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ボクラが残したコトバ 第十話『現』

吐いて捨てるほど在った

大切なモノを

今じゃ日々探してる始末で。



別に無くたって良かった

余分なモノが

今じゃ日々積み重なっていく。



ヒビ割れた部分から

サラサラとコボレタ

ボクラの大切なモノ。



例えば

ボクラが残したコトバ。



他愛も無い

あの日のコトバとか。

意味も無い

あの日のコトバとか。



其れ等が

何時だって

後になって

オモイ意味を持って

ボクラの前に現れるのは

何故なんだろう。










175148039_91.jpg
第十話 『現』










冷えたシャッターが下ろされた。

退出を促す音楽が流される。

次々と店が閉じられていく。



同時に繁華街を歩く顔触れは変わる。

昼間の健康的な雑音とは別種の雑音が始まる。

夜の街は少しずつ其の様相を変える。



男は白い息を吐く。

ギターケースを背負い直す。

昼に一度訪れた百貨店に向かっていた。



百貨店の

閉じられた大きなシャッターの

其の前。

以前に歌う女が歌って居た場所。



もしも会えたら

自分はどうするのだろう。

自分はどうしたいのだろう。



歌を聴いたり

話し掛けたり

そういう事がしたいのだろうか。

偶然に一度見ただけの女に対して

自分は一体何を求めてるのだろう。



実の所

男にもよく解っていなかった。

只、もう一度だけ会って見たかった。



愛する女を無くした後に

漠然と歌い始めた自分に

行く先を示してくれた女。

今はどう生きてるのだろうか。

少し気になっただけだと思う。



今も彼処で歌っているだろうか。



少し足早になった。



仕事を終えたのであろう

見知らぬ沢山の男や女が

一日分の疲労と雑音を連れて

或る者は笑いながら

或る者は考えながら

或る者は疲れながら

繁華街を歩く。

酒でも飲みに行くのだろうか。



男と擦れ違って行く。



何の意外性も

何の物語性も

生み出さないまま

擦れ違って行く。



顔も見ぬまま

名も知らぬまま

淡々と

擦れ違って行く。






実に現実だ。






痩せた男と肩がぶつかる。

ギターケースが落ちかける。

頭を下げたのか下げないのかも

よく判らないままに通り過ぎて行く。






皆、淡々と、歩いて、行く。






男は冷えた両手を

深くポケットの中に突っ込んだ。



遠くに百貨店が見えた。

次の信号を渡って右に曲がれば

閉じたシャッターが見える筈だ。



熱い白い息を吐く。

ギターケースを背負い直す。

男は更に足早に歩き始めた。



歌う女。

女は歌って居るだろうか。

元気に歌っていると良い。

あの日のように

大きな口で。

大きな声で。






信号は青だった。



思わず走り出す。



角を右に曲がると



閉じたシャッターが見える。



そして其の前に




















歌う女は居なかった。




















仕事帰りの男と女が通り過ぎる。

此の街の普段と何ら変わらぬ風景。



女が居るべき場所には

知らない男が

同じように地べたに座り

民族楽器を演奏していた。



女は居ない。

力が抜けた。

民族楽器の太鼓の音だけが響く。






単調で複雑なリズム。






立ち止まり

男は煙草を取り出して火を点ける。

其れからゆっくりと

民族楽器を演奏する男の元へ近寄る。



民族楽器を演奏する男の前に座る。

演奏する男は顔を上げ少し微笑む。

煙草を吸いながら演奏を聴く。



楽器の横には小皿が置いて在り

其の上に線香が炊かれて在った。




独特の匂い。




演奏する男は素早く手に白い粉を付けると

再び民族音楽を奏でる太鼓を叩き始めた。



単純なリズムに合わせて

複雑なリズムを重ねていく。



遅れていたリズムが

気付くと追い付いたり

先走っていたリズムが

巡り巡って元に戻ったり

ズレているように聴こえて

実は其れが最適のリズムに他ならない。



演奏を一通り終えると

演奏の男は頭を下げた。

だから男は拍手をした。

其れから重要な事を訊く。




「以前に此処で歌って居た女性を知りませんか?」




先刻、自分の手に付けていた白い粉を

今度は民族太鼓の上に塗しながら

演奏の男はゆっくりと首を捻った。

自分は最近此処での演奏を始めたので

よく解らないというような事を言った。



