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光の靄≒The Transparent Haze -後編-

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自分が何処に向かって進んでいるのか、解らなくなる時。

そういう時が、誰にも少なからず在るはずで、
そういう時に、僕達に必要なのは、光だ。
闇の奥、唯一点、跳ねる光だ。

『蜜の靄≒The Orange Haze』は、何時かの僕にとっての光だった。
前も後も右も左も解らなくなった闇の奥で、手を伸ばし続けた、跳ねる光だった。

今でも、自分が何処に向かって進んでいるのか、解らなくなった時、
僕は少し立ち止まり、あの場所から生まれた何個かの作品や、
あの場所と作品が繋げてくれた、縁に救われている。
縁は、円を描いて、また現在に戻る――。


「飛べたじゃん。」


彼女との数年振りの再会は、空港だった。
空港という場所に彼女と一緒にいるのも、初めてだった。
要するに。
僕は彼女が札幌に来た時も、札幌を去った時も、見送りさえしなかった。

見知らぬ土地の空港で、僕達は再会した。
再会は半分偶然で、直前までそんな予定は無かった。当然だ。
そもそも彼女が札幌を去ってから数年間、連絡さえ取る事は無かった。
彼女にとって、この数年間は、
僕の顔を見る事どころか、僕の名を思い出す事さえ苦痛だったはずだ。

転機は、再会の半年前。
僕は彼女に一通の、少し長めのメールを送った。
彼女が当時、大切に更新していたサイトを閉じるという噂を知ったからだ。
それは札幌に住んでいた頃の、彼女の写真と日記のサイトだった。
それを閉じるというのが、どんな気持ちなのか、僕には何となくだけれど解った。

大切なサイトを閉じるからといって、
気軽にメールを送って良いような関係では無かった。
そもそも迷惑かもしれないと思った。
実際に迷惑だろう。

だけれど、僕は何かを伝えずには居られなかった。
だから迷った末、それを送った。

返信は忘れた頃に――半年後に届いた。
あれから彼女は新しい町にも馴れ、恋人もいるようだった。
互いが辿り着いた現在を想い、それを僕は純粋に「喜ばしいことだ」と思った。

メールは一通だけの予定だった。
季節は夏の始まりで、僕は東京旅行の準備を進めていた。
僕の現在は表向きには順調で、何かを変化させる必要など無かった。

只、この時期、僕自身は迷いの中に居た。
何時だって僕は、何かしらに迷い続けてきた気がするが、
この時期は自分が作品を生む意味と、その進むべき方向に関して、迷っていた。

少なくともある時期において、僕の作品を一番理解していたのは彼女だ。
僕が何を想い、何を憂い、何を嘆き、何を求めていたのか。
それを近くで、無償で見守っていたのは彼女だ。
それは間違いようの無い事実だった。

東京旅行を前にして、僕自身が何処に向かっているのかを、僕は見失っていた。
今の僕の作品を、彼女はどう読むのだろう。
僕には解らなかった。

最初は一通だけの予定だったが、ほんの何通かの返信を重ねた。
現在の自分達の、互いの居場所を報告し、再確認するような内容だった。
彼女が一途な女性だということを、僕は痛いほど知っていたから、
それ以上、僕達がお互いの心に踏み込むことは無かった。

東京旅行の直前。
僕達は互いの携帯のアドレスを教えた。
だからといって「東京で会おう」とは、どちらも言わなかった。

東京旅行の最終日。
朝、空港に向かうモノレールに乗る寸前だった。
僕は彼女に一通のメールを送った。

「今から帰ります。」

冗談めかして一言。

「空港まで見送りに来てくれるんだろ?」

すぐに付け足した。

「ま、冗談だけど。」

本当に冗談だったのか、本当は本気だったのか、よく解らない。
只、それは僕と彼女の関係において、普通に行われる類の会話だった。
数分後、彼女から、短い返信。

「何だ、冗談か。」

――数時間後、僕達は空港で再会した。
再会は半分偶然で、直前までそんな予定は無かった。当然だ。
そもそも彼女が札幌を去ってから数年間、連絡さえ取る事はなかった。
彼女にとっては、僕の顔を見る事どころか、僕の名を思い出す事さえ苦痛だったろう。
だけれど、再会した。

空港内の、小さなコーヒー・ショップで、僕達は短い会話を交わした。
僕は大きな鞄から、一冊のスケッチブックを取り出した。
前日『M線上のアリア』の執筆陣と会った記念にと、皆に色々自由に書いてもらった。
その少しだけ大きめのスケッチブックを開きながら、僕は言った。

