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札幌を笑わせる男

271.jpg

その小さい男と出逢ったのは、もう何年前になるだろう?
その小さい男と別れた日の事は、よく覚えている。
気が付けば、もう三年以上前の話だ。

春の日。
あの朝は、季節はずれの雪が降っていた。
小さい男は「笑いに携わる構成作家になりたい」と言った。

僕は、あの小さい男を手放すのが、すごく嫌だったな。
もしも自分に弟がいたならば、あの小さい男とのように接したに違いない。
あれから三年経って、小さい男は一人、今も東京で頑張っている。
生意気にも、夢だった構成作家として。

--------
■邂逅

さて、本日の雑記は少し長くなるのである。
もしも僕の雑記を細かく読んでくださっている人がいるならば、ピンと来ただろう。
上の「小さい男」というのは、構成作家「佐久間トーボ」の事だ。

知らない人は、そのままで構わない。知ったからといって別に得する情報でもない。
只、僕がお笑い関連のコラムを書く時には、大体名前が出てくる。
(その大半は、僕からの、彼に対する罵倒と苦情である。)
まぁ、それだけの話である。

しかも本日の主役は、彼では無い。
本日の雑記の主役は、彼よりも若い、一人の大きい男である。
僕が、その大きい男と出逢ったのは、一年前だろうか。
いや、多分まだ一年も経っていない。

大きい男は、その年の春に高校を卒業したばかりだった。
ラグビー部出身の身体は丸みを帯びながらもゴツゴツしており、
そのシルエットは機動戦士ガンダムに出てくる『ドム』に酷似していた。





dom.jpg
【MS-09 ドム】





ドム(大きい男)は、僕に言った。
「俺、将来、お笑い芸人になりたいんです」
僕は鼻で笑った。
それは若者特有の、夢語りらしい、夢語りだったからだ。

相方は高校時代の同級生らしく、
舞台に立った経験はあるのかと訪ねたら、
高校時代に学校祭で……というような答が返ってきた。

一応、週に一回、お笑いの学校のようなものに通っていると言われたが、
どうにも真剣に芸人になりたいと思っているとは感じなかった。
週に一回、その学校に通えば必ず芸人になれる、という訳ではなかろうに。

僕には、すぐ傍で「佐久間トーボ」を見てきたという自負があった。
本当に笑いの道に進む人間の覚悟、というのを肌で感じてきた。

だから鼻で笑ったのだ。
お前らの覚悟など、まるで夢物語だと。

ネタは書いてるのかと訪ねたら、どうにも歯切れが悪い。
それで僕は、まず『その場で即興のコントを作る』という遊びを仕掛けた。
大きい男に好きなお題を出して貰い、僕がその場で即興のネタを考える。
ネタといっても、おおまかなスケッチのようなものだ。
それを考えたら、その場で口頭で発表する。
発表したら、次は交代する。

一応、曲がりなりにも僕は文章書きなので、この手の遊びは全く苦ではない。
驚いたのは、大きい男も、それなりのネタを考えた事だった。
それで僕は、この大きい男に興味を持った。
彼の名前は「太一」だった。


名前も大きかった。

--------
■修行

最初の内は、即興で大喜利を仕掛けてみたり、
ネタ本を考える遊びをしたり、僕が台本を書いてみたりもした。
割と淡々と、時間は過ぎていった。

去年の秋口くらいから、太一と相方は、本格的に行動するようになった。
自分達でネタを書いて、練習して、M1の予選にも挑戦してみると言う。
コンビ名がまだ無いというので、何気なく「考えてやろうか?」と言った。
僕は、こういう場面では、別に自分の事じゃなくても関わりたくなるのだ。

太一は至って普通の感じで、いわゆる「あ、マジすか」くらいの感じで返事をした。
「別に考えてくれてもイイスけど」くらいの、軽く上から目線の感じだった。
まぁ、太一という男には、稀にこういうところがあるのだ。

僕はモノの名前を考えるのが好きなので、頭をひねった。
太一のコロコロとした感じをコンビ名に活かせると良いだろう。
可愛らしくてインパクトのある、それでいて覚えやすい言葉の響き。
こちとら言葉のプロである。(金もらってねーけど)
僕は太一に言った。

