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肉食・眼鏡・ゴスパンク・&サイバー

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 別に何にも期待しちゃ居なかった。
 五階建てマンションの屋上から見える国道と灰色の校舎とトラックの走行音とゴミの日と、ゴミの日を守らずに棄てられて居るゴミと君の笑顔は同一線上に存在して要するに、青空が見えれば太陽がセットで見られると思って居る僕は考えが甘くて、君の笑顔なんて僕とは関係ない場所に存在して本日も手が届かない。しかし残念ながら屋上に吹く風は相変わらず気持ちが良く、僕は屋上に昇らざるを得ない。
 鳴島音が屋上から水風船を投げて、三秒後に小さな破裂音が聞こえた。恐らく地面は水浸しになったろうけれど、僕には関係のない事だった。「はっは! 今の見た?」
 屋上の鉄柵から身を乗り出すようにして、音は明確に笑った。乱暴にコントラスト処理された白黒画像のような、粗雑な笑い方だった。僕は音を見た。音が発したザラリとした砂のような質感の上を撫でるように柔らかい風が吹いて、音のミニ・スカートを揺らした。
「compression internal organs が値上がりするんだって」
 何処かで聞いた噂だな、と思ったけれど黙って居た。其れ以外、音も何も言わず僕達は数秒間、空を見上げた。へぇ、値上がり。compression internal organs なんて実在するのかも解らない。何処に売って居るのかも知らない。見た事も触れた事も無いのに、値上がりする事だけは知って居る。全く馬鹿げて居る。まるで神話の Pegasus と Perseus みたいにさ、僕と compression internal organs の関係なんて絵空事みたいだ。しかし鳴島音は、
「死んじゃうなぁ」――ネガポジに笑いながら二個目の水風船を空中に放った。


 放物線。


 自由落下。


 破裂音が小さく屋上まで響いて、ほとんど同時に女の悲鳴が聞こえた。三階に住む女子大生かもしれない。其の瞬間的な悲劇に、音は目を閉じて笑った。音は利発で聡明で勘が鋭く肩まで伸びた黒髪は艶やかで肌の色は白く理路整然として成績も良いけれど、三階に住む女子大生を襲った水風船の悲劇以上に、悲劇的に性格が悪いと僕は思った。目を閉じたまま親指と中指で眼鏡の縁を上げると、また愉快に笑った。「嫌な奴」
 ゴミの日は明日だ。一日早く棄てられたゴミの群れが、回収車の到着を待って居るけれど、其れは明日まで来ない。明確に来ない。待ち侘びるだけの本日は無駄に過ぎ行くだろう。
 僕も、音も、退屈だった。こんなにも退屈ならば、もっと生産的に退屈を過ごすべきだった。カラスでさえゴミを漁り、食事に在り付いて居る。携帯電話を取り出すと新着メールが一通。
「TSUTAYA行く?」
 寝転びながら言う。鉄柵から身を乗り出したまま、「はぁ?」
 音のスカートが揺れてパンツが見えたので数秒間、眺めた。よく晴れた夏の日の空みたいな色だった。地面で撥ねる水風船。風に揺れる草花。胞子。「旧作が全部100円だってさ」

 もしも本当に compression internal organs が値上がりすれば、庶民には手が届かない。大量の死者が出るだろう。この国は駄目だと嘯いた所で、僕達はこの国の住人だから決断しなければならない。死ぬか生きるか。否、生きるにはどうすべきか。
「何が観たい?」
 自分で決めるよ。肉食の獣みたいにさ。やはり音は笑った。眼鏡の奥で悲しそうに笑った。屋上の風は、音のスカートを何度も揺らして、其の幼くてイヤラシイ中身を露わにした。目に焼き付けておきたいと思った。其れから、触れてみたいとさえ。
 五階建てマンションの屋上から見える国道と灰色の校舎とトラックの走行音とゴミの日と、ゴミの日を守らずに棄てられて居るゴミと君の笑顔は同一線上に存在して要するに、青空が見えれば太陽がセットで見られると思って居る僕は考えが甘くて、君の笑顔なんて僕とは関係ない場所に存在して本日も手が届かない。しかし残念ながら屋上に吹く風は相変わらず気持ちが良く、僕は屋上に昇らざるを得ない。音は三個目の水風船を空中に放った。放物線。風に揺れる草花。胞子。種子。別に何も期待しちゃ居なかった。世界に破裂音は響くか。僕は泣きそうな気分になって、目を閉じた。次に目を開けると、もう其処に、音は居なかった。

 只、奇妙な静寂だけが訪れて僕は在りもしない、僕の中の compression internal organs を想った。
 其れは僕の脈動に合わせて疼き、僕の呼吸に合わせて吠えた。そして、鳴いた。
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[ 2010/05/16 23:05 ] 小説 | TB(-) | CM(-)
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