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アイン(your step means my setup.)

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「compression internal organs が値上がりするんだって」

「へぇ」と呟いたまま、サワコの言葉を遮るように、僕は歩き始めた。太陽は地面から垂直に伸びて、真上から直射的な熱風を、僕等に吹き込んでいる。噂話は嫌いだ。誰も得しないから。真実は大体の場合、真実以外にはならない。なってはいけない。
 ところが噂話は真実をいとも簡単に嘘に変えて、悪ぶる事も無く他人のフリをしている。誰にも責任が降りかからないのは丁度、真夏の砂浜で抱き合う恋人同士みたいなもんだ。
「責任は降りかからない。迷惑はかかる」
「それ何の話?」
「別に」
 グランシオ・スワップから南南西に伸びる国道を時速120㎞で進んでいたら、やがて海が見えるだろう。そういう話だ。
 要するに、「実体の無い実体が、真実に成り代わっているって話さ」
「よく解んないな」
 サワコは波音に耳を傾けて、もう僕の声なんて聞いちゃいなかった。僕だって同じだ。よく解んない事柄に、何とか意味を与えながら、わざわざ此処までやって来たんだろ。今更、失った荷物と、手に入れた荷物を、両天秤に架ける行為に、大層な意味なんてあるか?
「無いね。何も無い」
「何の話?」
「この言葉に意味なんて無いって話」

 言葉は虚構だよ、サワコ。
 ならば僕等の生死も同じ事。実体の無い実体が、真実に成り代わっている。エナメル質に濡れた海と、無色透明の空気。指に触れて感じるサワコの肌。何処にも差異なんて無いのさ。それなのに僕にとって、サワコが唯一絶対的に、サワコで在り続ける理由は何だと思う? 認識しているという事。欲求しているという事。それを疑ってしまうと、全てが成立しなくなるという事。
「笑うって行為に、よく似ているな」
「はははっ」
 恐らく意味も解っていないのに、サワコは短く笑った。眼前に広がる、静かな海を眺めたまま笑った。意味なんて無い事柄が欲しいよ、サワコ。認識できない欲求。僕は、それが欲しい。何をするにも情報が多すぎるんだ。情報に伴う理由が必要になる。理由は噂話に変わり、真実は嘘に変わる。誰も得なんかしないよ。宛を失くした迷惑だけが残るだろう。誰に? ――僕等の知らない誰かに。

「僕等の知らない誰か、ね」

 知らないという事は、存在しない事と同じか? 同じでは無い。見えないという事が、存在しない事と同じでは無いように。太陽が放射したガンマに、誰も気付かないように。サワコの悲しみに、僕が気付かないように。黒点が発生し、質量が増加し、紅炎が噴出したって気付かない。惑星が飲み込まれる最期の瞬間に、僕とサワコは悟るだろう。

「compression internal organs が値上がりするんだって」

「へぇ」、と呟いたまま、先程と同じ会話を繰り返した事に、僕は気が付いた。生命を維持する身体機能を、たった一つの臓器に圧縮し、半永久的に生きる事を、最初に望んだのは誰だ? だけど、それは噂話だよ、サワコ。誰が最初に望んだとしても、宛を失くした迷惑が残るだけだ。ところが誰もが半永久的に生きるなら、誰もが半永久的に死なないという事。宛が在るという事。だとしたら、それは。

「……それは、誰の為の命なのかしら」

 グランシオ・スワップの空は青く、土は赤かった。サワコが太陽を見上げて、一歩踏み出した。崖の上の小さな石が弾かれて、海に落ちた。 何にも意味の無い事で笑いたいんだよ、サワコ。喩えば明日、死んでしまう我が身だったとしても。僕等の全てが、もう手遅れだったとしても。

「月が昇るまで生きていよう。それを見たら、次は太陽が昇るまで」

 瞬間、宙ぶらりんの片足を止めたまま、サワコは笑った。
 何となく、僕も笑った。
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[ 2010/05/18 09:05 ] 小説 | TB(-) | CM(-)
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