「ジーパン好き?」

「……まぁ、普通に好きッスけど」

「ジーパンに使われる染料は、インディゴ・ブルーってんだよ」

「……はぁ」

「野菜、好きか?」

「……いや、んー、嫌いじゃないッスけど」

「まぁ、普通に好きだよな」

「……はぁ」

「んじゃ、コンビ名は【インディゴ・ブロッコリー】で」

「は?」

只、この段階で、まだ僕は彼等のネタを、ちゃんと見た事が無かった。
それで「一度、目の前でネタを見せてくれ」と言った。
ネタ見せてくれたら名前を使っても良いよ、と。
まぁ、非常に偉そうな言い分ではある。

とは言え、中々ネタを見せてもらう時間がなく、
彼等としても、無理にネタを見せてまで付けたいコンビ名でも無く、
それで彼等は、件のM1予選には、まるで違うコンビ名で挑戦する事となった。
(それは今考えると、ちょっと恥ずかしいコンビ名だった)

--------
■始動

冬が始まる頃だったか。
太一が「ネタを見て欲しい」と言ってきた。
それで僕は、初めて彼の相方と会い、しっかりした彼等のネタを見た。
それは五分程度の漫才だった。

広い、音を消した静かなカラオケ屋の一室で、
大きなソファに座り、腕組みをして、僕は彼等の漫才を見た。
端から見ると「素人のくせに何様なのか」と言われてもおかしくはない。
しかし僕は、僕なりに真剣に、彼等の漫才を見た。

見終わった後、僕が最初に言った台詞は何だったか。
とりあえず僕は、僕の予想が大きくはずれていた事を知った。
この時点で、僕は彼等の力量を舐めていた。
だから、僕は言った。

「東京に行けば?」

彼等は、僕の発言に、驚きながらも、喜んでいた。
しかし彼等は、すぐに東京に行くような無謀な真似はせず、
札幌で力を付けるべく、札幌吉本のオーディション・イベントへの挑戦を始めた。

最初は素人(見習い)から始まり、
勝ち抜くたびに白帯、黒帯とステージが上がり、
黒帯のステージで優勝すると吉本所属のプロ芸人になれる。
そういうイベントだった。

それは奇しくも、数年前――。
僕と上京前の佐久間トーボが一度だけ挑戦し、無残に散ったイベントだった。

結論から言おう。
インディゴ・ブロッコリーは今年の春、
僅か数ヶ月で黒帯ステージでの優勝を果たし、プロの芸人になった。

まぁ、まだまだ素人に毛が生えたようなモンだろうが、
いまや札幌吉本のサイトにも、wikipediaにも名を連ねる、プロの芸人だ。
ある日、プロの芸人になった太一に向けて、僕は言った。


「何時かは、佐久間トーボと仕事をする日が来るかもな」


不可能な夢じゃない。
佐久間トーボが構成した舞台で、インディゴ・ブロッコリーが漫才を見せる。
まるで不可能な夢じゃないのだ。
太一は、相変わらずの態度で「あ、そうすね」と言った。
僕は小さく、笑った。

--------
■現在

先日、太一が「9/13にイベントやるんですけど」と、
何か一応それなりな感じで僕を誘った。
チラシを見る。

オレンジ色の綺麗な二色刷り。
文字が目に飛び込む。
……ん?

「ゲスト:ダイノジ
 ゲスト:インディゴブロッコリー」

思わず太一に訪ねる。
「……ダイノジさんと仕事すんの?」
太一は呑気な声で答える。
「そうですけど?」
僕は静かに興奮した。

東京に行った僕の後輩――。
佐久間トーボは、ダイノジさんトコで構成作家やってんだよ!
お前らがダイノジさんと仕事するって事は、もしかすると佐久間トーボも……
僕は携帯電話を手に取ると、すばやくメールを打った。
すぐに返事。佐久間トーボ。

「ああ、時間あれば、その日に合わせて帰ろうかと思ってたんですよ。
 多分、また構成やるかもしれないんで」

……の、呑気!
何だ、俺の周りの後輩、呑気者だらけか!
もっとこの件に関して興奮しても、もっと食い付いてきても良くないか!


――その瞬間、きっと僕は笑っていたんだ。








indigomini.jpg








佐久間トーボが構成した舞台で、
インディゴ・ブロッコリーの漫才を見る。
僕にとっては、これほど贅沢な事は、そう無いよ。

札幌を、笑わせる男。

9月13日を忘れずにいよう。
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[ 2009/07/24 11:38 ] 雑記 | TB(-) | CM(-)
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