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JET #1

雪は会えなくなった恋人との再会に似てる。

窓の外に降り積むソレに手を伸ばしても、届く事は無く、
只、一粒一粒は溶け逝きながらも、薄い絨毯を残して往く。
溶けずに地面に根付いた、最初の一粒を見てみたい。
ソレはきっと、会えなくなった恋人の欠片だから。



299.jpg

#1 『記憶・冬(Competition on the stairs.)』



雪道の上を、真っ赤なバスが走る。

真っ赤なバスはボクラの目の前を通り過ぎた。
その後を追うように、何台かの車が通り過ぎて往き、
おおよそ雪道には似合わない、小さなクーパーも走り抜けた。

「あんなので雪道を走っても大丈夫なのかね」

独り言のようなボクの台詞は空気中に発散され、
冷たい空気はボクの台詞を凝固するように、それを白い息に変えた。
白い息は空気中を数秒だけ自由に舞った後で、溶けるように散り消えた。

「今の見た、タダオ!?」

「何が?」

「今の車のナンバー見た、タダオ!?」

ミサエは走り抜けたばかりの小さなクーパーを指差しながら、
幼さの残る声で、興奮気味にボクに話しかけた。
白い息が大量に発散されて居る。

「見てない」

「7777だった!7777だって!」

「へぇ、そりゃスゴイな、良いモン見たね」

ボクの薄い反応に不服だったようで、ミサエは頬を膨らませた。
指差したまま「縁起良いのに」と言って、僕を睨んだ。
確かに7777を見付ける事は、縁起が良い。

ボクラは数日後に高校入試を控えて居た。
ボクとミサエは同じ高校を受験する事になって居たが、
学力的に考えると、ボクとミサエの合格は安泰のように思えた。
それでも7777を見付ける事は、縁起が良い。

「受験前に7777を見付けるなんて、縁起良いな」

「もう遅いです」

ミサエは頬を膨らましながら、歩き始めた。
ミサエが膨れるのは何時もの事だし、特に気にする事でも無い。

ボクとミサエは家が隣同士だから、帰り道は何時も一緒だ。
誤解されたくないが、途中までの道はお互いに、別々の友達と帰る。
別々の友達と帰っては居るのだが、別々の友達は、別々の道へ分かれ、
そうして最終的に、ボクとミサエは、合流してしまうのだ。

「そういえば、タダオ、今日どうだった?」

「何が?」

「誰かにチョコ貰った?」

世間一般的に言えば、今日はバレンタイン・デーであり、
それは「女の子が意中の男の子に告白できる素敵な日」という、
おおよそ大半の男達にとっては迷惑極まりない日という事になって居た。

正月明けに「おもち何個食べた?」と訊かれるのと同じくらい、
バレンタイン明けに「チョコ何個もらった?」と訊かれるのはウザイ。

ボクは「まぁ、それなりに」と、適当な事を言った。
実際には鞄の中は我ながら呆れるほど軽い。
教科書とノート数冊分の重みしか感じない。

鞄の中でシャープ・ペンシルだけが規則正しく揺れて居る。
消しゴムも一緒に揺れて居るかもしれないが、別にどちらでも良い。
ミサエは近所の伯母さんのように「何個貰った?」などと訊いてくる。

「チョコなんてのは好きな人から一個だけ貰えれば、それで良いんだよ」

「へぇ!そりゃまた一個も貰えなかった人の台詞みたいだね!」

痛いトコロを突いてくる女だ。
僕は少しだけ必死になって「貰ったよ、沢山!」と言った。
勿論、嘘だ。

どうしてそんな嘘を吐く必要があるのか解らないし、
証拠を見せてみろと言われたら、見せる証拠は一個も無い。
シャープ・ペンシルを見せるくらいしか無い。

「へぇ、何個くらい?」

「家に帰って、貰ったチョコでピラミッドを作ろうと思ってるくらい」

「うわ、センス悪っ!」

ミサエは露骨に嫌悪感が丸出しな顔をして「馬鹿じゃないの?」と言った。
確かに我ながら馬鹿な行為だとは思うが、怒られる筋合いは無い。
そもそもピラミッドを作る大量のチョコなど何処にも存在しない。