男は大きく煙草の煙を吐き出す。

地面で煙草を消すと立ち上がった。

礼を言い小銭を小皿の中に入れる。

再び歩き出した。



独特の線香の匂い。

単調で複雑なリズム。

其れ等は未だ残っていた。










吐いて捨てるほど在った

大切なモノを

今じゃ日々探してる始末で。



別に無くたって良かった

余分なモノが

今じゃ日々積み重なっていく。










行く宛は無かった。

此れ以上歩き続ける理由も無かった。

後はもう眠るだけだ。



朝からギターを抱えて

電車に乗ったりバスに乗ったり

女の墓参りに行ったり

街中を歩き続けたりで

男は疲れ果てていたし

後はもう眠るだけだった。



ギターケースを背負って

冬に熱い白い息を吐いて

墓に行っても

百貨店に行っても

どんなに頑張っても

例えば祈っても願っても

此処に居ないモノは居ない。






実に現実だ。






疲れた。

肩と足が痛かった。

もう此のまま倒れこんで

路上で寝ても良いなと思った。



其の場に立ち止まり

ギターケースを置きそうになる。

頭の中を単調で複雑なリズムが響く。














腹が減った。














此の街に来て未だ何も食べてなかった。

前を見ると牛丼屋の看板が光っていた。

眠る前に、とにかく腹が減った。






店に入る。






店員の掛声。

椅子に座る。

ギターケースを降ろす。

そして注文。



大きくない店。

店内は暖かい。

窓の外を見る。

何気ない欠伸。

注文の品が出される。



暖かそうな湯気。

割箸を取り出す。

男は牛丼を食べ始めた。



食べながら何気無く店内を見渡す。

狭い店だが此の時間の客は少ない。

そろそろ年末という事もあるだろう。




















「おかわり!」




















突然

斜め後の席の客が大きな声で言った。

思わず其の声が聞こえた方向を見た。












女。












愛した女に似た女。


いや


歌う女が其処に居た。




頭の中を単調で複雑なリズムが響く。


探しても見つからなかった女が其処に居た。


男の視線は歌う女の元で固まってしまった。






どうすれば良いのだろう。






目の前に



届く距離に



歌う女が居る。






だからと言ってどうすれば良いのだろう。



元々会えたらどうしようとは考えてなかった。



歌っている姿が見られれば其れで良かった。



其れがこんな場所で会うとは。






「お待たせしました」






店内に店員の声が響く。

歌う女の前に牛丼が置かれた。



男は少し冷静に考えた。

歌う女は此処の常連なのだろうか。

店員はおかわりの一言だけで理解していた。

彼女は何時も此処で二杯の牛丼を食べるのだろうか。



そう考えると何故か急に可笑しくなった。

歌う女を見たまま思わず笑ってしまった。



其の小さな笑い声で

歌う女が此方に気付く。

怪訝そうな顔をしながら。



失策ったと思いながらも

男は何か話し掛けようとした。

だが先に口を開いたのは歌う女だった。










「あ、一万円の男」










「え?」










男が聞き返す。

今度は歌う女が、失策った、という顔をした。

そして誤魔化すように笑った。

歌う女が話し掛ける。



「覚えてます? 以前に私の歌を聴いてくれた事?」



男は大きく頷く。




「其の時に一万円くれたよね? 私もうビックリして!」




歌声と同じ元気な喋り方。


妙に不思議な感覚だった。


歌う女が自分を覚えていた事に驚いた。


男は口を開く。




「今は、もう、歌は?」




すると歌う女は楽しそうに笑った。


そしてテーブルの横を指差す。


其処にギターケースが在った。




「良かったら今から聴きに来ません?」




歌う女が言った。

男は更に大きく頷いた。

牛丼の残りを掻き込む。

店を出ようと立ち上がる。

男はギターケースを背負う。

すると歌う女が言った。



「あれ? 君もギターを?」



男は笑って頷いた。



歌う女も、笑った。



男が動き始める。



歌う女が慌てて手を伸ばした。



男のコートを掴んで静止する。






「ちょっと待って! まだ牛丼、全然食べてない!」






互いの顔を見詰め合わせる。






二人は大きく笑った。










共に店を出て歩き出す。



