純なのさ。
 言葉にすると、僕の血液は、心音を簡単に越えるよ。

 嗚呼、全てが終わる前に、君の声が聴きたい。
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[ 2008/11/01 11:12 ] 小説 | TB(-) | CM(-)
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