「理由はどうあれ、女の子に貰ったチョコで遊ぶのは止めなさいよ」

「作らないよ」

「アンタ、今、作るって言ったじゃん!」

「作らないよ」

「アンタ、チョコをあげた子の気持ちになって考えてみなさいよね!」

貰っても居ないチョコの事で怒られるのは、最低の気分だ。
だからと言って今更「一個も貰ってない」と告げるのも馬鹿らしい。
ボクはミサエの説教を聞き流しながら、表向きには反省した態度を示した。

数日後には高校受験を控えたボクラは、
実際はバレンタイン・デーに浮かれてる場合では無かったし、
そんな事はボクラ自身がよく解って居るつもりだったのだけれど、
誰が誰を好きで、誰が誰に告白して、誰と誰が付き合ったなんて話は、
中学三年生のボクラにとっては、大事件だった。

それでも、そう、数日後には高校受験を控えて、
半月後には中学校の卒業を控えてるボクラにとっては、
今、誰かを好きになる事が、重要な事では無い気もして居たんだ。

「お前こそ、渡したのかよ」

「何を?」

「バレンタイン・チョコ」

「誰に?」

「カタギリ君に」

ミサエは、同級生のカタギリ君という、
ちょっと頭の良さそうな苗字の男子に片想いをして居た。
その証拠に、ミサエは去年のクリスマスにも、
カタギリ君の為に、変な犬のキャラクターの置時計を買った。

そもそも付き合ってる訳でもないのにプレゼントを買ったところで、
普段接点の無いカタギリ君にプレゼントを渡す機会など訪れる訳もなく、
その置時計はミサエの部屋のベッドの枕元に飾られる事となった。

「あ、その顔は渡して無いな、お前」

「うるさいな」

「あ、さてはマジで渡して無いのかよ、お前」

ミサエは無言のまま歩き続けて、細くて長い階段を登り始めた。
それは神社の階段で、ボクラの帰り道の秘密の通路だった。

どうして秘密の通路なのかと言うと、実際は秘密でも何でもなく、
子供の頃に親から「危険だから」という理由で登る事を禁止された階段で、
それでも当時のボクラは、親に内緒で登って遊んでた、というだけの話だ。

確かに急勾配な、細くて長い階段は、子供には危険かもしれない。
その階段で、子供時代のボクとミサエは、内緒で遊んだ。
今では単なる通学路に成り下がってしまったが。

「てゆーか、お前、ボクにプレゼントは?」

ボクが声をかけると、ミサエは振り返った。
ほら見ろ、ミサエは声をかけられるのを待ってる。
一応、少し不貞腐れた表情をしながら「何の?」と答える。

「バレンタインの」

「何でタダオに」

ミサエが鼻で笑ったような顔を(恐らくは故意に)したので、
ボクはミサエの後頭部を平手で軽く叩いた。

「痛っ!ちょっ!何すんの!」

「生意気だったから」

「なっ……!」

ボクラは数日後に高校入試を控えて居た。
ボクとミサエは同じ高校を受験する事になって居たが、
学力的に考えると、ボクとミサエの合格は安泰のように思えた。
それでも7777を見付ける事は、縁起が良い。

「真っ赤な……何だっけ?」

「何それ」

「真っ赤なギターが欲しいとか言ってたでしょ」

「真っ赤なストラト」

ミサエは鼻で笑うように「無理」と言った。
ボクはミサエの後頭部を、平手で強めに叩いた。

雪道の上を、真っ赤なバスが走る。

真っ赤なバスはボクラの目の前を通り過ぎた。
その後を追うように、何台かの車が通り過ぎて往き、
おおよそ雪道には似合わない、小さなクーパーも走り抜けた。

「7を見付けたらさ、幸運なんだよ、タダオ」

突然、ミサエが口を開いた。
階段には薄く雪が積もっており、歩く度に音を立てる。
階段の一段あたりの面積は酷く小さく、それは少しだけ危険だ。
中学三年生になっても、それは変わらず危険なんだ。
足を踏み外せば、簡単に転んでしまう。

