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ハウ・メニ・ピポ・クライ?

275.jpg

昨日は最悪だった。
何が最悪だったのかも思い出せない。
多分、思い出したくないのだろうが、それすら思い出せない。

それで僕は酒を飲んで寝た。この家の、この部屋で。
飲酒運転に厳しい世の中では、酒を飲んで帰る事さえ難しい。
コンビニ缶ビール。徒歩五分。小雨。傘は差さない。それは面倒だから。
缶ビールに缶詰。感情は内側に秘めて。吐き出す事はしない。

嗚呼、眠りは深く、短い。
水中から月光が見える距離で、浅はかな呼吸を試みている。
吸って、吸って、吐く。吸って、吸って、吐く。
何も捨てない。只、掃き散らかす。
記憶は塵のように――。


「起きた?」


メリルの声が聞こえて、僕は目を覚ました。
枕に顔をうずめたまま頷くと、その後頭部にメリルの声が被さった。
「起きた?」
寝ている人間に寝たか起きたか質問する行為は、嫌がらせだと思う。

「……寝てる」
「起きてるじゃん」
「寝てたけど、起こされた」
「へぇ、誰に?」

メリルの声が遠ざかり、代わりにガスコンロに火を点す音。換気扇の音。
肌で感じる緩やかな熱気は、恐らく炊飯器の湯気だろう。
その上をタマゴ焼きの匂いが漂っている。

朝飯の匂い。
朝飯の時間だから、僕は起きた。
何か最悪な夢を見たような気がするが、もう覚えていない。

短い欠伸。髪を掻き毟る。
落下するようにベッドから降りて、首を鳴らす。
メリルの後姿が見えて、彼女の鳴らす規則正しい包丁音が聞こえる。

「ほら、早く着替えてね」

朝のニュース。
人殺しの記事と、人救いの記事。静かなニュース。
例えば菜箸は相応に長く、フライパンは相応に重く、ならば僕等の命は。
白く丸い平皿は清潔で、この料理を美味そうに見せている。
ふんわりと焼き上がったタマゴ焼きを、その皿に乗せてみせよう。

「お腹すいた?」
「ん」
「も少し待って」

点いては消える火だよ。そして流れる水だ。
水滴の、その音を追うように。たゆたい。たゆたう。やがて歌。声。
繰り返される逆接・対比・重複表現。欲しいのは真実だよ、メリル。
議論と共有。本音。そういうものを求めている。

ソイツに触れるのは何時だって難しいけれど。
ソイツに触れる瞬間、僕等は何時だって無敵なんだ。

テレビの中じゃ死者の数がカウントされているけれど、本当は何も知らない。
今日は誰が笑うだろう?
今日は誰が泣くだろう?
何をするべきなのか解らなくて考えてみるけれど、何時か答に辿り着くだろうか。

もしかしたら何も解決されないままなのかもしれないが、それも良いだろう。
自分自身を天秤に架けさえしなければ、怖れる未来など少ない。
幸と不幸を嘆くなど、何の意味も無い。
How many people cry?

「いただきます」
「ん」
「ほら、ちゃんと」

一緒の食事が楽しみだから、明日が来るのが楽しみなんだよ。
毎日、毎日、そうなんだよ。
朝だよ。誰にも平等な朝だ。よく眠り、腹を空かせて起きる。
小さなタマゴ焼きを、一口。

「ん、美味い」

世界は相変わらず。
相変わらずなモノだから、守りたくもあるよ。
メリル、当たり前の出来事に、支えられ、忘れられ、愛されている。

「はいはい」

Somebody will cry.
Somebody will laugh.
Life is rough.
My life is life for somebody.

「ほら、今日も頑張って」

そんな風にしてシンプルに、僕等の世界はツクられている。
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[ 2009/08/24 09:28 ] 小説 | TB(-) | CM(-)
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