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ボクラが残したコトバ 第九話『証』

僕が寒い空に

吐き出す

熱くて白い空気。



君の冷たい肌に

吐き出す

熱くて白い精子。



どちらも生の証だ。



活き活きと巡る血液や

絶える事の無い思考や

止まる事の無い肉体が



熱くて白い

空気を

精子を

君の中に吐き出す。



生の証なんだ。










175148039_91.jpg
第九話 『証』










男は息を吐き出した。

口元から寒空へ向けて

白い息が漏れては散る。




静かだ。




淡く雪の降る

海の見える墓場。

花束を握る右手に少し力が入った。




目の前に佇む老女が此方を振り向く。




其の顔は

男が愛した女の其れだった。

綺麗で上品で繊細な容姿だった。






もう一度息を吐く。






再び漏れては散る、白い息。






老女は軽く頭を下げた。

思わず男も頭を下げた。

老女は薄く、微笑んだ。



此の街に来て初めての雪が

愛した女の墓に薄く積もる。



老女が墓の前で膝を落とした。

目を閉じて両手を合わせる。

男は老女の側に近付いた。



老女が立ち上がり

頭を下げて場所を譲る。



再び男も頭を下げて

膝を落とした。



老女が点けた

蝋燭の火と

線香の煙が

淡い雪の中に流れていた。



花を添える。



墓を見る。



冷たく固い石の塊だ。

其の上に深々と雪が積もる。

此の冷たく固い石が

嘗て

語り合った意識でも

抱き合った肉体でも

熱くて白い空気を吐き出さない事も

熱くて白い精子を受け入れない事も

愛した女でも

其れ等全てでは無い事は解っていた。



笑わない

泣かない

石の塊だ。



なのにどうして

こんな場所まで来ては

女を思い返すのだろう。



線香も何も用意していなかった。

不意に老女が手を出す。

其の手に線香が在った。



頭を下げて受け取ると

線香を蝋燭に近付けた。




弱い火を灯し煙り出す。


男は目を瞑り手を合わせた。


墓に向けて。


女に向けて。


男に向けて。






なぁ、輪花。

現実とは何だろう。

君と僕だった理由は何だろう。



なぁ、輪花。

生死とは何だろう。

君と僕は

確実に存在したのだろうか。



其れとも

確実に存在した気になってるだけだろうか。



なぁ、輪花。

目の前に存在しない君を

見えない君を

喋れない君を

触れない君を

冷たく固い石の君を

こうして求める事は

正しい事なのだろうか。






男は熱い白い息を吐いた。



寒い空気に舞っては散る。



ゆっくりと立ち上がると。



老女に頭を下げた。



老女も頭を下げる。



綺麗で上品で繊細な容姿。



愛した女が

イキ続けて

年をとれば

こう成長していたのだろうか。






「初めまして」



男は口を開いた。



「彼女の、お祖母さん、ですよね」



男は横目で墓を見ると、そう言った。



「初めまして」



もう一度言う。






老女は頷くと、少し寂しそうに、笑った。



雪が深々と降っていた。



此の街に来て初めての雪。





荒ぶる波。



静かな墓。



男も、老女も、息を吐いた。



熱い、白い、息を吐いた。






老女が


墓に薄く降り積もった


雪を


手で払おうと近付いた。




其の手を男は止めた。




「ごめんなさい。一緒に見ているので」




雪が深々と降っていた。



此の街に来て初めての雪。



実に静かな時間だった。



随分と長い時間。



誰も何も言わなかった。






不意に

遠くからバスのクラクションが聴こえた。






老女が言った。



「貴方は随分と、此の娘を愛してくれていたんですね」



只、其れだけ、言った。






線香や蝋燭を片付け始めた。






一日のバスの本数は

あまり多くないので

帰りも一緒になるだろう。



最後にもう一度

男は女の墓を見る。








只の冷たく固い石の塊だ。








其れでもやはり

何時か必ず男は

再び此処に来るのだろう。














証だから。














男と老女は歩き出した。



ペンキも剥げかけたような

小汚い町営バスに乗り込み

独特のゴムのような臭いと

所々ボロボロの椅子に座る。

大して愛想も無い放送が車内に響き

バスは走り出した。



バスは無人だった。

其れでも何故か

男と老女は隣り合わせに座った。

特に会話らしい会話は無かった。






「生きていれば」






不意に絵描きの男の言葉が浮かんだ。






生きていれば

何時でも君を思い出せると思う。



生きていれば

時に君を忘れながら生きてる。



生きていれば

其れでも何時でも君を思い出せると思う。






「生きていれば」






生きていれば

君が生きていた日々を思い出し。

果たされなかった約束に泣いて。

不甲斐の無かった自分に悔やみ。


生きていれば

君が生きていた日々を思い出し。

後悔と懺悔を繰り返しながらも。

こうしてモガクように成長する。






「生きていれば」






そして明日からも生きる事ができる。

泣いたり悔やんだり笑ったりできる。






僕が生きていれば

君が生きていた証になる。














窓の外の雪は止みつつあった。














単調で愛想の無い車内放送が響く。

夕方を過ぎて外はもう暗かった。

間も無く最終駅だ。



不意に老女が口を開いた。



「何故か何時も持ち歩いていたのだけれど」



そう言うと

鞄の中から何かを取り出した。

数冊の小さな本のようだった。

少し古いモノから割と新しいモノ。

数冊。



「是は貴方が持っているのが良いと思います」



そう言うと其れ等を男に差し出した。

思わず手を出して受け取る。



「あの娘を愛してくれて、どうも有り難う」
















日記だった。
















バスがゆっくりと止まり

放送と共に乗降用の扉が開いた。



老女は頭を下げ

少しだけ笑うと

バスを降りた。



だから男も頭を下げた。



上品な背中。






女が生き続けていたら

あんな姿になったのだろうか。






僕が寒い空に

吐き出す

熱くて白い空気。



君の冷たい肌に

吐き出す

熱くて白い精子。





どちらも生の証だ。





活き活きと巡る血液や

絶える事の無い思考や

止まる事の無い肉体が



熱くて白い

空気を

精子を

君の中に吐き出す。














バスを降りると





冷えた肩にギターケースを





ズシリと重く乗しかけて歩き出す。














熱くて白い、命の証を、吐いた。
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[ 2013/11/19 20:08 ] 長編:ボクラが残したコトバ | TB(-) | CM(0)
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