其れは実に妙で不思議な感覚だった。






外は先刻と変わらず寒い筈だが

何故だか全然気にならなかった。



女は今は駅前で歌っているようだった。

百貨店のシャッター前は少し前に

酔っ払いの暴力沙汰が起きたので

其れから場所を変えたのだと言っていた。






駅前に着くと

女はギターケースを開き

使い慣れたギターを取り出した。






沢山の小銭と四枚の紙幣が入っていた。






男は思わず訊いた。



「今日の稼ぎ?」



女は笑いながら言った。



「少し、違うかな」



其れから更に



強いような弱いような



微妙な視線でこう言った。










「其の四枚は、私の自尊だから」










そして笑った。










寒い空気に白く熱い空気が混ざった。





歌う女は、ギターを弾き、歌い始めた。





何時か見た姿のように





大きく大きく大きく





大きく大きく大きく





歌っていた。










男は座りながら


歌に聴き入った。




愛した女に似た女。


此処で歌を歌う女。




寒い空に白い息が大量に舞った。




輪廻する花のように。


大切に種子を蒔いて育てる。




輪廻する花のように。


色んな想いが散っては咲く。




輪廻する花のように。


そうして僕等はイキ続ける。












なぁ、輪花。


きっとそうだろう?












歌う女の演奏が終わる。

男は大きく拍手をする。

そして言う。



「実はね、今日はずっと君を探していたんだ」



女は不思議そうに訊き返す。



「え、どうして?」



男は笑って言う。



「其れがね、どうしてか僕にも解らないんだ」



女も笑って言う。



「ふぅん、何だか適当なのね」



男は楽しそうに笑った。






吐いて捨てるほど在った

大切なモノは

今じゃ日々探してる始末だし。



別に無くたって良かった

余分なモノは

今じゃ日々積み重なっていくけれど。





ボクラが伝えたかったコトバは



不器用なコトバは



大切だったコトバは



言えなかったコトバは




どれだけ手元に残っているのだろう。






冷えた冬空。


空気は澄んでいる。


何処までも透明で


壊れそうに繊細な


冷えた冬空の空気。




座りながら


ギターを弄りながら


最後に男が女に訊いた。








「あのね。

 二つの異なる特出した才能が

 或る一つの時期に

 或る一つの場所で

 同時に共存している事がある。



 例えば其れは

 ビートルズで言う

 ポールとジョンのようなモノで。



 でも思うんだ。

 二つの異なる才能は果たして

 最初から特出していたのだろうか。



 其れとも

 一つの場所で共存する事によって

 其の結果で特出し得たのだろうか。



 なんてね。



 なぁ、君はどう思う?」





女が答える。





「そうねぇ、そんな事どちらでも良いわ。

 其れよりもお互いの自己紹介をしない?」





男は笑った。





もっともだ。





「一緒に、歌わない?」





男はギターケースを開いた。



そして女と共に歌い始める。



一緒に歌いながらイキ始める。



どんな歌声が響き渡るだろう。



一人では無く、例えば二人で。



ボクとキミが歌えば。


















ヒトと関わってイコウ。


















雪は降るし。



雪は溶ける。



ボクラはコトバを残していく。






吐いて捨てるほど在った



大切なモノを



今じゃ日々探してる始末で。






別に無くたって良かった



余分なモノが



今じゃ日々積み重なっていく。






そんな中で






僅かに手元に残る大切な何か。






そう






其れが






此の紛れも無く






此のうざったく






此のかけがえなく






此のクソったれの






此の現実の真ん中で






















ボクラが、残した、コトバだ。

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[ 2013/11/20 20:08 ] 長編:ボクラが残したコトバ | TB(-) | CM(0)
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