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レンカ song : 6

伸ばしても届く手なんか

持ち合わせていなかった。

君に優しくできるような

一人前の立派な手なんか

持ち合わせていなかった。



其れでも手を伸ばした。



とても触れたかったから。








icon-renka.jpg
song : 6








少女が帰り際に

郵便受けに入れた手紙。

機械的な文字。

人間的な文章。

見慣れた手紙。

考えるまでも無かった。

手紙の主は少女だった。



手紙には数行の文章が書いてあった。



「アナタの歌が、ワタシを埋めていく。

 今まで感じた事なかった程の強さで

 ワタシはアナタに接近していきます。」




其れから、数粒の、花の種。




「ずっと花を育てています。

 ワタシは花を見てみたい。

 何時か綺麗に咲くかしら。」




不思議な感覚だった。

僕は先刻初めて見たばかりの

大人びた顔の少女を何度も思い返した。



其れから今までの手紙を何度も読み返した。



不思議な感覚だった。

僕は先刻初めて見たばかりの

大人びた少女の傍に居たいと思った。



昨日まで機械で書かれた文字を読んで

今初めて肉体を遠くから眺めただけだ。

なのに僕は少女の傍に居たいと思った。



馬鹿げてる。無茶苦茶だ。

順序も何も。無茶苦茶だ。






僕は花の種を眺めた。






もし種を蒔いても花が咲かなかったら?

もし咲いた花を他の誰かに奪われたら?

何時か恋人が、遠い町で知らぬ誰かと結ばれたように?




僕は花の種を眺めた。


其れから目を閉じた。


少女の顔が浮かんだ。


左腕の無い、大人びた顔の少女。


僕は少女の腕を掴む事が出来なかった。


此処から出て追いかける事もできなかった。


此の町じゃ種を蒔いても花は咲かないんだ。


花の種を握りながら、眠った。






次の日。

僕は歌を歌う為に

何時もの窓を開けた。






其処に少女が居た。






驚いた。

窓を開けた手が止まった。

少女も動かなかった。

お互い動かなかった。

少女は昨日と同じ黒いシーツを羽織って

まるで昨日と同じ場所に一人立っていた。

肩口には、少し雪が積もっていた。




「こ……こんばんは。」




僕は声をかけた。

心臓が大きな音を立てた。

少女がゆっくり頭を下げた。



「手紙と歌で、色々知ってるのに

 こうして話すのは初めてですね。」



少女は少し笑った。

そして大きく頷いた。

何故か僕は嬉しくなった。



「何だか緊張するな……」



僕が言うと少女も頷いた。

少女の頬が紅潮していた。

きっと僕もそうなんだろう。



「花の種、どうもありがとう。」



少女は口元で笑い、頷いた。



「昨日色々考えたんだ。

 やっぱり怖いからね。 

 咲かない花は怖いと思う。
 
 だけどね。

 だけど僕も君と一緒に、花、咲かせてみたい。

 君と咲かせたいって、そう思ったんだ。

 ……良いかなぁ。」



我ながら要点を飛ばしすぎた台詞だった。

とても一方的な結論を伝えただけだった。

だけど少女は、笑いながら大きく頷いた。

だから僕は、少女の為に歌を歌い始めた。

少女は嬉しそうに、僕の歌を聴いていた。

こうして僕と少女は、同じ種を育てる事になった。






其れから少女は毎日

僕の部屋の窓の前に来るようになった。

僕は2階の窓際から少女に向けて歌を歌った。

どんな日も少女は僕の歌を聴きに此処に来た。

少しずつ、花の種に水や太陽を与えるように。



少女との会話は今も手紙だけだった。

窓際から声をかけても

少女は頷くばかりで

会話はできなかった。

手紙が少女からの言葉だった。

僕は訊いた。





「もしかして、声。」





少女は大人びた顔をしていて

黒いシーツがとてもよく似合った。

何時でも少し笑いながら頷くんだ。







少女は、戦争で声も失っていた。






触れたかった。

例えば抱きしめたかった。

だけれど僕は此処から出られなかった。




だから、手紙で会話をする。




「向日葵が好き。

 理由はよくわからないの。

 だけどきっと昔から好き。

 どうして向日葵なのかはわからないの。

 だけどきっと昔から好き。」




窓の前に立つ少女を見ながら

僕は少女のくれた手紙を読み

そして少女と会話をする。




「へぇ……何故だろうね。

 だけど向日葵って花はさ

 他の花よりもずっとワガママだと思うな。」



そう話しかける僕を見て

少女は不思議そうな顔をした。

目を大きくして首を傾げている。



「だってどんな花だってね

 太陽を沢山与えなきゃ育たないでしょう。

 なのに向日葵は他の花より太陽を欲しがるんだ。

 誰よりも太陽を欲しがってどんどん伸びるんだ。

 沢山沢山、太陽をあげないと育たないだなんて

 過保護で、とてもワガママな花だと思うよ。」




僕は笑った。

少女も笑った。



「だけどもしも向日葵が咲いたら

 良かったら僕の名前を付けてよ。

 だって、君が好きな花なんだろ。」



僕は冗談ぽく言った。

すると少女は何故か驚いた顔をした。




「……ん?何?」




少女はゆっくり僕を指差した。


何も言わずゆっくり指差した。


何かとても大切な風景を


思い出したような顔だった。


そして嬉しそうに大きく頷いた。





「向日葵が咲いたら、僕の名前を付けてよ。」





僕も笑った。





そうして僕達の時間が積み重なった。


種に少しずつ水と太陽を与える毎日。




2階の窓。


無い左腕。


伸ばしても届く手なんか


持ち合わせていなかった。




2階の窓。


無い左腕。


君に優しくできるような


一人前の立派な手なんか


持ち合わせていなかった。




其れでも手を伸ばした。




とても触れたかったから。






そうして積み重ねた


種に水と太陽を与えるような


僕達なりに懸命な日々の上で。

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[ 2008/12/08 14:17 ] 長編:レンカ | TB(-) | CM(-)
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