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秋冬の鳥が、飛んでいた。

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秋冬の鳥が、飛んでいた。

ホルストの『惑星』を聴きながら、朝から文章を書いている。
普段、文章を書く時は完全に無音なのだけれど、今日は久し振りにホルストを聴いたら、 何だか良かった。気分の問題という訳でも無かろう。とにかく居心地が良く、しっくり来た。

一週間前に、親戚の伯母が突然亡くなって10日と11日は葬式だった。
それで僕は9日の深夜に仕事を終えると少し仮眠し、早朝に起きて家を出る事となった。 僕の母方の実家は寺なので、 毎年、何かしら親戚が集まる行事がある。全てに参加するのは難しいのだけれど、 少なくとも盆には、僕はほとんど毎年参加していた。その家に、何時も伯母さんはいた。 その家の居間にある、窓際のソファに、何時も座っていた。

至極当然の事だけれど、子供の頃から、記憶も定かでは無い頃から、 僕は伯母さんを知っていて、伯母さんは大体、割と静かに、居間のソファに座っていた。 小さな頃の僕にとって伯母さんは、ほんの少しだけ「怖い伯母さん」だった。 会話らしい会話を交わした記憶は少ないのだけれど、多分その所為だろう。 ソファに座る伯母さんの近くを通る時は、何時も少し緊張した。 悪い事はしてないのに、何故か怒られるような気がした。 勿論、怒られた事など一度も無かったのだけれど。

正午近くに、母の実家でもある寺に着いた。
いわゆる「本家」というものだから、親戚が全部集まると、中々壮観である。 見慣れた本堂が、真白な布で綺麗に飾られていた。知らない場所みたいだった。 見慣れた場所は慌しく、挨拶もそこそこに、誰もが忙しなく動き回っていた。

湯潅が始まり、僕はそれを眺めた。
通夜が始まり、僕はそれを眺めた。
聴き慣れた諷経を、何時もと同じように聴いていた。
只、何かが違う事は知っていて、それは誰もが知っている事だった。

ほとんど全てが、普段通りだった。 長い間、座っていたら足が痺れるだとか、腹が減るだとか、退屈な気分になるだとか、 そのようなほとんど全てが、人間らしく、本当に、人間らしく、だけれど何かが違った。

(やがては死ぬ身を受け入れなさい 受け入れる為に死なぬよう)

諷経を聴きながら、突然、その言葉が僕の頭を掠めた。 それで僕は残りの諷経の間中、ずっとそのような事を考えていた。 笑わせる為に笑いなさい。笑う為に笑わせぬよう。愛する為に抱き締めなさい。 そう、抱き締める為に愛さぬよう。

嗚呼、真実を知ろうとしないのならば、何と愚かな僕の命だろう。 嗚呼、理由や意図を求めぬならば、何と間抜けな人生だろうか。 何故、生きているのか問わないばかりか、生きる事に必死で、生きる事を忘れている。 勝利。成功。繁栄。本当に、どうでもいい。他人の考えた常識に踊らされるなんて御免だ。

全て忘れて生きるだろう。誰もが。今日の気持ちも、何時かは忘れるだろう。 それを前向きな人生と呼び、自立や独立と呼び、やがて自分達を肯定してしまうだろう。 だけれど何かが違うんだ。何かが。宝物を隠されて、そのまま忘れてしまった気分なんだ。

全ての理想論が、馬鹿みたいな綺麗事が、まだ世界を照らしている。
幸いな事に。

足が痺れて、腹が減った。 理想論や綺麗事で、痺れた足や空腹は治せるのかい?と、誰かが僕に問うだろう。 治せるさ、と僕は言う。 へぇ、どうやって?と誰かが僕に問う。

その顔が一番、癇に障るんだよ。 僕は口先ばかりで結局は、痺れた足も空腹も、治せやしないかもしれないな。 口先だらけで野垂れ死ぬような子供だよ。 だけれど何で、だったら何で、アンタ達は満足な顔一つしてないんだ? 痺れた足も空腹も、何時でも簡単に治せるのに。 自分達が、本当は何が欲しいのか、本当は知ってるんじゃないのか?どうなんだ?