「7を見付けたら?」

「7を見付けたらさ、幸運なんだよ、タダオ」

独り言のようなミサエの台詞は空気中に発散され、
冷たい空気はミサエの台詞を凝固するように、それを白い息に変えた。
白い息は空気中を数秒だけ自由に舞った後で、溶けるように散り消えた。

「バレンタインってね、高校受験に似てると思わない?」

ミサエは階段を登りながら、ボクを振り返らずに言った。
ミサエの制服のスカートが歩く度に揺れて、
階段に積もる雪は音を立てた。

「どういう意味?」

「女の子はさ、試験を受けるんだよ」

「どういう意味?」

「合格か不合格かは、一ヵ月後にならなきゃ解らないの」

「好きな奴に告白するって意味?」

「いや、一ヵ月後になっても解らないのかもしれないなぁ」

ミサエの台詞は、ほとんど独り言に近かった。
ボクと会話してるようで、ミサエは自分に話してるようだった。

中学三年生のボクラにとって、
誰かを好きになる事は、あまり重要な事ではない気がした。

それよりも大切な目標が、今のボクラには与えられて居たし、
一ヵ月後には同級生達とも離れ離れになるだろう。
誰かを好きになる理由も解らなかった。

高校に合格して、新しい環境に馴れてきた頃に、
誰かを好きになって、手を繋いだりするかもしれなかったし、
映画や漫画の中で見たように、誰かと唇付けしたりするかもしれなかった。
だけれど、全てはまるで現実的じゃなかった。

目標は、親だとか、先生だとか、大人達から与えられて居たし、
少なくともボクはそれに何の不満も無かった。
よほど不満が溜まるような事さえも、作り笑いで切り抜けられた。
面倒くさい事は、少ない方が良かった。

「だからね、信じるしかないのだよ、タダオ」

「何を?」

「答が解らないかもしれない事を、自分なりに信じるのだよ」

そこまで言うとミサエは立ち止まって、ボクを見下ろした。
数段下から、ボクはミサエを見上げて、それから背後の空を見上げた。
細く長く続く階段の先端に、ミサエと空が見えて、それから太陽が見えた。
太陽は雪の上で、光を細かく反射させた。

嗚呼、真っ赤なストラトが欲しいなぁ。
きっとこの場所に、それはとても似合う気がする。

「タダオ、ジャンケンしよう!」

「ジャンケン?」

「はい!ジャ~ンケ~ン……」

おもむろにミサエは拳を振り上げると、大きな声を出した。
ボクは思わず慌てて手を出す。
グーだ。

「はい、アタシの勝ちね」

ミサエはパーの形をしたままの手を自分の口元に当てると、
「昔からジャンケン弱いもんね」とほくそ笑んだ。
ちょっと生意気な仕草に、腹が立った。

「いきなり始めるからだろ」

「はいはい、そうね、ごめんごめん」

ミサエは適当に謝りながら「パ・イ・ナ・ッ・プ・ル」と言った。
その発音に合わせて階段を登り始めた。
昔、よく見た光景だ。

「何?ジャンケン・グリコ?」

「そうだよ?」

「いきなり?」

「悪い?」

疑問符だらけの会話がボクの混乱を的確に表現して居るが、
ミサエはボクの混乱などまるでお構い無しに、再びジャンケンを続けた。

ミサエは昔からジャンケンが強い。
強運な女だ。

だからと言って数日後に受験を控えた中学三年生が、
おもむろに神社の階段でジャンケン・グリコを始める理由は解らない。

ミサエはジャンケンに勝ち続け、階段を登り続ける。
昔から感じて居た事ではあるが、ジャンケン・グリコには駆け引きがある。
それも子供心に「微妙な駆け引きだな」と感じるような、微妙な駆け引きだ。

グーはグリコで三歩。
パーはパイナップルで六歩。
チョキはチョコレートだから、同じく六歩。

どう考えても、グーで勝つのは得策では無い。
パーとチョキが同じ六歩なら、パーかチョキで勝つべきだ。
パーとチョキが同じ六歩というのも、微妙な駆け引きの原因になる。
仮にどちらかが十歩くらい進めるなら、皆、その手で勝とうとするだろう。

