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レンカ song : 2

宛名の無い手紙との交流は続いた。

交流とは言ったモノの

一方的に字を届け、一方的に歌を歌う

たった其れだけの関係ではあったけれど。



あの日曜日から

僕の歌には以前とは少し違う響きが加わった。

気が付くと僕からは窓際で煙草を吸う癖が抜け

誰ともわからぬ誰かに向けて、只、歌を歌った。

戦争で離れ離れになった恋人の写真は

部屋の隅で薄く埃を被っていた。



特に娯楽も無い此の町は

僕の歌う歌がよく響いた。

歌は届いているのだろう。

誰かに。



手紙が届いた。





「アナタの声の響きはとても優しい。

 なのにアナタの歌はとても悲しい。

 アナタが隠した部分。

 ワタシが隠した部分。

 ソレはとても似ているのかもしれません。」





隠した部分。

僕は何も隠してる気などなかった。

毎夜、歌っているだけなのだから。

何か隠しているとは思えなかった。

其れどころか僕は未だに手紙の主の

名前も年齢も性別も知らないのだから。



問いたい気分になった。

だけど其れを問うのは

とても愚かな行為のような気がした。



其の日は雪が、降らなかった。





icon-renka.jpg
song : 2





数日前に僕が書き上げた歌は

無くしてしまった愛の歌だった。



戦争は或る日突然に

僕と恋人を離れ離れにした。

僕は此の家を出る事を許されなかったし

恋人は場所を告げず突然に此の町を離れた。



僕は此の暖かく狭い部屋で

戦争が終わるまで歌を歌い続けた。

此の暖かく狭い部屋からは

手を伸ばしても何処にも届かなかった。



声を伸ばした。



窓際に座り

何時しか歌を歌い始めた。

何時か届く気がしたから。



歌を歌った。



やがて戦争が終わり

ようやく届いた噂は

恋人が何処かの町で

他の男と結婚した事実だった。




僕は歌を歌った。


此処で歌を歌った。


誰にも届かぬ歌を。


今日も。


明日も。





手紙が届いた。





「ワタシもアナタに音を伝えたい。」





たった1行。

その後に何桁かの数字の羅列。



電話番号だった。

名前も年齢も性別も知らぬ

手紙の主の電話番号だった。



僕の指は自然と

足元に転がる電話を拾い上げ

其の番号を静かに押していた。





雪が静かに降り始めた。





音。


音。


一粒。


一粒。




雑音。




受話器からは雑音しか聴こえなかった。

未だに回線の復旧は完全ではなかった。

一度電話を切り、すぐにかけ直す。





雪が薄く窓枠に積もった。





電話が繋がる音がした。

僕は思わず声を出した。


「……もしもし?」



返事は無かった。

僕はもう一度問い掛ける。



「……もしもし?」



やはり返事は無かった。

代わりに受話器の向こうから

何か不思議な音が聴こえてきた。




其れは


声のような


曲のような


低くて高い


弱くて強い


不思議な音だった。




僕は受話器を耳に強く当て

小さく響く音に聴き入った。



音。


音。


音。


音。


音。


音。


音。


音。





目を閉じ、聴き入った。





突然、雑音。





「……もしもし?」




電話は切れた。

何度かけ直しても

もう繋がらなかった。




雪が降っていた。

僕は窓から手を伸ばした。

相変わらず降り落ちる雪は

僕の手の平の上で溶けては

最後には何も残らなかったけど。






音が、届いた。






其の晩、僕は音を想い返し、歌った。

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[ 2008/12/03 10:03 ] 長編:レンカ | TB(-) | CM(-)
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