教えてくれよ、本当のところを。
このまま進めば、僕等は笑って死ねるのか?最後には笑えるのか? どうして隠してしまうんだ。その宝物を。どうでも良いような落書きを。その約束を。 とても小さな、些細すぎるほど些細な、どうでも良いような何かを、宝物と呼んだんだ。 立派な豪邸にも、豪華な食事にも、溢れんばかりの札束なんかにも、負けはしないよ。 巨万の富を築いた有名人が逮捕されたよ。ありゃ何だったんだ。 なぁ、教えてくれよ。

長い諷経が終わり、僕は本堂を離れた。
酒と食事が運ばれ、親戚同士が会話を始めていた。
僕は寺から歩いて、あの居間へ向かった。あのソファが見えた。

最期に話したのは何時だったっけな。
毎年、盆には此処に来るのに、今年は東京に行ったので、丁度来られなかった。 伯母さん、今年は一回も会えなかったけれど、だけれど東京で、僕は沢山のモノを得たよ。 心から行って良かったと思ってる。だから許して欲しい。まぁ、許すも何も。 会話らしい会話を交わした記憶も無いのだけれど、だけれど、伯母さん。 最期に交わした僕等の会話を、僕は思い出したよ。 確か、去年の秋だった。

伯母さんは何時もの場所に座って、窓の外を見てた。 何があるのかと僕も外を見ると、窓際で小鳥が一羽、羽を休めていた。 窓際に立てた木の棒に止まり、その茶色の小鳥は、小刻みに餌を啄ばんでいた。

「餌付け?」

思わず僕が訊ねると、伯母さんは小さく笑った。

「ツグミが来るんだ」

そうだ。
あの鳥は確か、ツグミだった。
秋の終わり、冬が始まる少し前の、ほんの短い季節。

伯母さんと僕の会話は、その程度の短い会話だった。
それ以上、僕等は何も話さずに、只ぼんやりと、窓の外を眺めていたと思う。 だけれど僕は、その日から何となく、ツグミという鳥が好きになった。
ツグミが出てくる短編小説だって書いた。
只、何となく。

只、何となく、が重なって。
積み重なって、積み重なって、やがて宝物になる。 他の誰が見ても、理解なんかされないような、僕だけの宝物になる。 百億円積まれたって、世の中の全てを買占められたって、絶対に手に入らないよ。

僕はツグミが好きだよ。
伯母さんとの短い会話で、手に入れられた気持ちだよ。


秋冬の鳥が、飛んでいた。


何時かは南へ。南へ。


知らぬ何処かへ。


翌日、告別式を終えて家に帰ると、泥のように眠った。
翌朝、僕は普段通りに、本当に普段通りに、パソコンの電源を点けた。
それから昨日の、あの短い思考を、何度も思い出した。
白紙の画面を眺めて、短い言葉を浮かべた。

笑わせる為に笑いなさい 笑う為に笑わせぬよう

愛する為に抱き締めなさい 抱き締める為に愛さぬよう

やがては死ぬ身を受け入れなさい 受け入れる為に死なぬよう

出来上がった詩に、僕は『I make a cake. You carry a juice.』と名付けた。 どうか全てが絶え間なく生まれ、また絶え間なく流れますように。 どうか全ての想いが、憂いが、過ちが洗われますように。 そしてまた汚れ、洗われ、繰り返されますように。 僕等の命が、穏やかに繋がりますように。

只 しずしずと休みなさい

只 さめざめと泣きなさい

わたしの想いが水を運んで あなたの町まで届くよう



嗚呼、ツグミが、飛ぶ。
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[ 2008/11/14 11:47 ] 雑記 | TB(-) | CM(-)
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