「何か書いてよ。」

少し困った顔をして、彼女は言った。
「何か?」
「そ、何か。」
困ると眉間にシワをよせる癖は、昔と変わらなかった。

彼女は最初、このスケッチブックに書くのは他の人達に失礼だからと、
僕の頼みを断ったが、最終的には「最後のページなら」と引き受けた。

彼女はスケッチブックの最後のページを開き、
遠慮気味に、小さく書いた。
たった一言。



「飛べたじゃん。」



太陽から始まり、冥王星で終わる。
地球で生まれて、宇宙の果てに想いを馳せている。
あの頃、僕は火星が好きで、火星に憧れていた。それで、こんな風に考えた。
「僕は火星に飛ぶのだ。」
それは僕が想い描いていた中で最善の選択だったが、彼女にとっては最悪の選択だった。
残された彼女にかけた言葉は、思い付く限りで、もっとも最低な台詞だった。
文句ヒトツ言わずに、彼女は札幌を去った――。

東京で、僕達は再会した。
宇宙ロケットでは無く、普通の飛行機に乗って。
あの頃、僕は最後に、木星に行きたかった。安心の星だと思ったから。
あの頃、どうしても「絶対的な安心」が欲しかった僕は、それを自分の名前にした。
orange。安心を表す色。言葉。

僕自身が、そういう人間になりたいとも、願った。
実際には沢山の人を傷付けたり、思い通りにいかずに失望させたりした。
絶対的な安心なんかとは程遠い人間だよ、僕は。だけれど今だって、ずっと願っている。
僕達が笑えたら、僕達の世界は救われるのだ。

2009年12月12日、僕達は結婚した。
誰かの世界が本当に救われたかどうかは、まだ解らない。
只、願わずにいられないだろう。僕達や、僕達の知らない誰かの世界が、
「救われることを?」
そうだよ、救われることを。救うことを。救いあうこともね。

結婚に向けて、決めていたことがあった。
笑われるかもしれないけれど、僕にとって結婚というのは、
「次は、土星に行きたいの?」
そうだよ、土星に行くってことさ。木星の次は、土星だろう?

大きな指輪をヒトツ、君にやるよ。
世界中、地球にいる誰一人、持っていない指輪だ。
それは土星にあるのだけれど、一緒に土星まで取りに行かなくちゃな。

土星には「タイタン」という名の衛星がある。
地球と良く似た衛星でね、僕は昔から、生物も住めると睨んでいるのさ。
それは英語でTitanと書くから「チタン」と読むことも出来る。チタンは僕にとって、
「汚れても、尚、純粋」
へぇ、よく知ってるな。そう、そういう意味を込めている。
まぁ、個人的にだけれど。

僕達は小さな指輪を二輪、手に入れた。
そのチタン製の指輪に、ほんの短い英文を彫った。
"We arrived at Saturn."
土星の環。それは僕達が手に入れた、小さな光だ。

自分が何処に向かって進んでいるのか、解らなくなる時。

そういう時が、誰にも少なからず在るはずで、
そういう時に、僕達に必要なのは、光だ。
闇の奥、唯一点、跳ねる光だ。

そうだ、最後に面白い話。
僕達が結婚した数日後に、こんなニュースが流れた。
それはクリスマス・イブに人知れず流れた、ほんの小さなニュースだった。

--------
『土星の衛星タイタンで初めて霧を確認』

土星の衛星タイタンの南極付近で、霧が湖面を漂う様子が確認された。
地球上の霧は通常、湿った大気が急激に冷やされて発生する。
温度低下により大気が保持できる水蒸気量が減少するためだ。

「だが、タイタンではこの関係が成り立たない」。
そう語るのは、カリフォルニア工科大学の天文学者で
研究チームのリーダーを務めるマイク・ブラウン氏だ。
「タイタンの大気は元々非常に低温であり、冷却されることはほとんどない。
霧の発生の原因は、大気と地表の液体の相互作用としか考えられない」――。
--------

嗚呼、光の靄が見えるな。
それは透明な靄だ。
光の在る場所には、時々そんな悪戯が起こる。

光の靄≒The Transparent Haze。
ほら、どんな瞬間にも、光を諦めないでくれ。
消えかけた火でさえ、やがて君の手の中で、大きな光となるだろう。

本当に飛びたい奴は、空が無くても飛ぶだろう。
飛び方を知らなくたって、羽を動かし、羽ばたくだろう。

『蜜の靄≒The Orange Haze』は、何時かの僕にとっての光だった。
前も後も右も左も解らなくなった闇の奥で、手を伸ばし続けた、跳ねる光だった。

今でも、自分が何処に向かって進んでいるのか、解らなくなった時、
僕は少し立ち止まり、あの場所から生まれた何個かの作品や、
あの場所と作品が繋げてくれた、縁に救われている。
縁は、円を描いて、また現在に戻る――。


「飛べたじゃん。」


僕達は、羽が無くても、飛べるんだぜ。
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[ 2010/01/12 08:52 ] 雑記 | TB(-) | CM(-)
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