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其れは通り雨。そして雨。 -前編-

247.jpg

僕とミチルが交わした其れは、約束とも呼べぬ約束で。
相手がミチルじゃ無いのなら、果たす必要も無い約束で。
只、僕の右手と左手に同じ重さの其れが在るなら、片方はミチルのモンだ。
ミチルが受け取るべきモンだ。

だから僕は日曜日の終わりから月曜日の始まりまで、
火曜日を経て水曜日を泳ぎ、 木曜日に呆れ、金曜日に忘れ、
土曜日に思い出し、ようやく此処に来たという訳だ。

今更だろう、ミチル。
何せ僕等の約束は、十年前に交わされた約束だった。
小学生の終わりに、交わした言葉なんだから。

だから今更、そんな言葉には、
「何の効力も無い」
人通りの多いハンバーガー・ショップの前。真ん前。
見慣れた光景は、見慣れてしまった光景だ。

何故なら此処には十年前、小さな公園が在ったんだから。
其れが今じゃハンバーガー・ショップで。
あろうことか、僕は其れを見慣れてしまっている。

白い自動車が、ドライブ・スルーを、ドライブ・スルーする。
幼い僕等がブランコを経て、砂場へ駆けた瞬間のように。

ミチルは足が速かった訳でも無ければ、遅かった訳でも無く、 誰よりも大きくブランコを漕ぐ訳でも無く、砂場で遊ぶのが上手かった訳でも無い。 口数が多かった訳でも無く、毎日公園に来ていた訳でも無い。そもそも、
「仲が良かった訳でも無い」
ミチルが言った冗談を、僕は思い出す事が出来ない。
其れどころか声も、歩き方も、住んでいた家さえ覚えてはいない。

だけれど唯一、ミチルが泣いた日の事は、よく覚えている。
砂場の隅に立てられた、青い小さなトンネル状の土管の中で、ミチルは泣いた。 ミチルは隠れんぼが苦手だった。其のくせ見付かりにくい場所に隠れる癖があった。 何時だって一番最後に見付かるのがミチルで、其のままずっと見付からずに帰る事もあった。

なのに、あの日のミチルは酷く単純な、誰でも思い付くような土管の中に居た。 後から隠れに来た僕と、たまたま(隠れんぼに「たまたま」は変な表現だけれど鉢合わせた。
「……何してんだ?」
隠れているに決まっているのに、僕は訊いた。 訊かずに居られなかったのは、其処がミチルにしては場違いな隠れ場所だったのと、
「……何で泣いてんだよ?」
ミチルが膝を押さえて何かを堪えていたからだ。
「うわ、血、出てんじゃん!」

身を低くして近寄ろうとした瞬間。
「駄目っ!」
ミチルが静止して、慌てて止まる。
一面にガラス片。
割れたビール瓶と、下品な雑誌の切れ端。
「危ねっ」
膝を切る寸前、僕は息を飲んだ。

「……近所の兄ちゃん達だな」
外では隠れんぼの鬼が、僕等を捜し始めていた。
「ミチル、一旦外に出よう」
僕はミチルの手を握り、破片を避けるようにして外へ出ようとした。
まだ血が流れているし、家に帰って消毒した方が良い。
しかしミチルは逆方向へ、僕の手を引いた。

「……駄目、嫌だ」

其れは小さく、だけれど強い口調だった。

「何で?」
「鬼に見付かるから」
「……馬鹿じゃないのか、お前」

ミチルは手の力を弛めようとはしなかった。
何を其処まで、鬼に見付かるまいとするのか解らないが。
僕にせよ、別にミチルを無理に引きずり出すほどの義理は無いのだし。
「じゃ、勝手にしろよ……」
普段のミチルの隠れ場所ならば、いざ知らず。
此処は見付かりにくい場所でも無いのだから。
黙っていても、いずれ見付かる。

ミチルは膝を曲げると、其のまま両手で膝を抱えた。
小さな土管の中で背中を丸めて、小さな穴から外の様子を眺めていた。
膝から血は流れていたけれど、そんな事よりも、自分が鬼から見付からないか、 其れだけがミチルにとっての、関心事の全てのようだった。

「痛くないのかよ」
「別に……」
「ふん」

別にミチルを放って、此処から出ても良い。
だけれど、わざわざ自分から出て行く理由も無かった。
僕はミチルじゃ無いから、此処より素敵な隠れ場所は知らない。
僕はズボンのポケットに手を入れて、丸まった汚い布切れを取り出した。

「……巻いとけよ、これ」
「何それ?」
「……ハンカチだよ、うるせぇなぁ」

母親にハンカチを持たされている事が恥かしい事だって、 年頃の男子なら皆知ってる。 だからハンカチなんてのは、人前で取り出すようなモンじゃない。 よほどの場面じゃない限り。ミチルが手を伸ばした。

「……ありがと」

汚いハンカチを受け取ると、其れをミチルは器用に巻いた。
「何も無いよりはマシだろ」
「うん、少しマシね」
どうせ、すぐ鬼に見付かる。 だって此処はそういう場所だから。大した事のない場所なんだ。 小さな穴から外を覗けば、鬼が何処を捜しているのか、手に取るように解る。 ミチルの膝に巻いたハンカチが、ミチルの血を止める前に、簡単に見付かるだろう。 隠れんぼがずっと終わらないなんて、世界はそんな風には出来ていないんだ。

「……あ」
不意に、ミチルが小さく声を出した。
「どした?誰か見付かったか?」
「ううん、違う」
「何だよ。言えよ。膝、痛いのか?」
「ううん、違う」

瞬間、僕も気付いた。
土管の低い天井から、響くような音。
慌てて来た道を振り返ったけれど、外の様子は見えない。
そして、ミチルが言った。


「雨」


轟音。
土管の外を、突然の雨が襲っていた。
小さな穴をミチルが占領していて見えなかったけれど、僕にも解った。
土管の外で、雨が降っている。大量の雨。雨。雨。
だから僕等は、何処へも動けなくなった。
一体、誰が僕等を見付ける?

公園から、子供達は消えた。
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[ 2008/11/18 07:35 ] 小説 | TB(-) | CM(-)
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