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call my name. (she is Mosquito.)

路上に捨てられた空き缶なんて、あまり気にしない。

同じように沢山の何でもない出来事が、僕等の日常に散乱している。
とは言え実際のところ、最近は路上に空き缶が捨てられている場面なんて、
あまり遭遇する機会が無いから、もしかしたら少しは気にするのかもしれない。
きっと立ち止まる事もなく少しだけ嫌な気分になって、通り過ぎるんだ。

道の向こうから綺麗な人が歩いてきたら、僕は彼女を綺麗な人だと思うだろう。
だけれど決して触れ合うことは無く、名前を知ることさえ無い。
後生、二度と出会うことの無い人が大半なんだ。

脚色された物語のようにバッタリ再会する可能性なんてほとんど在り得なくて、
其れは実のところ路上に捨てられた空き缶を通り過ぎるのと大差ない。
僕は病的な禁煙社会に反抗するように煙草に火を点け、吸い込み、
叫びたい何かを押さえ込み、吐き出し、祈るみたいに考える。

只、僕は名前を知りたかったんだ。

この沢山の何でもない出来事を一瞬にして特別に変える魔法が一つだけ在るとして、
もしも路上に捨てられた空き缶に名前を付けたなら、僕は何となく其れを特別に感じ、
何となく拾い上げ、もしかしたらポケットに入れて持ち帰るかもしれない。
否、もしかしたら路上のゴミ箱に放り投げるかもしれない。

同じように決して触れ合うことのない綺麗な人が、もしも名前を知る人ならば、
僕は立ち止まり、手を上げて近付き、笑って話しかけたかもしれない。

吐き出された煙には名前が無い。
しかし肺の奥に吸い込んだ時点で、或る一瞬間、其れは僕の一部だった。
僕の一部は空中に白く円を描き、やがて溶けるように消えた。
振り返ると綺麗な人は、もう其処に居なかった。

絶望を地面に埋めてはいけない。
其れは地面に根を張らず、花を咲かせない。

だから僕は名前を付けたいのだ。
絶望には名前を付けて、希望で包んでしまうのが良い。
決して忘れず、立ち止まり、手を上げて近付き、笑って話しかけたいのだ。

見慣れた、しかし知らない空き缶が、僕の足元に転がってた。
僕は空き缶を拾い上げ、まだ火種の付いた煙草を、其の中に入れた。
そして名前を付けた。
ほんの短い季節、世界を自由に飛ぶ、嫌われ者の名前を。

瞬間、僕は其れを右手のポケットに入れようとして迷い、
雲の無い、しかし雨の降りそうな空中を眺め、息を吸い、
9m先に佇む路上のゴミ箱に向け、放り投げた。

其れはやはり美しい放物線を描いて、ほんの短い時間、僕等の世界を飛んでいた。
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[ 2012/04/11 15:34 ] 小説 | TB(-) | CM(0)
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