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水の中のニコ。

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ニコへ。

結局、僕等は何だったんだろう。
今は夜で、僕の部屋の窓は開いていて、音はひどく少ないよ。
何も聞こえないようでいて、しかし、まるで何も聞こえない訳ではない。

微かに聞こえる音は、音とも呼べぬほど微かで、だけれど、やはり音だ。
其れは季節外れの夏の虫の音だったり、風の音だったりする。
雨で濡れた路面を、銀色の軽自動車が走り抜けた。
其れは直線的に音を滑らせ、そして消えた。


親愛なる、ニコへ。

実際、僕等は何だったんだろう。
今ならば上手く出来ることは、今だから上手く出来ることだよ。
後悔する必要なんてないよ、だけれど平気な顔なんてしないで欲しい。

僕等が繋いだ手の、指の、爪の温度を、その感触を、僕等が手放したとして。
其の瞬間の音を、匂いを、ともすると光の形さえ、手放したとして。
あの瞬間の、僕等の色を、其の名前を覚えているかい。


水の中の、ニコへ。

僕等は、透明だった。
其れにわざわざ色を付けたのは、僕等自身だよ。
僕等自身の深さで、浅はかさで、届いた光の量で。
僕等は鮮やかに色を変えた。変えてしまった。

闇は、黒と同義ではない。
あれは多分、光の届かない透明のことだよ。

光は、白と同義ではない。
あれは多分、僕にとっては、君のことだった。

其れで僕等は、光の量と、深さと、浅はかさによって、
やがてお互いの色を、見失ってしまったのだろう。
ニコ、今の君に届く光の量を、僕は知らない。


いつか、全て忘れてしまう、ニコへ。

水の底でも、花は咲くのかな。
いつだったか君は、そんな話をしていた。

多分、咲かないと思うよ、僕は。
水中に造花を添えて、悦に浸る気分でもないよ。
だけれど君が沈むならば、僕の記憶の奥底に、このまま沈むならば。
水の底にも一輪くらい、花が咲けば良いのにと思う。

息を静めて。
或る時期と瞬間、僕と君の間に沸き起こった、出来事と感情を鎮めて。


君へ。

無音と静寂は違って、今のこれは静寂に近くて、まだ僕は君を思い出している。
だから、全く世界に何も存在しない訳ではなくて、何も知らない訳でもなくて。
消しゴムで消した文字が、しかし、事実が全て消えた訳ではないように。
微かに。水中で揺らぐほどの重ささえもなく、微かに。

透明なまま。

水だけが存在している。

君の名も忘れ果てた場所で。

透明なまま、揺れている、揺れている。

宛を失くした種だけが、宛もなく水中に浮かんでいる。
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[ 2014/09/14 00:39 ] 小説 | TB(-) | CM(0)
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