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フライングマン

だからね、君はダメなのよ。
やりたいこともやらずに、やらない理由ばかり上手くなって。

高度に複雑化された堅牢な自我と自尊をホイップクリームで飾り付けて
また他人を誘っているのね、チョコレート・ソースはいかが?
それでアナタ、本当は――

「僕は本当は、何になりたかったんだと思う?」

思わず一口、水を飲み、それからクリーム・パスタを口に運んだ。
窓辺の席からは絶景が見渡せるはずだが、今、それは見えなかった。
電車が走り抜けて(音も立てずに)、すぐに糸くずのようになった。

「糸が繋がっているとして、何処に繋がっているかが問題なんだ」

器用に巻き込んだパスタが、再び口に運ばれる。
それは何処にも繋がってなどいないが、糸を絡めながら落ちていく。
希望を、大量の水で胃の中に流し込んで、吐き出さないように必死なのだ。
落ちた糸の行方を追い、また選択する。

それとも、すでに選択は終わっていて、
ただ、延々と惰性の中でもがいているのかもしれない。

「僕は、その糸が君に繋がっていれば良いと、何度も思ったよ、しかし」

自問しているのね、かわいそうに。
真綿を敷き詰めたベッドで眠りましょうか、それから温かいスープを。
叶わない願いと、錆を払い落としながら手に入れる、手垢のついた現実を。
驚くほどの嘘と、嘘の倍の真実を。

「君は擦り抜けるんだ、指を、僕の気持ちを知りながら、いつも」

どうせならば、嘘とも見抜けぬ嘘を、嘘とも言わずに、吐き続ければ良いのに。
やがてそれは真実みたいになって、真実はアナタを信じるのよ。
信じた嘘がアナタを形成し、やがて真実の嘘になる。

「それで僕は何者でもない誰かになって、振る舞っている」

雪が、舞っている。
地上から空中へと、翻弄されるように、舞っている。
駅前で、宛を失くした人達が、佇みながら何かを待っている。
何処へ行くにも、此処が出発点で、何処へ行くにも、此処からは遠すぎる。

渇いたパスタを、それでも巻き付け、口に運んでいる。
水を飲む。理由もなく笑う。満たされないことは解っている。しかし運ぶ。

「振る舞っているうちに、きっと僕は”それ”になってしまうだろう」

咀嚼して、消化して、吸収して。
カラになった(しかし汚れた)皿を眺めて、またこう言うのでしょう。

「こんなことがしたい訳ではなかった」

それでアナタ、カラになった(しかし汚れた)皿を、どうしようというの。
割るのも、捨てるのも、洗い直すのも自由なのに。
まるで世界が終わってしまったみたいに。

動機と理由が必要なのだとして。
明確な意図が必要なのだとして。

ならば何がしたかった。
それでアナタ、本当は――

「僕は本当は、何になりたかったんだと思う?」

空中でフォークを回転させても、何も巻き付きはしなかった。
そこに意図はなく、等しく糸らしきものもなかった。
だからアタシは最後に、こう言うのよ。

「甘いモノは、好き?」

アタシがアナタの、デザートになってあげる。
食べ尽くして、飲み干して、満たされたまま、果ててしまいなさい。
何も達成せず、何も後悔せず、何者にもなれず、何者かになりたがり続けなさい。

さぁ、次の皿が運ばれる頃よ。

「僕は君が望む君になりたかった。それこそが僕だった。
 しかし君は実体の見えない靄のようで、触れることさえできない。
 否、実際は触れているのかもしれない。しかし感覚がない。それが僕は悲しい」

だからね、君はダメなのよ。
やりたいこともやらずに、やらない理由ばかり上手くなって。

高度に複雑化された堅牢な自我と自尊をホイップクリームで飾り付けて
また他人を誘っているのね、チョコレート・ソースはいかが?



――もしもそれが厭ならば、今すぐに、餌を求めて飛ぶのよ。

糸なんて無い、空中へ。
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[ 2014/11/04 03:12 ] 小説 | TB(-) | CM(0)
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