例えばパーが「パーマネント・バケーション」ならば、
一気に十二歩も進める計算になるが、残念ながらそうではない。
実際には、パーで勝つのと、チョキで勝つのは、まるで同じ効果なんだ。
どちらにせよグーで勝つのは勿体無い。

この駆け引きが、ミサエは上手かった。
ミサエはボクの心を読んでるように、何度でも勝ち進む。
ミサエとボクの距離はドンドン開いていき、やがて遊ぶ気が失せる。

せめてパーとチョキが同じ六歩というルールを無くして欲しい。
もっと先に進めるルールがあれば、もっと簡単にミサエに追い付けるのに。

ミサエは頂上まで残り一段になった。
あとはグーでもパーでもチョキでも何でも良い。
あと一回でもジャンケンに勝てば、ミサエはゴールだった。
そこでミサエが言った。

「ねぇ、タダオ、よく聞いて」

「何?」

「今からアタシは、パーしか出さないからね」

「は?」

「はい!ジャ~ンケ~ン……」

おもむろにミサエは拳を振り上げると、大きな声を出した。
ボクは思わず慌てて手を出す。
チョキだ。

「はい、アンタの勝ちね」

ボクは階段を六歩、進む。
ミサエは続けざまにジャンケンを繰り返す。
同じくミサエはパーを出して、同じくボクはチョキを出す。
ボクは階段を六歩、進む。

「何、この遊び?」

「アタシ、昔から思ってたんだけどさ」

「何?」

「パーとチョキが同じ六歩ってのが、納得いかないのよね」

「気持ちはよく解る」と言いながら、僕は階段を六歩、進む。
何度も何度もジャンケンを繰り返し、同じように六歩、進む。
ボクとミサエの距離は、少しずつ縮まっていく。

「だけどね、一発逆転できないのが、良いトコでもあるのよね」

「グーは地道すぎるけどな」

「パーは六歩、チョキは六歩、それは決められた事なのよね」

「グーは地道すぎるけどな」

「はい!ジャ~ンケ~ン……」

同じくミサエはパーを出して、同じくボクはチョキを出した。
ミサエとボクの距離は、ほとんどすぐ其処だった。
ボクは大きな声を出しながら、階段を登る。


「チ・ョ・コ・レ・イ・ト」


六歩。
ミサエの一段下。

チョコレートは六歩。
きっと、そのルールは、ずっと変わらない。
だけれどボクラは六歩の先、その先を知りたいんだ。

ミサエは鞄の中から何かを取り出す。
それから取り出したそれを、ボクの頭の上に乗せた。

「はい、あげる」

「は?」

「さっきから、チョコレート、チョコレート、うるさいから」

「は?」

ボクの一段先。
ボクの七歩目。

ミサエは階段を一段上から、ボクを見下ろして笑った。
それから「どうせ本当は一個も貰ってないんでしょ?」と余計な事を言った。
ボクはミサエの後を追うように階段を一歩登ると、ミサエの額を小突いた。

「痛っ!ちょっ!何すんの!」

「生意気だったから」

「なっ……!」

チョコレートは六歩。
きっと、そのルールは、ずっと変わらない。
だけれどボクラは六歩の先、その先を知りたいんだ。

雪道の上を、真っ赤なバスが走る。

真っ赤なバスはボクラの目の前を通り過ぎた。
その後を追うように、何台かの車が通り過ぎて往き、
おおよそ雪道には似合わない、小さなクーパーも走り抜けた。

「7を見付けたらさ、幸運なんだよ、タダオ」

ボクラは数日後には、受験を控えて居た。
ボクラは半月後には、卒業を控えて居た。

「どうせカタギリ君に渡せなかったチョコだろ」

「ははっ」

ミサエは短く笑うと、階段を登り終えた。
ボクはミサエの後を追うように、残りの階段を登った。
階段の頂上からは、ボクラの住む町の全てが見渡せる気がした。

遠くの清掃工場の煙突から、白い煙が見えた。

独り言のような清掃工場の煙突の煙は空気中に発散され、
冷たい空気は煙突の煙を凝固するように、それを白い風に変えた。
白い風は空気中を数秒だけ自由に舞った後で、溶けるように散り消えた。

ボクとミサエは、それをずっと見てた。
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